第15話 ギルドマスター
きちんとした作りと手入れがされた執務机、その左右には分厚い本や資料のファイルが隙間なく敷き詰めた書棚、部屋の中心には品質の良い応接セットが置かれていた。
そう、ギルドマスターの部屋だ。
そこに俺はセリカと共に、お世話になっているギルドの代表、つまりギルドマスターの部屋にいる。
座っている俺達の目の前に話をして見たいと言われているギルドマスターがいる。
「まずはトーマ君だったね」
「初めまして、私の名前はカルヴァリオ・クレイスと言う。【アテナズスピリッツ】のマスターだ」
「今回は私と話をするための時間を取っていただき本当にありがとう」
「いえ、とんでもございません」
カルヴァリオさんと名乗った人物は濃い茶色のミディアムヘアをオールバックにし、左頭頂部には数センチの傷が付いており、ダンディズムを感じさせるような精悍な顔立ちをしている。
服装も黒い革のジャケットに薄いグレーのシャツを着用しており、濃紺色のパンツとしっかりした造りの靴を履いている。
ギルドマスターと言っているが、どちらかと言えば冒険者に近い格好だ。
ナミネさんから聞いているが、年齢は40代前半との事で、俺より一回り以上も年上だ。
顔には細かいしわが数か所あるだけで、結構整ったルックスもあって結構若く見える。
国管轄のギルドマスターになるには、厳正な審査基準をクリアした上で推薦を受け、それを承諾する事でその資格を得られる。
言い換えればそれだけ有能であると言う事だ。
「そんなに硬くならないで、今日は色々とお話を聞きたいだけなんだ」
「は、はい……」
「こちらお紅茶です、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
カルヴァリオさんは優しく諭し、彼の秘書のような女性から紅茶を差し出されてお礼を言った。
俺とセリカは紅茶の入ったカップを手に取り、少し飲んでホッとした。
「セリカちゃん、久しぶりだね」
「ご無沙汰しております、兄の葬儀ではお世話になりました」
「セリカ、カルヴァリオさんとやっぱり面識あるんだね」
「あぁ、彼女の兄であるトーゴ君とも見知った仲だからね」
「彼は本当に強くて立派な冒険者だった。故に亡くしてしまったのは今でも惜しいと思っているんだ」
「そうですか」
セリカはカルヴァリオさんと久しぶりの挨拶を交わし、彼女の亡き兄であるトーゴさんの事を褒めてくれて、少し顔を赤らめた。
ギルドマスターからも一目置かれていたなんて、本当にトーゴさんは凄かったんだな。
「それではトーマ君、色々とお話を聞かせて欲しいんだが……」
「ハイ!」
カルヴァリオさんが本題を切り出すように話を始め、俺は改めて背筋を伸ばした。
やはりギルドの最高権力者であるギルドマスター相手に緩い態度は見せられないからな。
「この世界とは別の、異世界からやって来たと言うのは本当かな?」
「え?」
カルヴァリオさんは真剣な面持ちでいきなり核心を突いてきた。
俺は一瞬で内心焦りまくりな気持ちになった。
だが、同時に嘘や取り繕いの言葉を言ってはいけない気持ちにもなった。
こうしてギルドマスターに呼ばれて追及されてるような感じになっている以上、下手な誤魔化しは逆効果になるのは読めてしまったから。
そう考えた俺はその場で鼻から息を吸い、口からフーッと吐いた。
「はい、あなたの仰った通り、私はこの世界とは別の世界から来ました」
「正確には不意にこの世界に飛ばされたと言った方が正しいですね」
「ふむ……なるほど……」
俺は正直に自分が今いる世界とは違う世界からやって来た事を素直に伝えた。
そしてカルヴァリオさんは数秒間、手に顎を添えて考え込んだような仕草をしていた。
「そうか、分かった!君の口からそれが聞けて何よりだよ!」
「いやー!生きている間に異世界人と出会えるなんて嬉しいな‼」
「「え?」」
カルヴァリオさんは不意に気さくで磊落(らいらく)な表情を見せた。
俺とセリカは真面目で重々しい空気から一変した事やカルヴァリオさんの無邪気な笑顔を不意に見せた事に驚いた。
「まあ、トーマ君が異世界人って言うのはもう把握しているんだが、異世界人と言うワードや存在自体が非常にイレギュラーな存在だからね!」
「はぁ……」
「私自身もそのような人物と出会う機会なんて、この先あるか皆目見当がつかないので、こうして話し合いの場を設けた次第って訳なんだよな。ハハハハハハッ‼」
「そ、そうだったんですね。」
カルヴァリオさんは質問していた時のシリアスな雰囲気から、一気に明るい表情と豪快な笑い方を見せて肩透かしのような感覚になった。
見た目は聡明な大人だが、中身はどこか無邪気な子供と思わせるような一面を垣間見た。
「いやー、にしても本当に異世界からやって来たんだな、そうかそうか」
「この世界と別の世界からやって来た異世界人を俺が生きている間に出会うとはな!」
「マスター、少々笑い過ぎでは?」
「おう、そうだったな、ごめんねトーマ君!」
「いえ、事実ですので……」
(ギルドマスターって聞いているけど、随分とフランクと言うか、何と言うか……)
俺はカルヴァリオさんの最初に見た時と今のリアクションのギャップに驚きや戸惑いを隠し切れないでいたものの、ギルドマスターに相応しい聡明さ、想像以上に気さくで心優しい人柄である事を知ってホッとできた。
「にしてもセリカちゃんもまた、特殊な縁ができてしまったものだ。」
「異世界人と出会って一緒に行動を共にしているなんてね。」
「まぁ、そうですね……」
「でも、トーマさんは本当に良い人ですよ
「私の事を助けてくれましたし、優しいし……」
「そうかい、うーん……」
「何ですか?」
カルヴァリオさんはセリカと軽くやり取りした後に俺の誉め言葉を並べてくれていた。
同時にカルヴァリオさんが俺の顔をジーッと見ていて俺は思わず質問した。
「うん、雰囲気がセリカの兄であるトーゴ君とよく似ているんだよな。彼……」
「そうですか?」
「本当さ。トーゴ君が蘇ったと一瞬思ったくらいだからね……」
「私も初めて出会った頃から同じ事を思ってましたよ。」
「へー……」
セリカとカルヴァリオさんがそこまで言うのであれば、俺とトーゴさんは本当に似ているんだなと再認識した。
「っとこのままでは世間話がメインに終わってしまうな……」
「トーマ君、君が異世界人であるのは分かったけど、私から伝えたい事があってね」
「はい……」
カルヴァリオさんは一つコホンとせき込んだ後に自分の言いたい事を思い出したように話を戻していった。
「私の方でも色々と調べているんだ」
「君がいた世界から来た人間や存在に関連する歴史や事象、そして影響についてまでね」
「…ッ‼」
「私から見てもどころか、今いる世界の各国管轄のギルド、いや各国の王族や貴族から見ても決して軽視してはいけない事を話そうと思っている」
「だからどうか、トーマ君もセリカちゃんも心して聞いて欲しいが、よろしいかな?」
「「ハ、ハイ!」」
カルヴァリオさんはまた真剣な表情を浮かべた。
異世界から来た俺の事について釘を念入りに刺してくる様相を見て、俺やセリカも気を引き締め直した。
「では、話させてもらうよ。この世界における異世界人についてね……」
俺達は唾を飲み込みながらカルヴァリオさんと向き合った。
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