第11話 セリカについて
初のコロニー殲滅を終えて数週間、俺はFランククエストをこなしていった。
今ではシンプルなクエストならば、セリカの付き添いなしでもできるようになった。
最初は苦労していた配達業務もセリカが街の地理や付近について多くを教えてくれたのもあって大分慣れてきており、最近覚えた【脚力強化】スキルを使ったお陰で早く確実にこなせるようになったため、少しだがボーナスの報酬をもらえる事も増えた。
言っても大銀貨が数枚もしくは銀貨や銅貨がそれぞれ数十枚ずつもらえるほどだが、お金はお金だ、大切に使おう。
「配達終わりました」
「お疲れ様です、本当に助かりました」
「こちら今回の報酬でございます」
「ありがとうございます」
俺は仕事を終えて報酬をもらうと、一区切り付けるために広間の椅子に腰かける。
「おー、トーマじゃねぇか、今日もクエストに勤しんでるなー」
「はい、先日覚えたスキルの【脚力強化】のお陰で早く済みました」
「働き者ね、あなたは」
「これならEランクに上がって活躍するのも時間の問題だな」
「ありがとうございます」
俺は顔見知りになった先輩冒険者達とやり取りしながら休憩していた。
先日出向いたスライムのコロニー殲滅に参加・貢献したのもあってか、ギルド職員や他の冒険者からも俺を覚えてくれる人が増えてきた。
こうしてクエストをこなせるようになってきたのも、経験を積む橋渡しをしてくれたセリカのお陰だ。
彼女のサポート無くしてこの状況は考えられなかった。
よくよく思い返すと、セリカはDランクの冒険者だが、Cランク以上の冒険者からも随分と気にかけられたり可愛がられたりと彼女を良くしてくれる人が多い。
俺とセリカが身を置いている冒険者ギルドには、自分よりランクが下の冒険者を邪険な扱いや馬鹿にする態度を取る人こそいないものの、シビアな物言いをする人はいる。
もちろん、命を懸けてクエストやダンジョン攻略に挑みその中で得た経験から来る発言や態度であり、不用意な行動で危険な目に遭って欲しくないためだ。
少なくとも俺と知り合った冒険者の皆は良い人ばっかりだ。
「ふと気になったんですけど、セリカってこのギルド内では有名なんですね」
「え?まぁ、そりゃあんだけ可愛らしい冒険者は中々いないし、素直で向上心のある良い子だし…」
「誠実で気立てもいいから可愛がりたくなっちゃうんだよな」
「何より、あの人の妹さんだからな」
「君のために色々と手を尽くしてくれる優しい女の子だからね」
「はい、彼女には本当にお世話になりっぱなしですから助かってます!ですけど、今度は俺が彼女の支えになれるくらい強く立派になります」
「おう、よく言った‼」
「頑張ってね‼」
俺は気の良い先輩冒険者達から応援の言葉もかけてもらえた。
近くにいる冒険者達からもセリカの実力はもちろん、彼女のよくできた人柄を褒めていた。
セリカには世話になりっぱなしだから、何か恩返ししないといけない気持ちも高まった。
俺自身、いつまでもおんぶにだっこのままでいるのは性に合わない。
気持ちを切り替えて掲示板を見ようとした瞬間…。
(ん?あの人の妹さんって、セリカってお兄さんやお姉さんがいるのか?それとも…。)
俺は一人の冒険者が言っていた「妹さんだから」って言葉に引っかかったような気持ちを抱きながら掲示板を見て、受けられるクエストをやる事になった。
俺は以前セリカの同行で受けた薬草採取を終えてギルドから出ようとしていた。
「あ、トーマさん!」
「おう、セリカ」
俺はセリカと合流していた。
セリカはDランククエストで『ダカル山』と言うティリルから約一時間の大きな山の麓に生えている特殊な野草を採取する仕事をしていた。
同じ採取系のクエストでも、『ダカル山』には多くのモンスターが生息しており、ほとんどがE・Fランク冒険者では対処が困難もしくはできない種類ばかりであり、Dランク冒険者でなければ相当シビアな内容である。
ジャンルは同じでも、赴く場所が危険地帯だったり強いモンスターと遭遇する確率が高ければ、難易度が上がるのも当然だ。
実際にセリカも怪我こそしていないが、装備品は土に塗れて細かい傷がところどころ付いている事から、モンスターと戦闘したのだろう。
「怪我はしてなさそうだけど、モンスターと戦った感じかな?」
「はい、“レッドモンキー”数体と戦いましたが、倒す事ができて目的の野草も手に入ったんですよ。」
「そっか、何にせよクエスト達成だね。」
“レッドモンキー”とはレア度Eの赤い体毛をした猿型のモンスターであり、知能は低く魔法は仕えないが、総合的な身体能力は以前セリカが倒した“シニアスライム”よりも高く、Fランク冒険者には荷が重い相手との事だ。
その数体と交戦したものの、一斉に襲われたのではなく、目的地に向かう道中や帰り道に3~4匹ずつ戦闘しただけと言っていた。
「はい、今からクエスト達成の報告をしにいくところです」
「そうなんだ、俺は今日できるクエストは全部終えたよ」
「そうですか、完了の手続きをしてきますね」
そう言うとセリカは受付の方に向かいクエスト完了の手続きを終えた。
セリカが俺の方に歩いてくる。
「あの、セリカさん、今日は自炊にしない?」
「私は構いませんよ」
「そうか、じゃあ帰り道にある八百屋に寄っていこう」
「分かりました」
俺はそう言って帰路に付いた中で立ち寄った八百屋で料理するための食材をいくらか買ってセリカの家に向かった。
それから一緒に料理して、いつもの献立を作り、今回は街の屋台で売っていたから揚げも一緒にテーブルに乗せた。
その屋台で売っているから揚げはギルド内の食堂にはない味の種類も複数取り扱っている専門店であり、俺が今日稼いだ報酬の一部のお金でピリ辛系や甘辛系をそれぞれ数個ほど購入した。
それから食事を終えてから、土に塗れたセリカの武器や装備品を磨き『リペアフルード』による修繕をしていた。
『リペアフルード』は名前の通り傷付いてしまったモノを直すための特殊な液体であり、上手に使えば装備品の寿命を伸ばす事ができる。
武器等が必需品であり、モンスター討伐を始めとする仕事を生業にする冒険者にはなくてはならないアイテムだ。
俺達が普段使っているタイプでも丁寧に塗り込めば効果はあるものの、モノによってはより性能の良いタイプもあり、それに比例して買う時の値段も上がっていく。
当然、武具が一部欠けているならともかく、完全に損傷して使い物にならない場合はいくら使っても直す事は叶わない。
性能の良い武具でも微かな傷なら普通のタイプでも足りるが、大きな傷があれば強力なタイプを使用しないと意味がない。
今はそこまでの状況にはなっていないが、もしレベルの高い武具を持てば考えなければならなくなるだろう。
思い返せば、セリカは暇があれば武具のメンテナンスも怠らないからな。
「セリカ、こんな感じでいいかな?」
「はい、大丈夫ですよ」
「まずは日常的な補修のつもりですから、感覚を掴ませられたらって意味です」
「ただ、剣がポッキリ折れたり鎧が大きく破損したならば、鍛冶屋にお願いして修繕してもらえるか武器屋で買い替える事になりますね」
「ですよね~」
俺はセリカとやり取りしながら武具の手入れを済ませていった。
それから液体が染み込み乾くのを待っている状況になった。
俺はそれとない仕草でセリカの近くに寄っていきながら椅子に座る。
「セリカって色々と物知りだよね」
「いえ、冒険者として頑張る前に色々と予習していただけですので…。」
「そうか、ぜひ聞いてみたい質問があるんだけど……」
「何でしょうか?」
セリカが背中を向けている状態で俺は満を持したように質問をぶつけてみた。
ギルドで聞いたあの話を……。
「セリカって、お兄さんやお姉さんとかいるのかな?それとも、いたのかな?」
「‼」
俺の質問を聞いたセリカは誰が見ても分かるくらいに固まった。
それから数秒した後に…。
「トーマさん、どうしてそんな質問を?」
「ギルド内の冒険者から聞いたんだ。あの人の妹とか何とか……」
「…ッ!」
ギルドで聞いた「あの人の妹」を出した途端にセリカは大きく動揺したわけではないが、明らかに動きが止まった姿を見せていた。
俺の方を見ようとしても、視線は明後日の方向を見ようとするのに必死な様子で、正面にいる俺から目を背けるのに必死な様子だった。
「セリカ、あの……」
「……」
しばらく沈黙が続いた数分……。
「その様子だと、時間の問題ですよね」
「私の兄の事について知るのは……」
「‼」
セリカから聞いた一言で確信した。
セリカには兄弟、兄がいるもしくはいた事に。
「実は、今身を置いている【アテナズスピリッツ】のほとんどの人には知られているんですけど、トーマさんには話します」
「ただ、私が許した相手以外には話して欲しくないですけど……」
「うん、もちろん」
セリカは恥じらいと警戒心が入り混じったような表情と仕草をしながら俺と向き合った。
「では、話しますね。私にはいたんですよ……」
「半年前に生き別れた兄が……」
「え…?」
そして俺は知らされる事になった。
セリカの過去について…。
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