第6話 仕事と修行
昨晩、クエスト達成したお祝いに俺はセリカと飲み交わし、彼女の家に帰宅した後に眠った。
朝日を浴びて目が覚めた俺はダイニングに向かうと……
「あ、おはようございます!」
「うん、おはよう」
同じタイミングで俺とセリカは目覚め、それから一緒に料理をした。
世話になってばかりなのは悪いので、調理はセリカがメインで俺はパンや干し肉などを配膳しながら補助した。
俺はこの数ヶ月、俺はギルドに出向いてFランク向けのクエストを見つけては一つ一つこなしていった。
ある時は薬草や素材の採取をするために近くの林に潜り、ある時は古くなった家屋の取り壊しをして、またある時は狭くない街を歩き続けて配達業務を行い、運び終えたらその都度荷物をギルドに回収しに行ってまた配達を数件こなしていた。
Fランククエストの仕事内容が簡単である理由として、Fランク冒険者はモンスター討伐のクエストは基本的に受ける事ができないため、肉体労働のような仕事やギルド近くの『ミハラ草原』を始めとする野原や森林などで薬草採取と言った冒険者登録したばかりの人でもこなせるモノを受けていかなければならない。
セリカやナミネさん曰く、「Fランク冒険者が不用意にモンスター討伐を一人で行うのは非常に危ないから」との事であり、依然見かけたゴブリンも技量や経験が未熟なFランク冒険者が単独で挑むのはほぼ自殺行為だと聞かされた。
て事は俺、あの時随分無謀な事しちゃったのね~。
「ふぅ、今日のクエストはこれで全部できました」
「クエスト達成を確認できました、こちら報酬でございます」
「ありがとうございます」
「トーマさん、お疲れ様です」
「セリカ、この後ギルド飯でもどうかな?お腹空いてるし結構稼げたと思うから俺が……」
「ギルド飯いいですね、でも今回は二人で出し合う形にしましょう!」
「うん、そうだね」
俺は一人でこなせるクエストをやっては稼いだお金でセリカとギルド飯を楽しんだ。
やっぱり一仕事を終えた酒は旨いモノだ。
時々セリカの家で自炊もしている。
当然、駆け出し冒険者がFランククエストを多くこなすのを義務付けるには意味がある。
俺を始めほとんどの冒険者が今覚えている【腕力強化】を活かしながら肉体労働をこなす事で体力の向上やスキルによる魔力操作を少しずつ身体に慣らす訓練も兼ねて、街中の配達も運搬しながら広い街の地理や建物を把握するのにも役立てていく狙いもある。
配達はセリカも一緒に受けてくれただけでなく、どこにどんな店があるのかも教えてくれたお陰で、俺もある程度分かってきた。
自分一人じゃ本当に苦労していたかもしれないから、セリカの協力は本当に大助かりだ。
また、ナミネさんを始めとするギルド職員の方々も親切で、ギルドで見知り合う先輩冒険者も頑張りを褒めてくれる。
本当に俺は恵まれていると実感するのだった。
冒険者としての仕事の勝手や手続きなどがいくらか理解できるようになったある日、クエストを受けるために街のギルドへ向かった。
依頼掲示板を依頼書が何枚もありそれらをセリカと一緒に確認していた。
「トーマさん、これなんかどうですか?」
「何々、『スライムのコロニー殲滅を求む!』か、Eランク向けのクエストで最低人数は2名以上が推奨か。報酬は……」
「金貨5枚‼」
「Fランクのトーマさんと組んで挑むクエストにしては割りがいいかなと…」
記憶の限りではスライムってゲームの中でも最弱の部類とされていて、コロニーとは同一の種類の生物が形成する集団を意味している。
本当に思っている通りならば、スライムならできるかもと思っている。
「この依頼内容でしたら、トーマさんの修行にもなるんじゃないかって思ったんですよ!」
「え?修行って……」
「スライム系のモンスターは一部を除いて、Fランク向けの冒険者でも割と簡単に倒せるんですよ」
「だから冒険者を始めた人のモンスター討伐による訓練には丁度いいんです」
「そうなんだ」
「コロニーって事は一種類のモンスター及びその派生系が何体も生息している場所であり、基本的には2人以上での討伐が望ましいんですよ」
「コロニーと言ってもおびただしいほどの数かもしれなければ、片手あれば十分な数だったりとピンキリですね」
「スライムのコロニー殲滅だったら、私の助手と言う形でFランク冒険者も参加できます」
「最も中級上級モンスターのコロニーとなれば人数や求めるランクも増すんですけどね」
「なるほど」
…とセリカはスライムがどんなモンスターでコロニーとは何なのかを丁寧に説明され、今の俺でもできる理由を教えてくれた。
一部の例外と言うのは気になるところだが、聞いた限りでは今回のクエストはできそうな気がしてきた。
「分かった、このクエスト参加してみたいんだけど、いいかな?」
「ハイ、もちろんです‼今手続きしてきますね!」
俺がそう言うと、セリカは快諾してクエスト受注の手続きを済ませた。
善は急げと思わんばかりに目的地へ向かう事となり、街の外れにある『ブモダ村』と言う小さな集落へと歩いていった。
セリカが住んでいる方角とは逆向きであり、少し歩くとすぐに建物一つない道と草原だけの風景になった。
俺はセリカと会話しながら目的地に向かっていた。
「スライムって今俺が持っている剣で大丈夫かな?」
「大丈夫ですよ、スライム系のモンスターは初級の魔法攻撃はもちろん、強く斬ったり叩いたりするだけで倒れてくれますから。そのコロニー殲滅は冒険者になったばかりの人にとってはレベリングや戦闘経験を積むのに最適なんですよ」
「それなら安心かも」
「ただスライムと言っても、警戒すべきなのはどれだけの数がいるかなんですよね」
「スライムのコロニーは平均的には100~200匹と言われていますが、過去にはその数倍あったって話も……」
「そうだとしたら大変そうだね」
「大丈夫です!その時は私も援護しますし、安心して下さい!」
セリカの言葉に俺は安心してクエストに臨めると自信を持てた。
しばらく歩くと目的地の最寄りの小さな村に到着した。
パッと見た感じは古めかしい建物がちらほら見え、ティリルのような活気さはないものの、露店や商店もぽつぽつとあって和やかな雰囲気を感じさせる印象が強かった。
俺達が村に入ってしばらく歩くと…無精ひげを生やした一人の壮年の男性が歩いて来た。
「おや、お兄さんら旅の者かな?」
「旅ではないのですが、私はティリルにあるギルドからクエストを受けてこの村に派遣された冒険者のトーマ・クサナギと申します、こちらはセリカで同じく冒険者です」
「初めまして、セリカ・ブレンフィアと申します」
「あなた達が、でしたら村長の下にご案内しますね」
「ありがとうございます」
村の男性に声をかけられ、自分達の素性や来た理由を伝えると、俺は村長らしき男性の下へご案内された。
村長がいると言う詰め所らしき建物は他の村の家に比べれば、いくらか手入れされておりまあまあの広さだった。
中に入ると、レトロな雰囲気は残しつつも受付や事務処理に勤しんでいる人達がいた。
どうやらこの村における手続きや他の土地とのやり取りも担っているようだ。
そして男性はクエストを受けた俺達が来たと受付の女性に報告すると、すぐに村長の下へ案内された。
「この度はクエストを受けて村まで来ていただき、誠にありがとうございます」
「私はこの村の村長をしておりますモルタと申します」
「「よろしくお願いします!」」
村長のモルタさんは60代ほどの初老の男性であり、短い灰色の髪と立派な顎髭を生やしており、在任している立場なだけに村の人達と比べれば相応に仕立ての良い服を着ている。
村長の部屋は豪華とまではいかないが、比較的広くしっかりと掃除が行き届いており、長椅子も弾力があって木の椅子に比べると座り心地は大分良かった。
俺達は互いに自己紹介をした後にクエストの内容を村長から一通り聞き終える。
「と言う訳だが、受けて下さるのでしょうか?」
「ハイ、そのためにここへ来たのですから」
「どうかお任せ下さい!」
「早速その目的地に向かいます!」
「ありがとうございます、心強い限りです!」
俺達は改めて力強い返事をして、モルタ村長を安心させた。
それから俺達は村の若い男性の案内によって、少し距離のある森の中にある沼地に辿り着き、男性には身の安全のために先に帰ってもらった。
道中で今回の依頼を出した理由は、この沼地付近にスライムのコロニーができた事によって、それが村の人達を襲ってくる事件が増えたとの話だ。
スライム自体は戦闘向きじゃない職業の人物でも簡単に倒せるものの、その数や頻度が日を追うごとに増えてきているとの事であり、女子供や年配の人も多くいる村で起きているなら放置できないと判断したモルタ村長がギルドにクエストを発注したのだ。
「ここがその沼地ですね……」
「いかにもって感じだな」
目の前にある沼地はいかにもジメジメしたような印象を与えさせ、森の中にあるのもあってか、陰気な雰囲気を感じ取った。
するとふと青い液状の丸まった物体の何匹かが俺の視界に入ってきた。
「セリカ、あれって」
「はい、あれがブルースライムですね」
(よし、【簡易鑑定】発動!)
俺はブルースライムを見て保有スキルである【簡易鑑定】を発動する。
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名前:ブルースライム
種族:スライム
レア度:F
スキル: —
【概要】
スライムの中でも最弱であり、強い衝撃で簡単に倒せる。
自分に被害を加えられそうになったら体当たりしてくる習性があり、普通の大人なら少し痛いと感じる程度だが、子供や老人が受けたら怪我に繋がるのでそこが唯一の注意点。
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
「よし、いくぞ、ハァァァ!」
俺は近づき、手に持っている剣を振り下ろす。
するとスライムはあっさり真っ二つになって光の粒子となって霧散した。
それから残りの数体のスライムもパンチやキックを混ぜつつ、斬撃を一つずつ浴びせて倒していった。
セリカの言う通り、本当に最弱クラスだったんだな。
「よし、できた!」
俺はスライムなら余裕で倒せると感じて自信を持ち始めていた。
だが俺はこの時、自分の中で引っかかっていたがクエスト達成に意気込む余り、一つだけ抜けていた要素があった。
セリカが言っていた、「一部を除いてスライムは最弱モンスターである。」
そう、一部を除いて。
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