第12話セリカの過去①
セリカ視点——————
今から19年前、とある国の辺境で一人の女の子が生まれた。
その女の子は夫婦共に冒険者として活動した実績を持ったその一家の長女として生まれ、10歳年上の兄がいた。
母は女性が生物学的にギリギリ健康的な出産をする事が叶うだろう年齢で生を授かる事ができた。
その女の子は『セリカ』と名付けられた。
それからしばらくして、私が5歳になって私の兄であるトーゴ・ブレンフィアは15歳となり『職受の儀』を受ける事になり、『重戦士』の称号が授けられた。
当初は初心者であるFランク冒険者からのスタートも、元来の律儀で誠実な人柄もあって真面目かつ不備もなくこなしていった事や予習で磨いていた剣術や深めていた知恵を活かして早い段階でランクを上げていった。
私はそんな兄の活躍を幼心ながらも純粋にカッコよく立派な姿を見て育った。
私も兄を凄い凄いと思って付いて回りながら日々を過ごし、兄も私の事を可愛い妹としていたく大切にしてくれた。
「お兄ちゃん、私も色んな場所で頑張る冒険者になりたい!」
「そうかい、まぁ頑張りな」
私のモチベーションを感じた兄も諦めさせるより、後押ししてやる事を選び、自分の得て学んだ知識や経験の範囲で冒険者としての心得や国の情勢、魔法や剣技の教授とクエストを熟す傍らで伝えられる事は伝えていく日々を過ごしていった。
私が13歳になり、兄が23歳のCランク冒険者になった頃に事件が起きた。
「父さん、母さん、う…うっ…。」
私達の両親が流行り病で亡くなった訃報だった。
当時の私と兄はビュレガンセとは別の国の町にて生活の拠点を置いて過ごしていたものの、当時住んでいた国の国王の緘口令や決定で感染病や事情を伏せられた上で他国への移住を強制される結果となった。
後になって分かったその感染病の話だが、感染力は高いものの、適切な医療行為を受ければ確実に治る内容だった。
しかし、当時の国王が国内の安寧、正確には王都やそこに近い地方に病の蔓延を恐れて関係する人がいない町や村に限定して他国に弾き出したと言う訳だ。
閉鎖的と呼ぶしか言えない国政だった。
「お兄ちゃん、私達どうなっちゃうの?」
「大丈夫だよセリカ、どんな状況になろうと、お兄ちゃんが守ってやる。」
私と兄は約半月に及ぶ航海及び陸地の移動を経てビュレガンセ王国の辺境に流れ着き、そこで飢えや雨風を凌ぐ日々を過ごした。
それから数か月の時間を経て、ビュレガンセ王国における辺境の町ティリル街に辿り着き、兄は冒険者登録の変更手続きをビュレガンセ王国管轄の冒険者ギルドにて、比較的スムーズに進んだ。
もしも道中でかかる検問に引っかかってしまえば手詰まりになっただろうが、そのようなトラブルが幸いにもなかった。
「セリカ、ここからやり直そうな‼」
「いつかはちゃんとした家を構えるぞ‼」
「うん、頑張ろうね、お兄ちゃん‼」
私は両親が遺してくれたお金や兄が冒険者として稼いだ残っているお金を使って小さな家屋を購入し、そこを拠点にしながらの生活が始まった。
そう、今拠点にしている私の家だ。
拠点変更したものの、兄は移住する前の他地方においてはCランク冒険者として有名だった。
私が今お世話になっている冒険者ギルド【アテナズスピリッツ】の用心深く徹底した精査のお陰で兄はCランククエストを受ける事ができたからか、私を養うには十分な金銭を稼ぐ事ができた。
二人で仲良く生活しながら、私は兄から冒険者として必要な知識や戦いの心得を教わり、家事をこなしながらトレーニングにも勤しんだ。
『職授の儀』に備えるために。
それから2年後にトーゴは実績を認められて冒険者のランクはBに上がって、セリカが15歳になった。
「お兄ちゃん、私『軽戦士』に選ばれたよ!」
「冒険者向けの職業だよ‼」
「そうか!良かったな‼」
私は冒険者向きのスキルである『軽戦士』に選ばれた。
私はもちろん、兄も幼い頃から「冒険者になる!」と言っていた私の夢を叶えた現実を見て、自分の事のように喜んでいた。
それから私は兄が監督する下で駆け出し冒険者が受けるFランククエストをこなしながら、より実践的なノウハウを教えてもらえる事になり、成長していった。
私が16歳になる直前にはEランク冒険者になり、レベルも比較的早い段階で上げていけた。
兄も私の成長を何よりも誰よりも喜び、良き未来を築けると信じていた。
私も兄の知り合いや顔馴染みの友人らからも随分と可愛がられていた。
18歳になった頃にはDランク冒険者となり、兄と共にクエストをこなすようになった。
DランクとBランクとでは実力差はもちろん隔たりがあるため、私は兄やその仲間達のサポートや雑務を行いながらになったものの、少しずつ経験値を重ねて魔法やスキルも覚えていき、強くなっていった。
私は兄と苦楽を共にしながら、充実した日々を送っていた。
「セリカ、【風魔法LV.2】も習得するとは大したもんだ‼」
「うん、実は密かに特訓していたんだ!」
「こりゃ俺と一緒にハイレベルなクエストを受けるのも時間の問題かもな!」
「その時は私が助けてあげる!」
「ありがとうな、でもまだまだ俺が守ってやるからその間に強くなれよ!」
「うん!」
私はクエストをこなし、修行も並行しながら、日々を生きていった。
兄の背中を追いながら成長し、楽しく生活できる事を信じて疑わなかった。
そんなある日…。
「セリカ、一か月後には帰って来る。」
「うん、ザラードからの応援要請クエスト頑張ってね。」
セリカが19歳になって少しした頃、兄はビュレガンセと友好関係にある国の一つ、ザラードから受けた応援クエストに出向こうとしていた。
その内容も「グランドドラゴンの討伐」と言う大型クエストの先遣隊の一員として派遣されるモノだった。
兄はBランク冒険者だったが、その必要な人員の一人に選ばれたのだった。
「一カ月は家を空けるから、その間は留守を頼む」
「任せてよ!私だっていつまでも子供じゃないんだからさ!」
「それもそうだな!お前はもう冒険者だからな」
「お土産買ってきてね‼」
「分かってる!クエスト達成して報酬が手に入ったら、たくさん買って来てやるよ‼」
こうして私は兄を含めた、選ばれた冒険者仲間を笑顔で見送った。
それからは私も兄の、兄の帰りを心待ちにして過ごしながら一カ月ほどが過ぎていった。
「はい、達成条件を満たしておりますので、この確認を以てクエスト達成とします」
「ありがとうございます!」
クエストを達成した帰り、私は目に付いた酒場で兄が好きなお酒を偶然見付け、買っていった。
兄が戻って来た時、好きな食べ物や飲み物で出迎えたかったから。
心待ちにしている気持ちを抱きながらその一夜を過ごした。
翌日————
私はクエストが張り出されている依頼掲示板を見ようとした時だった。
「セリカさん……」
「あ、ナミネさん、どうも……」
私にナミネさんが話しかけてきた。
私や兄が普段からお世話になっている冒険者ギルドの職員であり、兄を通して顔見知りでもあったため、仲が良かった。
しかし、ナミネさんの表情は芳しくなく、どこか後ろめたい気持ちを持っている事が分かったような仕草だった。
「お時間って今、ございますでしょうか?」
「はい、大丈夫ですけど……」
「そうですか、ギルドマスターがお呼びです」
ナミネさんはそう言うとセリカを連れてギルドマスターがいる部屋に案内した。
ギルドマスターとは文字通りギルドの最高権力者であり、【アテナズスピリッツ】で一番偉い人と言う事になる。
冒険者のギルドマスターは国を始めとする機関が厳正な審査を下に決めているため、選ばれる人は並みの才覚や経験の持ち主でなければ選定対象に選ばれる事もない。
故に冒険者だけではなく、一部の上流階級や高名な権力者らに一目置かれている人もいるって話だ。
それから私は所属しているギルドのマスターの部屋に呼ばれた。
そして二人きりになって、単刀直入に告げられた。
「気持ちを落ち着けて聞いて欲しい」
「はい……」
「ザラード王国の応援クエストを受けた君のお兄さん、トーゴ・ブレンフィアが……」
「派遣先に出向いたクエストで……殉職した」
「え……?」
私は背中に氷を突っ込まれたような、頭に雷を受けたような衝撃に襲われた。
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