第10話 達成感
スライムのコロニー殲滅を終えた翌日。
「俺はもう準備は整ったよ」
「私も終わりました」
「じゃあ、出ようか」
「ハイ!」
俺とセリカは身支度を終えて村を出る準備を済ませ、宿を出た。
遠くまで見えそうなくらいに澄み渡った青空に燦燦と輝く太陽がまた気持ちがいい。
俺達が村の門まで辿り着くと、モルタ村長が「是非ともお見送りしたい」と村民達を連れて出向いてきてくれた。
「この度は村の問題解決に尽力していただき、本当にありがとうございます」
「こちらこそ、昨日は盛大にもてなしてくれたうえに宿も泊めていただけて感謝しています」
「私達はクエストをこなしてトラブル解決に努めただけです」
「もしもまたトラブルが起きましたら、我々が駆け付けますので、遠慮なくギルドにお申し付けください」
「ありがとうございます」
モルタ村長は感謝しながら頭を下げた後に握手を交わした俺達は、村の皆様に見送られながらブモダ村を去った。
「いや~、昨日は色々と濃い一日を過ごしたような気がした」
「クエストを受けて、スライムを大量に倒してその上位種とやり合って、最後はコロニー殲滅に成功して、アイテムゲットもして……」
「そうですね、異世界から来たトーマさんから見れば新鮮そのものって話ですよね」
「私はやった事が何回かありますけど……」
「それにしてもセリカって強いんだね、”シニアスライム”もほとんど君が倒したようなものだし……」
「トーマさんが援護して、スライムの群れを倒してくれたから集中できたんですよ」
「私一人ではスムーズに攻略できませんでしたから」
昨日のクエストを改めて振り返り、本当に濃い一日…と言うよりも充実した。
アニメや漫画、ゲームの中の架空世界、正確には異世界に飛ばされて、モンスターを倒したりクエストを達成してアイテムをゲットするなんて、現実世界のサブカル好きな人間には夢のような事だ。
しかも初めて出会ったのがこんなに美人な冒険者だから、ハッキリ言って恵まれ過ぎだ。
「そうかな?って昨日のコロニー殲滅と異世界で初めて君に会ってから思っている事があるんだけど、いいかな?」
「何でしょうか?」
「セリカってあの時ゴブリンソルジャーやゴブリンポーン2体に襲われていたけど、何で追い込まれてるような状況だったのかな?」
「セリカの実力なら、余裕だと思うんだけど……」
俺は冒険者ギルドに向かう道中にセリカと出会った時の状況を思い出していた。
昨日でセリカの実力は冒険者素人の俺から見ても強いと判断しているものの、当時の彼女は全身が土に塗れ、いくらか傷を負っていた。
ゴブリンポーンは俺が【腕力強化】でパワーアップした後に思いっきり顔面を殴ったら倒れるほどだったが、ゴブリンソルジャーの方が明らかに強かった。
それらを加味してもセリカがあんな状況になってるのは疑問に思っていたため、この際聞いてみる事にした。
「あの時はですね、レア度Dのモンスター討伐を受けていたんですよ」
「レア度Dのモンスター討伐?」
「そうです、レア度Dのモンスター討伐の依頼を受けたんですよ」
「何とか魔法やスキルを駆使してそれを終えて帰ろうとした時、ゴブリンソルジャー達が潜んでいたのか、たまたま巡って来たのか、魔力がほとんど切れかかっている所で襲われたんです」
「それで何とか撒くか反撃の機会を作ろうと思って森の近くの海岸に出たって訳で……」
「そこで、俺とセリカの出会いになったと言う事だね」
「はい、そしてトーマさんがゴブリンポーンの一体に突っ込んで注意をそらしたお陰で魔力回復のポーションを飲んで、【風魔法LV.1】の『ウインドスライサー』を決めて状況を乗り切れたって訳なんです」
「あの時は退くのでいっぱいいっぱいでしたから、魔力回復のポーションを飲む暇がなかったので……」
「そうだったんだ。なるほど……」
俺はあの時の状況の意味をようやく理解した。
初めて見た時のセリカはレア度Dモンスターの討伐クエストを受けて出向き何とか倒せたものの、ゴブリンソルジャーがいない事に遅れて気付き、後手に回ってしまったと言うのが理由だった。
冒険者として基本的な知識を持っているはずのセリカが切羽詰まるのは当然だ。
それを俺が切り抜けるきっかけを与えたから、セリカは生き残ったって訳だ。
「本当にあの時は助かりました‼」
「俺はそこまで大層な事はしてないよ、セリカが凄かっただけさ」
「いえいえ、私は今でもあなたに感謝してます‼本当にありがとうございます‼」
もうそのセリフ何度も聞いたんだけど、セリカにとっては本当に助かったって事なのは理解し切っている。
「ん?セリカ、ティリルが見えた!」
「あ、本当だ!ではトーマさん、ギルドに戻って成果報告しにいきましょう!」
「そ、そうだね」
そうこうしているうちに俺達が籍を置いている冒険者ギルド【アテナズスピリッツ】があるティリル街が見えた。
俺達はギルドに赴き、ナミネさんに成果報告とコロニー殲滅した証拠の提出を行った。
「はい、確認できました」
「ブモダ村のモルタ村長からもコロニー殲滅をしていただいた旨の連絡を受けており、証拠の提出を以てクエスト達成とします」
「ありがとうございます」
「それでは、こちらが今回のクエストの報酬である金貨5枚でございます」
ナミネさんからクエスト達成を言い渡され、報酬の入った小さな革袋を受け取った。
「これが、金貨?」
「そうですよ、ってトーマさんはクエストで金貨をもらったのって初めてでしたよね?」
「うん。でも、セリカがいたから」
「トーマさんのお陰でもありますよ」
「本当に大した事はしてないから」
「でしたら、この流れでギルド飯に行きませんか?」
「うん!いいかもね!俺は今、ここの唐揚げとエールが食べたくて仕方ない!」
「それは私も同感です!では、行きましょう!」
「おう!」
俺はこの世界に来て、現時点で一番の達成感を味わいながら、ギルド飯を楽しんだ。
よし、もっと頑張ろう!
そう思えるクエストだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます