第7話 初めてのバトル
俺は目に入った““ブルースライム””の数々を瞬く間に剣で倒した。
それを見たセリカが駆け寄る。
「トーマさん凄いです、実は剣を習っていたとかでしょうか?」
「え、いや、これといって格闘技を習っていた訳じゃないんだけど、力仕事に勤しんでいた時期があって……」
「まだ拙さはありますけど、動きも様になってる感じでしたよ!」
セリカは俺の動きを見て感心している様子だった。
実際に異世界へ飛ばされる前には土木作業員時代には暑い中で重い資材を運ばされた時期もあれば、サブカル専門店で仕事していた際に重量物を運ぶ場面も多かったので、身体全体の筋力は普通の人よりある方だった。
スライムを倒した動きも格闘ゲームやバトル要素の強いアニメや漫画を沢山見てそれを自分のイメージしたように行っていた。
先輩冒険者で剣を扱う戦士であるセリカから見れば確かに雑さは残っただろうが、筋の良さを褒めてもらえたから、まあできてるって事にしよう。
「これだったら予想以上に簡単にクエスト達成できるかもしれませんね」
「本当?じゃあこのまま行こう!」
「はい、まずは私の気配探知でスライムのコロニーを探しますね」
軽いやり取りを終えると、セリカは目を瞑り左人差し指を自分の左こめかみに当てた。
それから数秒して…。
「トーマさん、弱いけどかなりの数が向こうの方角から感じられます!」
「恐らく、スライムのコロニーです!」
「ありがとう、早速行こう!」
セリカはスキル【気配探知LV.1】を発動させてスライムのコロニーを探し当てた。
それからセリカが指差した方角に俺達は歩き出した。
明確な場所は分かっても、緊急時でない限り下手に森林を走るのはリスクが大きい。
二人で周囲に気を配りながら茂みをかき分けながら進んでいく。
そして一つの洞窟らしき場所を見つける。
その周りには数十匹のスライムが動き回っており、穴からもその数々が出入りしている。
「あれがスライムのコロニーですね」
「やっぱり、如何にもって感じがした」
「コロニーの奥にはモンスターの発生源というものがあり、そこを破壊すれば新たに出て来るのを止められます」
「分かった、行ってくるよ」
「気をつけてください」
息を整えて俺はスライムの群れに突っ込んだ。
俺は近くのスライムから短刀による斬撃やパンチを始めとする打撃を交えて立ち回りながら、スライムを次々と駆逐していった。
スライムの体当たりもあったが、セリカの言う通り俺に大きなダメージは無く、その中で攻撃モーションも把握した事によって順応していった。
そして数分間がすると…。
「ふぅ、外にいるスライムはこれで全部かな?」
「ハイ、私が見る限りでも洞窟外のスライムはこれで全部トーマさんが片付けたって事になりますね」
「そうか、よかったよかった」
俺は多くのスライムを倒せた事に少しだけど手応えを感じていた。
もちろんスライムではあるけれど、モンスター討伐に自信を持つのはどんな時でも大事な要素であり、何の行動を起こさないよりも遥かに有意義である。
持ち過ぎれば自意識過剰だが…。
俺達は洞窟の穴の中へ進んでいき、スライムがチラホラ出てきたが俺はその度に返り討ちにしていた。
ちなみにさっきのコロニー外で【簡易鑑定】スキル以外で他に魔力は使っていないので、もう一つのスキルである【腕力強化】を数回ほど使う余力は残っている。
穴に入っても、スライムは自分一人で対処しており、セリカも見守りはすれども俺にとって危ない状況がまだない事を分かり切っているのか、何かしらのアクションはなかった。
そうしてドンドン奥へ進んでいく目立つような光を放つ広い空間に出て…
「うお、これは……」
「この洞窟の最深部です。あそこに立体的なシンボルがあるんですけど、それは洞窟を始めとするダンジョンの最深部ってサインなんです」
「この洞窟の最奥って事になりますね。後、花の蕾みたいな発生口が見えると思うんですが、あれこそコロニーの発生源です」
「なるほど……」
セリカに説明されて、今辿り着いた場所がダンジョンのゴール地点やコロニーの特徴を理解し、それの駆除が今回のクエスト達成の条件と悟った。
俺はセリカと共に慎重ながら歩幅を少し広めて歩いていく。
すると目の前の岩陰からスライムの群れが現れ…
「おお、コロニーの始末は守りますって感じなのかな?」
「モンスターにとってコロニーの始末は避けたいと言うのは本能的に思うんでしょうね」
「コロニーに近づくにつれてモンスターの動きやキレは活発になる傾向がありますから」
「生存本能って奴かな」
コロニーの発生源に近付いた状況とセリカの説明を聞いてこのクエストの勝負どころであると冒険者としては素人ながら察した。
俺は短剣を抜いて構えながら歩いていくと……。
ボォォォォォォォ!
「何だ?」
「え、あれって?」
突如コロニーの後ろから一つの赤黒い色に辛うじて人間の型を残した液状の一軒家ほどのサイズはあるだろうスライムが3体ほど飛び出るような形で出て来た。
随分珍しいサイズや形と思っている俺をよそにセリカは驚いた表情をしていた。
「え、まさかコイツがここのコロニーの親玉って事なのか?」
「セリカ、それはどういう…」
「前にスライム系のモンスターは一部を除いて最弱って言ったと思うけど…」
「最近と言うか依頼を受けた今日に聞いたけど…まさか?」
「はい、そのまさかです。」
(【簡易鑑定】発動!)
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名前:シニアスライム
種族:スライム
レア度:E
スキル: ―
【概要】
スライムの中でも上位種であり、下位スライムを束ねる役割を持つモンスターである。
他のスライムに比べるといくらか知性を持っており、まとめ役のような役割を担う。
レベルや戦闘経験を積んでいるならともかく、駆け出しの冒険者は要注意。
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
「“シニアスライム”はレア度Eって…もしかして?」
「はい、前に言った一部を除いてってモノのその一体です。」
「トーマさんの修行を兼ねての思いで受けたんですけど、本当にごめんなさい」
「私も加勢します」
セリカから聞いた「一部を除いて」の意味合いや能力を持ったそのスライムが目の前にいる事実に俺は肝を冷やしている。
セリカも俺一人じゃ荷が重いと判断したのか、剣を抜いて臨戦態勢を整える。
そして、俺は異世界に飛び込んで初の命のやり取りを伴う修羅場に飛び込もうとする試練に直面するのだった。
スライムのコロニーに辿り着いたが、そのボスでありスライムの上位種である”シニアスライム”が3体同時に現れた。
セリカ曰く、スライムのコロニー一つには大抵は1匹らしいのだが、想定よりも数が多かった。
セリカは剣を持って構え、俺も短剣を持って向き合うが…。
3体の”シニアスライム”が口らしき場所から魔法陣のようなモノが出て水が一つのボールみたいにみるみる収束されていく。
「んっ?」
「トーマさん、攻撃を撃つ態勢です、近くの岩陰へ!」
セリカが発する声を聞いて俺達は咄嗟に右にある岩陰へ走り出す。
そしてそれぞれがバスケットボールの2倍程度のサイズの水の弾が飛ばされた。
それは地面で大きく弾け、飛沫が辺りに広がった。
「“シニアスライム”が含んだ水分で打ち出す弾丸です」
「防具が無い状態で受けたら大怪我しますよ」
「マジか?」
セリカの説明を聞いて”シニアスライム”の放った攻撃箇所を見ると、3発同時に放たれただけに約3メートルの穴ができていた。
今の俺は革鎧を纏っているものの、確かに生身で受けたらヤバいな。
考えている俺に対しセリカが口を開き…
「トーマさん、一つ作戦があります、いいですか?」
「え、何かあるの?」
「はい、実はですね…」
俺はセリカから一つの作戦を聞かされる。
「と言う方法なんですが……」
「よし分かった、やろう!」
「即決ですね、大丈夫ですか?」
「俺が今持ってる魔力やスキルで活かせるならやらない手はないし、ここで二の足を踏む訳にはいかないよ」
「それに、村長と約束したからね」
「必ずクエストを達成して見せるって!」
「そうですね!」
作戦の段取りを決め、俺達は戦う決心を固めた。
クエストを受けておきながら「できなかったのでやっぱり止めます」なんて無責任な真似をしてしまいたくないから。
何より、初めての討伐クエストを半端な気持ちで放棄するなんて、村長さんに、付いてきてくれたセリカに悪いから。
そして……。
「ウォォォーー‼」
「俺はここにいるぞ‼」
俺は”シニアスライム”3体に突っ込んだ。
何の工夫もなく突進する俺を見て、相手サイドも、攻撃態勢を整える。
そこで俺は真っすぐ少し走り…
(今だ、このタイミング‼」
俺は”シニアスライム”一体の懐近くの人一人が隠れられそうな岩陰に飛び込んで躱す。
放たれた水魔法は失敗に終わり、大きな水飛沫が俺の周りを包む。
そこで一つの声が響く。
「【風魔法LV.1】ウインドスライサー‼」
セリカの放つ風魔法であり、俺が初めて見た風の真空波による魔法攻撃だ。
その刃は一体の”シニアスライム”のど真ん中に命中して、その身体はボロボロと崩れて最後は光の粒子となって消えた。
まずは一体倒したから後二体だが、ここからが問題だ。
今の”シニアスライム”一体の消滅がきっかけで入ってきた穴から”ブルースライム”が多く雪崩れ込んできた。
上司同然の上位種がやられれば、部下的存在の下位種が助けに動くのは予想できた。
ここからは一個体それぞれなら簡単に倒せるものの、大量の”ブルースライム”を駆除しながら残り二体の”シニアスライム”を倒しコロニーも破壊しなければならない。
俺は騒ぎに乗じながらセリカの下に駆け寄った。
「セリカの想像通りの展開になっちゃったね」
「まさかこんなに早く”ブルースライム”の増援が来るなんて……」
「じゃあ、ここから先は……」
「ハイ、予定通りに!」
「よし‼」
俺とセリカは示し合わせたように走り出す。
俺は”ブルースライム”の群れに、セリカは二体の”シニアスライム”に向かった。
作戦通りに。
俺が最初に突っ込んだ際はセリカが前もって地形や戦況、スライム達の特性を加味して作戦を立ててくれており、囮役として注意を引いてそこをセリカの魔法で一体を始末するのが目的だった。
セリカは”シニアスライム”を単独で倒した経験があり、二体同時でもスピードで引っ搔き回しながらだったら何とかできると伝えられた。
そして俺は「ブルースライム」の群れを殲滅する役割を担う事になったが、洞窟に入る前に何匹か相手をして倒し方などを概ね把握している。
だから俺が倒しやすい相手を倒し、セリカが対処できる事には任せる形で乗り切る作戦に打って出たのだ。
「フンッ、シッ、ハッ!」
俺は多くのスライムを前にしながら剣を振るい時に空いた腕でパンチ、脚でキックする形で薙ぎ払っていく。
だが、さっきと違うのはその倒すペースだ。
俺は今【腕力強化】を発動している。
「うおーーーーーー!!」
洞窟に入る前はスキルを使わなかったが、今は数も数だからスキルを使い、上昇しているパワーでスライム駆除をしている。
【腕力強化】は文字通り腕力、もっと言えば上半身の筋力強化と言っていいような感覚のスキルだった。
それだけに俺は腕を始めとする身体が強化された高揚感や力の滾りを感じながら、振るう短剣に力を込めて多くのスライムを相手に立ち回る。
短剣を強く激しく振るいながら、近くの持ち上げられる相当な重量のある障害物を投げつけ潰しながら、その群れを倒していく。
気が付くと、残るスライムは目の前にいる数匹となった。
そして…
「これで全滅だ―――!」
俺は残った”ブルースライム”をダメ押しの【腕力強化】を発動させて強烈な横薙ぎを振るってしばらく戦うと、何とか周囲のスライムを殲滅する事に成功できた。
「はぁ、はぁ…こっちは完了できたな。」
「そうだ、セリカは…」
俺は自分の任された役割を果たしてセリカの方を向くと…。
「うぉ、これって……。」
俺が見た光景には……。
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