第16話 異世界人について


所属しているギルドマスターであるカルヴァリオさんからの誘いで俺とセリカは話し合いの機会に誘われた。

その中で自分が異世界からやって来た事実、それを聞いた後の会話、そして今から聞く話はしっかりと聞いて受け止めなければならない事を今伝えられようとしている。


「この世界における異世界人についてって、それは一体?」

「まずは私が主導で調べた資料を見て欲しいんだ、ミーナス」

「はい、トーマ様、セリカ様、こちらでございます」

「「どうも」」


俺達はミーナスと言うカルヴァリオさんの秘書らしき人物から数枚の資料を渡された。

ミーナスさんと言う女性は執事のような黒いスーツのような服装に身を包み、チャコールグレーの髪色のロングヘアーをポニーテールに纏めた髪型をしており、凛とした雰囲気がよく分かる美人だった。

秘書としての立ち振る舞いも見ていたが、一切隙を晒さない立ち回りや合理的な判断を心掛けるようなキャリアウーマンを思わせた。

そう思いながら渡された資料を見続けた。


「カルヴァリオさん、これって……」

「あぁ、もう非常に古い話を交えるのだが……」


「君意外にも異世界から来た人間が数名いた記録が残っていたんだ」

「え…?」

「まぁ、はるか昔の話だから恐らく存命はしていない可能性の方が極めて高いんだけどね」


それを聞いて硬直した。

資料を見た時点でまさかと思ったが、カルヴァリオさんから聞いて現実味を帯びた感覚を覚えかけた。


「私の方でも多くのコネクションを使って調べた結果だが……」

「異世界から来た人間について、いくらか判明している事がある」

「調査を含めて確定した事が2つあるんだが……」

「…ッ!」


カルヴァリオさんの真剣な表情を見て俺は無意識に表情を強張らせた。


「まず一つ目は…」

「…ッ!」


俺は唾を飲み込んでカルヴァリオさんと向き直る。


「君はブルースライムを100体近く倒したと聞いているが、随分とレベルが上がってるんじゃないかな?」

「え?」


最近セリカと赴いたブモダ村の村長から受けたスライムのコロニー殲滅で確かに大量のブルースライムを倒したのは確かだが、それが話の話題に入って来るとは思わなかった。


「はい、それを終えた際にステータスを確認しましたが、確かにレベルは1から10まで上がってました」

「やはりか……」

「……?」


カルヴァリオさんの発言に自分が最近やった事について関係している事に何かしらの恐怖心を覚えていた。

するとカルヴァリオさんは真っ直ぐ俺の方を見て…。


「異世界からきたモノの共通点の一つとして、レベルを中心に成長速度が普通の人より速いって傾向にある事さ」

「成長速度の速さ、ですか?」


カルヴァリオさんの言っていた成長速度についてだが、身構えて聞いたものの、想像以上にシンプルだけど何か奥がありそうな気で聞いていた。


「異世界から来た人間は個人差こそあれども、存在が確認されてからレベル1からのスタートではあるが、そこから上がっていくスピードは比較的早いと調べた文献にあったんだ」

「もちろん、鍛錬やモンスターの討伐が前提であるのは確かだがね」

「この世界に生きている人間がブルースライムを100体倒したところでも、レベルの上がり具合はたかが知れているからね」

「そうですか……」


カルヴァリオさんがそう説明して、俺は納得した。

弱い部類のモンスターとは言え、Fランクだった俺がスライムのコロニー殲滅に赴いて大量のブルースライムを倒したのは覚えていても、早いペースのレベルアップが、まさか異世界人である事が関係していたなんてほとんど考えていなかったから。

この世界においてレベルとは実力や熟練度を現しており、レベルが高い人ほどそれだけの強さは持っているものの、ほぼ同格のモンスターを倒す事を始め、何か条件を満たさなければそれも上げにくくなってしまうのは想像が付いた。

異世界人による恩恵と言うモノ…と捉えた方がいいのかな?まだ断言し切れていないけど。


「レベルアップの他にももう一つ確認できている事があって、これは遠い未来か近く起こるか分からないモノなんだが……」

「それは一体……」


カルヴァリオさんは再び姿勢と呼吸を整えたうえで、神妙な面持ちをしながら俺を見た。

俺も自然と背筋がピンと伸びた。


「異世界人は種類に差はあれども、何かしらのユニークスキルを必ず持っている事実だ。

「ユニークスキルですか?」

「ユニークスキルと言うのは、どんな人でも習得可能なベーススキルやギフト別で必ず得られるギフトスキル、種族別で得られるクランスキルとは違い、ギフトや種族に捉われる事なく特殊な条件や事情で習得されると言われるスキルなんだ」

「……」


カルヴァリオさんの説明でユニークスキルが何なのかを知る事になった。

ベーススキル、ギフトスキル、クランスキル、についてはセリカから初めて会った段階で聞いている。

俺もセリカも習得している【腕力強化】や【脚力強化】はベーススキル、彼女が習得している【風魔法】などがギフトスキルである。

ヒューマンがクランスキルを習得するケースは余りないものの、この世界にはヒューマン以外の種族も多数いるため、それぞれ特殊な能力を秘める事もある。


「自分の場合は一体……」

「それについては私にも現時点で解り兼ねるところだから何とも言えない」

「だが、異世界からやって来た者達はそのユニークスキルを会得していると言う事例が明かされている」

「分かっている範囲では、非常に凶暴なモンスターと仲良くなれるとか、性別を変更させるなどと様々なんだ」

「す、凄いですね、ユニークスキルって」

「トーマ君の場合は条件やそのきっかけがまだ分からないけど、ふとしたきっかけで目覚めるかもしれないね」

「そうですか……」


俺は一通りの説明を受け、異世界からやって来た自分がどんな風になるかはまだイメージし切れていないものの、悪い要素はないと判断できた。

何にせよ、現段階で周囲におかしな影響がないと分かっただけで安心できた。


「異世界人に関連する説明は私の方から以上となるが、大丈夫かな?」

「はい、充分です!ありがとうございます!」

「私も異世界人について知ることができてよかったです!」

「それは良かった。私の方でも異世界人に関連する情報が入ってきたら速やかに共有させてもらうよ」

「よろしくお願いします!」


カルヴァリオさんからの話も一段落し、俺達はお礼を言って立ち上がった。

ギルドマスターから直々に協力していただけるのが本当にありがたい限りだ。

そしてセリカと一緒に家へ戻っていった。


「ギルドマスターのカルヴァリオさん、本当に良い人だったね。異世界から来た俺にあんなによくしてくれて……」

「そうですね。私もカルヴァリオさんには今でもお世話になっていますし、街で彼を慕っていない人を探す方が難しいくらいに人望ある方なんですよ」

「昔はAランク冒険者だって話ですからね。ギフトも私と同じです!」

「マジで!?やっぱり凄い人なんだな……」


帰路に着いている中で、セリカとカルヴァリオさんについて感想を語り合いながら、彼の人となりの素晴らしさや昔は優秀な冒険者であったことを知った。

思い返せば、ギルドマスターと聞いていたからリッチな服装をしているわけではなく、むしろ素朴で庶民的と言ったイメージが強かったな。

今はギルドの運営や後進育成に携わっているけど、所属ギルドの冒険者に嬉しい施設やシステムがしっかり整っている辺り、カルヴァリオさんがどれだけ現場に寄り添っているかが分かる。


「トーマさん、一つ考えたんですけど……」

「ん?」

「もう一人、新しい仲間を入れませんか?」

「新しい仲間?」


セリカの不意の話に俺は少しビックリした。


「これから活動範囲を広げ、強力なモンスターを倒すには私達も実力やレベルを上げていくのは大前提ですけど、やはりもう一人パーティーに加えた方がいいと思うんですよ」

「確かにそうだね。それはいいんだけど、どんな人を迎えたいかは考えてあるの?」

「私は接近戦がメインになりますし、トーマさんがどんなスキルを今後得るか分からないことを考慮すると、中遠距離の攻撃を得意とする魔術師やアーチャーとかが欲しいですね」

「もしくは支援や回復を得意とする付与術士や聖職者系も……」

「なるほどね……」


セリカの言う通り、冒険者として活動範囲を広げていくには実力の向上だけでなく、新しい仲間が必要になるのは間違いない。

パーティーを組むにはバランスの取れたメンバー編成にしていきたい彼女の方針もあって、俺も賛成だ。

そして…。


「フフフッ」

「どうかしましたか?」

「え?俺もセリカの考え良いなと思ってさ!確かに俺もまだ中遠距離の魔法やスキルを得られる保証もないしね……」

「そうですね!クエストをこなしながら、もう一人のメンバーを探しに行きましょう!」

「おう!」


段々とRPGゲームみたいな展開になって心は密かに踊り、ワクワクが止まらない気持ちを抱いているのがバレそうになった俺だった。

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