第18話 見捨てられた魔女

俺達はイバヤ遺跡と言うダンジョンの調査のクエストを遂行している最中、別の冒険者パーティーと鉢合わせ、逃げるように言われた。

そこにセリカがその連中に仲間を見捨てていないかの質問をストレートにぶつけた。


「実は、もう一人仲間がいるんだ」

「何?まさかアンタら……」


剣士のような男がそう口を開き、俺は疑惑と怒りが込み上げる。


「でも、自ら囮になって俺達を逃がしてくれたんだ」

「一緒に逃げようって言ったけど、私が守るからって言って殿を務めてくれたの!」

「うぅぅ、それでも守るために自ら……」

「……」


彼らは嗚咽や涙が混ざりながらの声をひねり出し、俺は息を飲んで聞いていた。


「それならどうして助けに戻ろうとすらしないんですか?」

「え、いや、だから強いモンスターがいるから……」

「倒すのは無理だろうけど、協力し合って何とか逃げるって方法も取れたはずなのに……」

「だって……」

「……ッ!」


俺は他の方法もあったのではないかと質問をぶつけたが、まるで理由を付けてやりたがろうとしない振る舞いに怒りを覚えた。


「トーマさん……」

「あぁ、行こう!確かこの奥だったな」

「ハイ!」

「え、まさか助けに向かうとかじゃ……」


俺はセリカと眼を合わせた後にダンジョンの奥に向かおうと動き出す。

剣士の男性一人が呆けたような顔を見せる。


「当たり前じゃないですか!このままじゃ寝覚めが悪いです!」

「逃げたい人は逃げて結構です!」

「えぇ……」


俺とセリカはダッシュで向かい、3人は少しボーっとした後に出口に向かって歩いていく。

その中で俺達を追いかけようとする者も、助けに戻ろうとする者は一人としていなかった。

俺は薄情だなと思いながら、嫌な仮説も巡らせていた。





俺達は囮を担っているとされる冒険者を助けるために向かっている途中……。


「セリカ、これって……」

「はい、ところどころに【炎魔法】や爆破を引き起こすアイテムが使われた形跡がありますね。恐らく、天井や壁を壊してガレキの壁を作ったんでしょう……」


走っている中で、大小混じりのガレキなどが散乱していた。

さっきのパーティーの人がやったのかと疑問に思いながら進む。


「……ッ、トーマさん、止まって下さい!」

「ん?」

「人の気配がします。もしかすると……」


セリカの【気配探知LV.1】に引っかかったのか、俺を止めさせた。

静かに耳を澄まし、慎重に歩いていくと……。


「うぅ……」

「「‼」」


曲がり角から一人の女性が左腕を抑えながらフラフラと歩いて来た。

明らかに傷と疲労でいっぱいの様子に俺達は駆け寄る。


「君、大丈夫か?」

「かなりやられている!待ってて下さい、今治しますから!」


セリカは手際よく大きめなガレキの近くに運んで座らせ、俺はマジックバッグからダンジョンに入る前に入手していた傷を治すポーションを彼女に飲ませた。

すると効いてきたのか、少しずつ傷が消えていった。


「……ん、ここはって……」

「大丈夫ですか、他に痛むところはないですか?」

「今、ポーションを飲ませたんだ」

「……」


そうして女性は目をゆっくりと開いて頷いた。

本当に逃げ回りながら囮を務めて逃げ回っていたためにグッタリした様子だが、幸いな事にさっきの冒険者達が言っていたモンスターは近くにいなかったのが幸いだ。


「助けていただき、本当にありがとうございます」

「私はミレイユ、ミレイユ・パプリフォスです。」

「俺はトーマ・クサナギ、彼女はセリカ・ブレンフィアだよ」

「初めまして。セリカです」


ミレイユが正座して感謝しながらお辞儀をした後、互いに自己紹介し合った。

セミロングヘアの黄色を少し混ぜた茶髪の髪型をしており、顔立ちも少しススに塗れているが、セリカに負けないくらい容姿が整っている。

服装自体はゲームや漫画にもよく出るような魔女のテンプレと言っていい紺色を基調にした格好だが、今はあちこちボロボロだ。

左腕部分はかなり破れていて、左脚部分も……って何を考えているんだ俺は!


「君、もしかしてパーティーを逃がすために囮を担っていた子かな?」

「え?」

「ここに向かう途中で君と組んでいたパーティーメンバー3人と偶然出くわしてね。聞いた話だと、その人達を守るために自ら囮になる役割を買って出たって言ってたんだ」

「……」


俺はミレイユさんがさっきの冒険者3名の仲間であり、さっき俺達が会ったばかりな事、囮役を買って出てくれた事を打ち明けた。


「違うんです」

「ミレイユさん?」


するとミレイユさんが苦しそうな表情で俯き、気付いたセリカが声をかける。

彼女の様子を見て俺は悟った。そして……。


「私は逃がすために進んで囮になったんじゃないんです!」


「私……、囮役を押し付けられて、彼らは私を置いて逃げたんです!」

「「……ッ!」」

(やはりか……)


ミレイユさんは悲しい表情に唇を噛み締めながら事の顛末を打ち明けた。

端的にまとめると、ミレイユさん達は奥側に向かう途中、強力なモンスターと遭遇してしまい彼女の元仲間である剣士のリーダーがある作戦を立てて実行する流れになった。

ミレイユが魔法を撃ちまくってダメージを与え、その隙に一人の女の支援職がリーダーや男の僧侶による残りの魔力を使用し、強力な攻撃を放ってトドメを刺す一発逆転を狙うものだった。

ミレイユは撃てる限りの魔法でダメージを与え、炎魔法を当てた事による黒煙が広がり、望んだ状況を作り出せた。

しかし―――――


3人の姿はなく、代わりにあったのは魔法やアイテムで天井や壁を壊して発生したガレキによって作られた壁だった。

そう、ミレイユさんを最初から捨て駒にする腹積もりだったのだ。

それから何とかして逃げ回り、見つかっては襲われて、心許ないアイテムを使って何とか俺達と合流して、今に至るというわけだ。


「彼等は虚栄心が強いから、もっと冒険者ランクを上げる事に必死だったんですよ」

「その上、私が一番年下であるのを理由に、雑用や面倒なやり取りを押し付けてきたり、屁理屈を言っては報酬も少ししか渡してくれなかったりもありました」

「イバヤ遺跡のクエストを引き受けたのも、財宝目当てだったんです」

「それで今回起きた事を利用して、我が身可愛さに私を囮役にさせて体よく始末しようとしたんでしょう」

「ヒドイ、仲間を何だと思ってるんですか‼あの人達は‼」


優しくて正義感が強いセリカは相当怒っていた。

ミレイユさんの悲壮な表情から伝えられた話を聞いて俺も怒りを覚えた。

少しの沈黙が続いた。


「話は分かった、セリカ、ミレイユさん、今はここを出よう」

「……ッ?」

「トーマさん?」

「一度態勢を立て直しておきたいのはあるけど、ミレイユさんも服も大分ボロボロになっているし、体力も消耗しているからね」

「はぁ……」


俺は気を取り直して一旦地上へ出る決断を下した。

セリカやミレイユさんも少しきょとんとした。

ミレイユさんを見捨てた連中に怒っているのは確かだが、ここで発散させても仕方がない。

そのモンスターとやらに遭遇して戦うのも避けたい。


「それもそうですね、私も賛成です。ミレイユさん、まずはここを出ましょう!今後の事は、その時考えていきましょう」

「ハイ」

「じゃあ決まりだな」


セリカも切り替えて俺に賛成し、ミレイユに手を差し伸べた。

ミレイユも少し落ち着いたのか、その表情にも僅かに明るさが見えた。

そうして俺達は出口に向かって歩いていく。

それから5分して―――――


ズシン!


「「「……ッ!?」」」


歩いている方角から鈍い音がした。

まさか……。


「あのー、あれって……」

「もしかして、ですけど……」

「あー、はい」


俺達は冷や汗をかきながら互いにそれぞれ顔を見やり合った。

重く響く足音がドンドン近付き……。

そいつは現れた。


「ガーーーーー!」

「「「で、出たーーー!」」」


デカい咆哮をあげながら現れたのは、体長が4メートル以上はあろう大型のモンスターだ。

ミレイユさんの言っていたDランクパーティーで手に負えない例のモンスターだった。


(か、【簡易鑑定】を発動しなければ……。)


後ずさりしながら俺は【簡易鑑定】を発動し、速やかに確認した。


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


名前:オーガナイト

種族:オーガ

レア度:D

スキル:

【概要】

オーガの上位種。

下位種のオーガに比べると武器を扱う知性はいくらか発達している。

基本的に武器を握って振り回す戦闘スタイルだが、その分パワーと頑強さはレア度Dの

モンスターの中でも指折りであり、下手なレア度C以上のモンスターを凌駕し得る。


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


黄褐色の肌に一本の角が特徴的なオーガだが、このオーガナイトは右手に大剣、左手に盾を持っており、両脚にはお城の騎士が付けているような甲冑も身に着けている。

ナイトの名前は伊達じゃないって事だ。


「こりゃ、ヤベーぞ」


俺達はオーガナイトと向き合った。

汗を噴き出し、表情を強張らせながら……。


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