第17話 心機一転…新たな仲間探し
冒険者ギルド【アテナズスピリッツ】のマスターであるカルヴァリオさんに異世界から来た俺について説明を受けた一夜、昼過ぎの林の中でセリカと剣を振っていた。
「オラッ!」
「ハァッ!」
「「グォォー!」」
ゴブリンポーン数十体とゴブリンソルジャー数体を相手にし、セリカと絶賛討伐中。
比較的小規模のコロニー殲滅だ。
どちらもEランクとFランクのモンスターであるものの、スライムと比べても肉体的な強度や身体能力も少し高いのもあって、先日のスライムのコロニー殲滅よりも難易度が高い。
ゴブリンポーン自体は【腕力強化】を上手く使って倒していったが、ゴブリンソルジャーはまあまあ知性があるので今の俺には中々厄介だ。
「よし、ここだ!」
俺は覚えたてのスキルである【脚力強化】を発動した。
すると足に力が漲るような感覚になっていき、強く踏み込んで攻撃を躱しながら、ゴブリンソルジャーの懐を取った。
「突き上げだー!」
「グォォォーー!」
俺は握っていた剣で鳩尾を思い切り突き刺し、斜め45度に一気に切り裂くと、ゴブリンソルジャーは倒れて光の粒子となって消えた。
「ガァァーーー!」
「ッ!?」
そこで別のゴブリンソルジャーが飛び掛かり、俺は改めて向き合う。
「ガバッ!?」
瞬間、ゴブリンソルジャーの左胸がザックリと斬られ、崩れ落ちながらこちらも光の粒子となって消えた。
「トーマさん!大丈夫ですか?」
「セリカ、済まない!」
「もう少しです、頑張りましょう!」
セリカの【風魔法LV.1】で放たれる『ウインドスライサー』が見事に決まり、助けられた。
俺達は後3体のゴブリンソルジャーと20体近くのゴブリンポーンと向き合い突っ込む。
そして…。
「終わったー!」
「お疲れ様です!ではギルドに帰りましょう!」
俺達は見事にゴブリンのコロニー殲滅を終えた。
ゴブリン達の魔石とコロニー殲滅した証拠のシンボルを手にティリルへと向かった。
俺が覚えている限りでは、ゴブリンポーン約30体とゴブリンソルジャー2体を倒し、後はセリカがほとんど殲滅した。
「にしてもセリカのあの風魔法凄かったなー、まるで台風みたいだったよ」
「自然現象の台風には到底敵いませんよ」
セリカは【風魔法LV.2】を習得しており、その威力は【風魔法LV.1】から放たれる『ウインドスライサー』とは比べ物にならない強力な魔法も持っている。
さっきのゴブリンのコロニー殲滅も【風魔法LV.2】による『デルタウインドスパイラル』と言う3つの鋭く圧縮した大気を槍のように放つ魔法によるモノが大きく、放った後はモンスターが全滅するばかりかその近辺の植林が根こそぎ消えていた。
魔法がレベル一つ上がると威力も規模も違うと聞いていたが、それを目の当たりにした。
同時にセリカのポテンシャルもまだまだ凄いと実感させられた。
その分セリカの表情も心なしか、ちょっと疲れ気味ではあったが、問題なく動ける状態だから大丈夫と思っている。
「俺も魔法とか習得できるかな?」
「トーマさんは『何でも屋』ですから、可能性はゼロじゃないと思いますよ。」
「カルヴァリオさんが言っていたように、強力なユニークスキルが発現する可能性もありますので、今は焦り過ぎない方がいいと思いますよ」
「それもそうだね」
こんな感じでやり取りし終えているとギルドに戻り、コロニー殲滅の報告を終えた。
「じゃあセリカ、少し遅くなったけど食事にしよっか?」
「そうですね、例のギルド飯、行っちゃいましょう!」
「やっぱりそれだよな!」
このやり取りもすっかり定番になった。
いつものエールとから揚げのセットに加え、ゴブリンのコロニー殲滅と以前より大きな事をやり切った労いも兼ねて今回は美味しそうな料理を数種類ほど追加して飲み食いした。
そうして俺はセリカと酒を飲み交わしながら、その夜を過ごしていた。
その中で、どんな仲間が欲しいのかを求めているかを少なからず語り合いながらだ。
翌日—————
「セリカ、今日はクエストを受けようって気があんまり起きないんだけど……」
「それについては私も同感ですかね……、今日は身体を動かしすぎないようにしましょう」
いつになく二日酔いの俺達はクエストに出る事を控え、冒険に関連する情報収集を中心に武具のメンテナンスや日用品の買い出しと、ゆっくり過ごす事を決めた。
ギルド内でも冒険者同士で協力を求めあうアライアンスなどの機会はいくらかあれども、今日はほとんどなかった。
その分ちょっとした休養を得られたと思って街の散策をしたけど、色んな人達に声をかけられる事が前よりも増えてきた。
冒険者を続けていれば、周辺の店や務める人達と顔見知りになるのも納得かな。
「今日はゆっくりしたから、明日は思い切ってモンスターの討伐とかに向かおうか?」
「そうですね、でしたらこれとかどうですか?」
「ん?なになに……?」
仲間になってくれそうな相手は未だ見付けられていないものの、俺は気持ちを切り替えてクエストを受けようとしている中でセリカから見せられた依頼書に目を通していた。
「イバヤ遺跡の奥底までの調査って調査系のクエストかな?」
「クエストにはモンスターの討伐やそのコロニー殲滅、アイテムの採取以外にも、調査や警備系の類まで幅広くあるんですよ」
「私も調査系のクエストは何度か経験があって、報酬自体は討伐関連に比べれば安上がりになりますけど、宝箱などを見つけたらそれが自分のものになりますので……」
「言うなれば、調査すべき場所の調べ上げを兼ねた宝探しって事なのかな?」
「そういう事になりますね」
セリカから調査系のクエストについて聞いたら、俺が現実世界にいた時にガッツリ見たり聞いたりしたRPG系のゲームの内容にかなり近いと直感できた。
遺跡攻略なんて、ゲームの世界じゃ冗談抜きのテンプレだし、それを俺が味わうのかって思うと未経験の不安と同じくらいのワクワクを感じてもいた。
「このクエスト、俺はやってみたいと思う」
「トーマさん、大丈夫なんですか?」
「でも、やれる限りの準備はしておきたいと思うんだけどね」
「それはもちろんやるべき事です!調査系のクエストは調査だけで終わる保証はないので、モンスターとの戦闘や逃走手段を整えておくのは当然ですからね!」
「だったら、このクエストは受けるって流れでいいかな?」
「はい、やってみましょう!」
そうして俺達はイバヤ遺跡の調査のクエストを受ける運びとなった。
調査系は複数のパーティーが先着順で受けるパターンが多く、確認したところ、二組まで行けて俺達が最後の一枠を受ける事ってわけだ。
イバヤ遺跡はティリルの離れで発見されたので、クエストに出るには夜も遅く、今日は向かわずにセリカの自宅で武器の整備や作戦会議、そして遺跡攻略に必要な買い出しを済ませて十全な休息を取って挑む事になった。
そして翌日———————
「ここがイバヤ遺跡か……」
「聞かされた情報ですと確かにここですね」
約一時間の徒歩を経て、俺達はクエスト先のイバヤ遺跡に辿り着いた。
イバヤ遺跡の入り口はまあまあの広さがある入り口をしながら、ところどころに苔のような緑色のモノを生やしながら、不気味さをどこか感じさせた。
俺はセリカとその場で眼を合わせた後に遺跡へと入っていく。
中に入ると、セリカが持っている『インスタントランプ』と言うアイテムを使って明るく照らした。
微量の魔力を込めるだけで光が灯り、込める量次第では大きく照らす事も可能であるアイテムだ。
「こうして入ると本当に不気味って言うか、何か出そうな気がしてならないな」
「そうですね、こう言った調査系のクエストって報酬も難易度も運の要素が大いに絡む事がかなり多いんですよね」
「調査の結果次第では提示された報酬よりも少ないパターンもあれば、目から鱗のような情報を持ち帰る事ができれば、臨時報酬を得られる事もありますからね」
「それでも、ギルド側の精査でDランクメインのパーティーで挑めると提示されたって事は、私達でも生きて戻って来れると判断されたって意味になるんですよね」
「そうなんだ」
E~Fランククエストからいくつもこなしてきて分かってきた。
ギルドはクエストとして提示する前に、精査した内容を加味して難易度や相応の報酬、何よりもどのランクの冒険者ならやり切れる可能性があるかを真剣に吟味している。
調査系にしても今回のDランク向けと明示されたって事は、そのランクにいるセリカならば問題なくできるって意味だ。
調査系はギルド側が知りたい事を知れた分だけ報酬が変わるものの、代わりに見つけたアイテムや素材などは全て見つけた人の所有権が得られるって決められているから積極的に受ける冒険者も殊の外多いって話だ。
宝箱が見つかるかもしれないなんて、そりゃロマンがあるわなぁ。
それから歩いて10分以上が経った頃、遺跡の奥側にどんどん進んでいく俺達だが、モンスターに遭遇こそしていないものの、陰気で湿っぽさが漂う殺風景な景観が続いていた。
「結構深くまで進んでる気がするんだけど、まだかな?」
「遺跡次第で中の深さや広さ、モンスターの遭遇率は千差万別ですからね」
「やっぱりそうなるよね」
「モンスターに遭遇してしまわない事そのものは良い事ですし……」
「調査系のクエストは2人以上で挑まないと危険ですから、提示されたランクより2つ以上ないと、単独での挑戦はギルド側も厳禁にしていますからね」
調査系クエストをこなした経験があるセリカの言葉には流石に説得力がある。
歩いている通路も5メートルくらいのスペースがあり狭いわけではないものの、そんな場面でモンスターと鉢合わせる、ましてや挟み撃ちになったら大変だ。
俺はセリカとそんなやり取りを交わしながら奥へ奥へと進んでいき、数メートル先に交差点のような道があった。
ドーーーン!
「「「うわーーーー!」」」
「ん、なんだ?」
「【気配探知LV.1】、発動!」
突然奥側から数人の男女の悲鳴が響き渡ってきた。
するとセリカが即座に【気配探知LV.1】を発動させ、周囲に人やモンスターの有無などを確認する。
「3人ほどが近くまで来ていますね」
「3人か……」
「ん?あれ……?」
ほどなくして、セリカの言う通り3人の冒険者が必死の形相で走って来た。
見た感じだと戦士系と支援系の男性1名ずつと魔術師系の女性1名だ。
「うおっ、何だ?俺らと同じクエストを受けている冒険者達か?」
「そうですが、何かありましたか?」
「奥側に強いモンスターがいたんだよ!ありゃDランクパーティーじゃ手に負えないぜ!」
「え、そうなんですか?」
「悪い事は言わねぇからこれ以上先に進むのは止めときな!」
男2名から真面目な表情を向けられながら逃げる事を進言され、俺は少し戸惑った。
「あの、質問があるんですけど……」
「何よ、早くここから抜け出さないとアンタ達も危ないわよ!」
セリカが手を少し上げて質問を投げ、女性から強い剣幕と焦りの表情を見せる。
その時のセリカの表情もまた、険しいものだった。
「ここから少し離れたところにもう一人の気配を探知して、今は逃げ回っているみたいですが、あなた達の仲間だったりしませんか?」
「え…?」
セリカの質問に俺は少し驚き、3人の表情が凍った。
聞いた事がある。
漫画やアニメやドラマの世界でも、仲間を無理矢理置き去りにして、自分だけ逃げると言う酷いパターン。
その可能性が頭を過った。
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