第14話 あなたとなら
俺はセリカの過去を聞いた。
ビュレガンセとは別の国の出身である事、冒険者一家で生まれ育った事、両親を流行り病で亡くした事、唯一の家族である兄・トーゴさんと共に移住して生活していた事、そしてトーゴさんは派遣先で殉職した事も……
聞いてるだけでもセリカは、重い過去を背負っていると知った。
セリカはギルド内で顔を会わせる冒険者達からもよく可愛がられている。
改めて見ると、彼女は可愛いと綺麗が良い感じで混ざった顔立ちであり、モデルみたいにスラッとしていて肉体も鍛え引き締まっている。
もちろん外見だけではなく、自分よりランクが下の冒険者だけでなく、立場が低い相手でも謙虚で誠実な対応を常に心掛けられる性格も大きい。
トーゴさんも人望の厚い男性であり、その妹さんと言う事を差し引いてもだ。
俺が見ても、いや初めてセリカと出会った時から性格を含めた人間性そのものは本当に良くできた子だと心から思っている。
異世界に飛ばされて初めて出会ったのが彼女だったのが何よりの幸運だと信じて疑わないくらいに。
そうでなければ俺自身、この異世界で何一つ分かる事が叶わないまま終わっていた可能性が大いにあったから。
そう考えるとセリカの人となりや人望、そして女性としても一人の人間としてもどれだけ素晴らしいかが見て取れた。
「俺、セリカの事を余り知れていなかったけど、色々話を聞いて納得がいったよ」
「今はティリルやその周辺辺りの人達としか交流がないけど、君がこうして冒険者として活躍しているのも、街の人達に慕われているのもね」
「いえ、そんな事は……」
「俺、冒険者としての心得を教えてくれたのも右も左も分からない俺を助けてくれたのがセリカで良かったって本気で思っているよ」
「だから……ありがとう……」
「……」
俺は改めてセリカに感謝の気持ちを示した。
異世界に飛ばされて初めて出会った俺に冒険者…いや、この世界で生きていくために必要な事を現在進行形で教えてくれて、絶えず気に掛けてくれて支えてくれた。
それが打算でも見返り欲しさでもない心の底からの優しさである事も、ハッキリ分かった。
俺は少しの時間、テーブルに両手をかけて頭を下げた。
「そ、そんな……私の方こそトーマさんにあの時助けられた恩は、今も忘れてませんよ」
「謙遜したいなら先に言わせてもらいますけど、トーマさんが私を助けてくれたあの行動は、間違いなく私の未来を左右しましたよ!」
「もちろん、良い意味で……ですけど……」
「セリカ……」
セリカの本心を聞いて、それから酒を飲み交わしながら最近起きた事を語り合いながら過ごした後に俺達はそれぞれ部屋で寝るに至った。
翌日—————
俺はセリカと一緒にギルドに赴いた。
すると俺達を見かけたナミネさんが声をかけてきた…。
「トーマさん、おめでとうございます!条件達成により、あなたの冒険者ランクはEランクに昇進となりました」
「ほ、本当ですか?」
「はい、Fランククエストを一定数こなした事に加え、先日のスライムのコロニー殲滅に貢献した事を考慮して昇進と言う形になります!」
「やりましたね、トーマさん‼」
「うん‼」
俺はセリカと向き合い喜びを噛み締め合った。
聞けばここ数年、FランクからEランクに上がるためには半年から一年はかかるところを、それよりも早く叶った事例はなかったとの話だ。
ナミネさんはEランク冒険者である事を示す銅色のプレートを手渡した。
つまり俺はモンスターの討伐やコロニー殲滅にも本格的に参加できると言う事だ。
近くにいる冒険者達からも「頑張れよ」や「応援してるぜ」と激励の言葉をもらい、嬉しさに拍車をかけ、俺のモチベーションは更に高まった。
「それで、トーマさんにお話があるんですけど、いいですか?」
「え?うん、大丈夫だけど……」
セリカに声をかけられ、促されるままにギルド内の椅子に腰掛けて彼女と向き合った。
「何にしても、これでトーマさんは個人的にEランククエストも受けられるようになった訳ですね」
「そうだね、それで話って言うのは……」
「はい、単刀直入に言いますね……」
セリカは一呼吸置いて俺に真面目ながらも優しい表情を浮かべていた。
「私とパーティーを組みませんか?」
「え?」
パーティーを組まないかどうかの提案だった。
ロールプレイングゲームでもよくあるな、複数の登場人物がパーティーとしてチームを組むって流れがね。
今までセリカと行動を共にしてきたが、パーティーを組まないかどうかの話はなかった。
恐らく、俺がEランク冒険者になったタイミングで誘ったのだろう。
「この先ランクや行動範囲を広げていくにも、前線で戦う方だけではなく、魔法や支援に長けた方も必要になってきます」
「だからパーティーを組めば受けられる依頼も大きく広がりますし、強いモンスターに勝てる確率も高まります」
「もちろん、報酬は基本的に折半となりますけど……」
「だろうね……」
話を聞いて俺は嬉しく思った。
だが同時に一つの懸念や疑問がそれぞれ俺の頭に浮かんだ。
「でも、俺なんかでいいのか?実力やランクもセリカには全然及ばないし……」
「実力もランクもこれから上げていけばいいじゃないですか‼」
「それに、パーティーを組んでメンバーに引き入れるなら真っすぐで誠実な人をしている方って決めているんですよ!」
「私から見てトーマさんは、信用に値する素晴らしい人だって言うのは私が一番自信を持って言えます‼」
「あなたとなら、やっていけると思っています!」
「セリカ……」
セリカの言葉を聞いて俺の胸が熱くなりそうな感覚を覚えた。
Eランクになって間もない俺をパーティーに入れたいってハッキリ伝えられたら、取るべきアクションはただ一つだ。
「そこまで望むなら、断る理由はない!」
「セリカ、一緒にパーティーを組もう‼そして、これからもよろしく‼」
「はい‼よろしくお願いします‼」
俺とセリカは互いに笑顔で立ち上がり、握手を交わした。
数秒後……。
「そう言えばパーティーを組むんだったら名前を付けなきゃじゃないかな?」
「何か考えてる?」
「実は、前から決めていましてね……」
「うんうん……」
俺は思い出したようにセリカに質問を投げ、彼女は口に出すのを少し恥ずかしそうにする仕草をしていた。
「【トラストフォース】」
「信じ合える仲間達と手を取り合っていけば、どんな困難だって超えていける、そしてどこまでも前に進んでいけて、高みへと昇っていける」
「そう思って考えたんですけど……いかがでしょうか?」
セリカはパーティーの名前の由来を説明した後に、大丈夫かなって確認するような表情をした。
「うん、いい名前だと思う!」
「命の危険を伴うクエストや仕事も、信じ合える仲間がいれば乗り越えられるのは本当だと思うし、この間のスライムのコロニー殲滅でもハッキリ分かったからさ!」
「俺は良いと思うよ、【トラストフォース】って名前!」
「本当ですか?では、その名前で登録しましょう!」
「うん!」
パーティー名も決まり、再び受付に向かってナミネさんの下に向かって手続きを済ませていく。
既に結成したパーティーにおいて、最初の立ち上げ時だけは冒険者ギルドで必ず手続きをしなければならない。
加入や脱退をギルドに伝えるのは自由だが、誰がどのパーティーに入ってるかをギルド側が把握していれば、入っているメンバーのギフトや適性などを考慮して指名のクエストをもらえる可能性が高まるので、基本的にはやった方がいいとの事だ。
「――以上の手続きを以て、【トラストフォース】のパーティー登録が完了しました」
「今後の活躍、期待しております!」
「「ありがとうございます!」」
登録が完了し、ナミネさんから俺達のステータスプレートが返却され、そこにパーティー名が刻まれていた。
よくやるゲームでよくありそうな展開になってきて俺の心はただひたすらに躍った。
気持ちを新たにEランククエストに挑もうと掲示板をチェックするために向かおうとした。
「あの、トーマさん?」
「はい?」
「本日の夕方頃って予定はございますでしょうか?セリカさんもですが……」
「私は大丈夫ですけど、」トーマさんは……」
「俺も大丈夫です。何か……」
「実はですね……」
ナミネさんに呼び止められ、一つのやり取りがあった。
「え?それって……」
「はい、どうしてもって場合でしたら……」
「行きます、是非とも!」
ナミネさんからの話を終えて、その場を後にした。
本当なら一日ガッツリクエストをこなしに行くつもりだったが、急遽予定を変更して採取系のクエストを受ける事になった。
場所は『ダカル山』だ。
前にセリカが特殊な薬草を取りに向かった事はあるが、今回は俺も加えて行く事になった。
クエストで様々な近辺に赴いてその地理に詳しくなっておけば、道に迷ったりする事もなくなるだろうからね。
「えーっと、これだな」
「【簡易鑑定】を持っているお陰で、間違えずに採れちゃいますね!」
「そうだね。でも、モンスターには気を付けなきゃだけど……」
セリカが前に受けたクエストだが、発注元が予想以上に量が必要になったとの事で、最近行った事のあるセリカがいる俺達のパーティーが出向く運びになった。
以前よりも集める量は少ないため、幸いにモンスターが現れるって事になる前にクエストを終えられた。
帰路に付く頃には昼過ぎで、クエストの実行時間とティリルまでの移動距離を考えれば夕方になる前にはギルドに戻る事ができた。
ギルドにて完了報告を終えて、椅子に腰掛けてしばらく休んだ。
「トーマさん、セリカさん、お待たせしました」
「ギルドマスターとのお話をする準備が整いましたので、ご案内いたします」
「「はい!」」
予定の時刻になり、ナミネさんに呼ばれた。
クエストに出る前にナミネさんから「ギルドマスターがお二人とお話してみたい事がある」と言われたのだ。
俺は緊張しながら、ナミネさんの案内でギルドマスターの部屋の前に立った。
セリカは普通にしていたが……。
「マスター、トーマさんとセリカさんをお連れしました」
「通して上げなさい」
「失礼します」
「お二人ともどうぞ」
ナミネさんはノックと俺達を連れてきた報告をして、扉の向こうから許可の声が伝わってきたのを確認して扉を開けた。
促されるままに俺達はギルドマスターの部屋へと入っていく。
(【アテナズスピリッツ】のギルドマスター、一体どんな人なんだろう?)
少しの警戒心を抱きながら、俺達は今……【アテナズスピリッツ】のギルドマスターと対面する。
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