第9話 喜ぶ顔
ブモダ村の村長室———————
俺とセリカはモルタ村長にスライムのコロニーを破壊した事を報告した。
「本当にありがとうございます‼これで村は安全になりました‼」
「いえいえ、俺達はクエストで来ただけですから!」
「問題が解決して何よりです!」
クエスト達成の報告を受けたモルタ村長は深く頭を下げながら感謝の意を示していた。
今回引き受けたクエストが村にとっては頭の痛い事案だったのか、モルタ村長は嬉しい様子を隠し切れないようだった。
「この村は冒険者を始めとする職業の者や戦う術を持つ者がほとんどいなかったんです」
「村も女子供や年配の方々が大半だったので、今回のようなスライムの繁殖は死活問題になりかねないくらいに困っていたんですよ」
「”ブルースライム”は非戦闘職でも倒しやすいとは言え、それは15歳の男性を基準にしていますからね」
「ですが、今回派遣されてこちらに来ていただいたのが、あなた達のような冒険者で本当に良かったです」
「村の村長を代表して感謝させていただきたい」
モルタ村長は困っていた問題が解決した事に心から安心したような表情を俺達に見せ、深々と頭を下げていた。
改めて顔を上げた村長が…。
「今日は我々がトーマさんとセリカさんを是非もてなしたいのだが、いかがかね?」
と提案した。
「もてなしたいって、私達はクエストで来ただけですので……」
「そ、そうですよ、報酬はギルドで後日受け取りますので大丈夫ですよ!」
「いえいえ、村のトラブルを見事に解決していただきましたので、我々からの感謝の気持ちを村一同で挙げてもてなしたいのです」
モルタ村長が俺達を盛大にもてなしたいと言う申し出に一度は断ろうとしたが、改めて頭を下げてきたので、最終的には受け入れた。
にべもなく断るのも失礼だからね。
モルタ村長は「この村に一泊していって欲しい」と言われてそれを受けれた後、村人から小さな民宿に案内された。
宿の受付からも「今夜分のお代は結構です」と言っており、理由を聞くと村長経由で俺達の今回のコロニー殲滅による被害の根絶が伝わっていたからだった。
本当に律儀だなと改めて思う。
受付の人に案内された部屋は綺麗に整えられた一人分のシングルベッドが二台と大き目の丸テーブルとイスが二脚とシンプルだが綺麗さも感じられる。
俺はベッドに腰かける。
「広いってわけじゃないけど、適度な空間だと思いますね」
「そうだね、部屋も掃除する人が丁寧にやってくれてるから清潔感も感じる」
「普通に過ごす分には十分と思うけど、まさか負担してくれるなんてね」
「モルタ村長には感謝ですね」
思っていた以上に清潔で整った宿の客室に俺達は満足感を感じていた。
本当だったらセリカの家で過ごすつもりだったところ、快適に過ごせる民宿の一室で過ごせてもらえて今は少し開放的な気持ちを感じる事ができた。
「にしても、モンスターやコロニーを倒したり殲滅したらこんなに喜ばれたりもてなされるものなのかな?」
「どのクエストもそうではないですよ」
「日中で片付いたらほぼ日帰りですし、例え宿泊を伴うにしても、必ず宿代まで保証してもらえる事はありませんから」
「今回はモルタ村長のご厚意で叶ったってだけですよ」
「だったら、感謝しかないね」
「そうですね」
俺とセリカはそんなやり取りを交わしながら、彼女は全身を伸ばしながらベッドに横たわった。
俺も伸び伸びした姿勢でベッドに寝ていながらリラックスしていると、セリカと今日のクエストについての感想を語り合った。
スライムのコロニーに出向く前の気持ち、俺の戦い方、セリカの戦い方、クエスト達成した時の瞬間、その後のやり取りまで思い付くまでの事を語り合った。
「それにしてもトーマさん、素人臭さは残っているにしても、あの動きでスライムの群れを倒すってセンスを感じますね」
「そう言うセリカこそヤバそうなモンスターを圧倒するのも凄いよ」
「“シニアスライム”』より強くて厄介なモンスターは沢山いますから、私も精進しなきゃですよ」
そうして語り合っている中で完全に日が暮れた時だった…。
「トーマさん、セリカさん、宴の準備ができましたので、ご案内しますよ」
「「は、はい!」」
俺達は村人に呼び出されて宿を出た。
村の中心地に出ると、そこにはほとんどの村人達で溢れていた。
何十台はあろう長机が適度な隙間を作りながら配置され、その上には美味しそうな料理やエール、ワインが置かれている。
そこにモルタ村長が歩いて来た。
「トーマさん、セリカさん、お待ちしていました」
「モルタ村長、おもてなししていただけるのは嬉しいんですけど、ここまで……」
「想像以上にスケールが大きいですね」
「何を言いますか、お二人が解決して下さったトラブルに比べればこのくらい安い事です。」
「村一同で感謝の意を示したく思った次第ですので……」
「あ、ありがとうございます」
宴の内容が想像以上に大きかった事に驚いたものの、モルタ村長のおもてなし精神を感じながら参加する事になった。
それから村長が集団の中心に入り、俺とセリカはその横に立った。
「皆さん、宴の準備をしていただきありがとうございます」
「前々から多くのスライムによって村民達に被害が増えていました」
「ですが、此度に派遣された冒険者のトーマさんとセリカさんによってスライムの発生源を絶った事で、その問題が解決するに至りました」
「今日の宴で精一杯の感謝を込めて、お二人をもてなしたく存じます」
「皆さん、飲み物のご用意を!」
乾杯の音頭を取るモルタ村長が一通り言い終えると、俺達や村民達はコップを掲げた。
「それでは、カンパ~~イ‼」
「「「「「カンパ~~イ‼」」」」」」
「セリカ、乾杯」
「乾杯」
モルタ村長の乾杯の合図で、村民達は近くにいる人同士でコップを合わせいた。
俺もセリカと静かに乾杯した。
それから俺とセリカは村民達の下を廻りながら挨拶を交わしながらクエストの事を沢山聞かれた。
思い出しながら話していると、皆は興味津々で聞いてくれた。
「へー“シニアスライム”が3体同時に現れて倒したってのか‼」
「大量の”ブルースライム”を一人で殲滅するとはな‼」
「こんなに麗しいお嬢ちゃんがやるとは、大したモンだな‼」
「そこの兄ちゃんもやるじゃねぇか‼」
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ、私なんてまだまだです」
少し質問攻めはされたものの、それからは村民達からベタ褒めだった。
そして陽気ながら暖かい笑顔を向けられながら俺達は料理とお酒を楽しんだ。
それから一区切りを付けて廻っていると…
「ねぇねぇ、お兄ちゃんたちが冒険者なの?」
「相手ってそんなに強かったの?」
「え、あ、うん……」
「コロニーってどんなだったの?」
「お姉ちゃん、髪綺麗だね!」
「ありがとう、ありがとう。そうね、まずは……」
村の少年少女達が駆け寄ってきて、今回のクエストについて沢山聞かれた。
事のあらましを話すと、子供達は目を輝かせていた。
ティリルから距離があるブモダ村に冒険者が来る機会は滅多にないため、子供達が冒険に関係する話を聞いた事がないらしかった。
だから興味津々で聞いていて、“シニアスライム”からドロップした魔石も見せた。
「スゴーイ‼」
「お姉ちゃん強いんだねー。」
「これが魔石って言うんだ、綺麗だねー!」
魔石そのものを見るのは初めてなのか、子供達は好奇心旺盛に見ていた。
「お姉ちゃん、俺もいつか冒険者になりたいんだ‼」
「俺も俺も‼」
「私も‼」
「冒険者になれるかな?」
すると一人の男の子をきっかけに、子供達からは冒険者になりたいと言ってくれる声が挙がった。
「そうね、15歳になったら教会で『職授の儀』を受けて、戦いに向いているか、その役に立てる職業がもらえれば、冒険者になれるよ!」
「何を授かるかは運任せだけど、今のうちに身体を鍛えたりお勉強しておいた方が将来役に立つのは確かよ!」
「本当?」
「じゃあ明日からお手伝いしながら身体を鍛える‼」
「私はお勉強を頑張る‼」
「そう、期待しているわ‼未来の冒険者さん‼」
「……」
セリカは子供達に優しい笑顔を向けて接していた。
冒険者を目指していると聞いた際は職業を授かる前に何をすべきかを教える面倒見の良さもあって、本当に優しい子だ。
思えば年齢は俺が年上だけど、冒険者としてはセリカの方が先輩だもんな。
それからしばらくして…。
「皆優しい人達でいっぱいだね」
「そうですね」
「クエストを達成して、こうしてもてなされて、宴を笑顔で楽しむ皆を見ていたら、頑張って良かったと思うよ」
「私もです!」
「じゃあ、また次も頑張ろうね!」
「はい‼」
俺とセリカは二人きりで話をしながら、次のクエストや冒険にも精を出し、成長していこうと改めて決意するのだった。
こうして宴は日を跨ぐ直前まで行われた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます