第2話 異世界に来た経緯
モンスターと戦闘していたセリカを成り行きで助けた俺は来てしまった。
セリカの家、そう、女性の家だ。
海辺を迂回して街から少し離れた所にこじんまりした家屋があった。
見た目は少し年期の入ったシンプルな木造建築で、ベッドと机と最低限は置いてある家具付きの部屋が2つほどあり、総合的な広さは20坪くらいかな?
いかんいかん、異世界転生したせいで分からない事だらけとは言え現実世界換算で品定めやチェックをしてしまう。
行き場もない着の身着のまま状態だった俺をこうして家に招き入れてくれた事に感謝はしているが、やはり女性の家に二人きりと言うのは緊張してしまうものだ。
二人分の食事ができるサイズの木製テーブルに木の椅子があり俺は座らせてもらい彼女を待っている。
水を浴びて汚れを落として服を洗濯した後に着替えて食事をするとの事だ。
「うー何かソワソワしてきたぞー」
少し使用感のある普通のTシャツと長ズボンのようなものを着させてもらっている状態の俺がそう思っていると…
「お待たせしました!」
「うんうん、大丈夫だよって…」
出てきた部屋からセリカがやってきて俺はその方角を振り向いてみると…
「洗濯物も干していたら少し遅れてしまいまして…」
(うおーこれが女性の風呂上りルックかーーー、可愛すぎじゃないか?)
セリカは黄緑のノースリーブのサロペットとハーフパンツのラフな格好で現れた。
俺の顔は赤くなってしまった。
何度も言うが俺は女性の家に入るのはこれが初めてであり、当然風呂上がりの女性の格好を拝むのも人生初だ。
「じゃあ軽くですけど、食事の準備をしますね」
(今度はエプロン姿~)
セリカは火を起こしながら、ピンクの布でできたエプロンを巻いて笑顔で俺の方を向きながら料理し始める。
何かもうね…サービス良すぎ。
それからしばらくして料理が出来上がった。
「さぁ、召し上がって下さい‼」
ホワイトシチューのような汁物に一本のパン、更には干し肉のようなモノが出てきた。
料理を作ってくれた事には素直に感謝しているが不安が一つある。
現実世界からやって来た俺はセリカの、いや彼女を始めとするこの異世界の人達では味付けはもちろん、使う素材も得体の知れないモノばかりな懸念点が頭から消えなかった。
少なくとも不味そうな感じはほとんど感じないけれど、それでも俺の舌がこの世界における食事に合うかどうか……。
ゴクリと唾を飲み込み落ち着こうとする俺に…
「シチューに使っている野菜は、私が普段お世話になっているギルドがある街の八百屋で買ったんです」
「干し肉は“ブラウンモウム”と言う家畜用モンスターから採れて、焼いて食べるのはもちろんですけど、干せば肉の旨味が凝縮されて歯応えも味も増して保存食になるんですよ」
「そ、そうか、ありがとう…」
セリカが丁寧に説明してくれてホッとした。
言われてみればシチューに入ってる野菜って現実世界ではキャベツ・ニンジン・ブロッコリーに似ているし、セリカが言うなら干し肉も食べて問題ないと言う事だな。
「少しですけど、まだお代わりもありますよ!」
「では、いただきます」
セリカが笑顔で促し、俺は少し警戒しながらも、まずシチューを口に運ぶ。
食材を噛んで飲み込むと…
「お、美味しい!暖かくて野菜の柔らかさもいい感じだ!」
「本当ですか?よかった、お口に合ったようで」
干し肉もビーフジャーキーみたいな感覚でこれも癖になりそうな旨さであり、セリカの料理は美味しかった。
異世界の食材や料理は当然これだけではないはずなのは想定しており、まだ不安ではあるものの、セリカのお陰でそれが大分拭えた。
それから食事を楽しんだ後は…
「ふぅ、美味しかったよ、ごちそうさまでした」
「喜んでもらえて何よりです」
異世界に来て初めての暖かく美味しい料理に俺はホッとした。
食器を片付け終えたセリカは背中越しに話しかけてきた。
「ホッとしたところで…トーマさん…ですよね」
「はい?」
「聞いてもよろしいですかね?ゆっくりと言っていただければ大丈夫なので」
「分かった、話すよ」
セリカはエプロンを外して再び椅子に座って俺と向き合った。
「今から言う事は信じられない事かも、だけど…」
俺はセリカにこれまでの経緯や自分が何者なのかを伝えた。
そして自分自身が、現実世界からこの異世界に飛ばされてやって来た事も…
「地球と言う星があって日本と言う国で育ち、お仕事を失くしてゲームをしようとしたらこの世界に飛ばされて来たんですね」
「うん、目を覚ましてすぐにどうすればいいんだと思っているところに、君がモンスター達と戦っている場面に遭遇したんだ」
「私が襲われているところに乱入して“ゴブリンポーン”を一撃で殴り倒して、それがきっかけとなって最後は全滅させる事ができたと」
「そして君にお礼がしたいからと言われてお家に招待されて今に至ると言う訳かな?」
俺は何とか説明できる限りで話す事はできたと思っている。
まだ甘いかと思った俺だが、何かを思い出したように口を開いた。
「あ、そう言えばこの世界に飛ばされた時に自分のステータスが見えたんだ」
「その時に種族だったかな、異世界人って言う単語が出てきたんだ」
「そのステータスって、見せてもらう事はできますか」
「今出すよ」
ステータスを開くように念じるとそれが出てきて、それをセリカに見せた。
自分のステータスは基本相手に見えないようになっており、見せて欲しい相手と合意すればその人も見られるとの事だ。
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名前:トーマ・クサナギ
性別:男
種族:ヒューマン(異世界人)
年齢:29
ギフト:何でも屋
冒険者ランク:-
パーティー:未所属
<ベーススキル>
【腕力強化】
腕力を上げる。
<ジョブスキル>
【簡易鑑定】
レア度D以下のモンスターやアイテムの名前や特徴を一目で判別する。
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「本当だ、確かに種族のヒューマンの横に異世界人ってありますね」
「どうかな?信じてくれるかな?」
正直に言うと、これで信じてもらえなければ色々と後がないような状況だ。
恐る恐る俺はセリカの顔を見ると…
「どうやら本当みたいですね」
「え?」
「この世界で生きている人達には、今トーマさんが見せてくれたステータスと言うモノが一人一つ与えられるんですよ」
「そうなんだね」
「この名前、性別、種族は生まれた時から定められていますからね」
「モンスターと戦闘したり鍛錬を重ねたりすると個人差はありますがスキルも身に付いていきます。モンスターの討伐をした方が鍛錬するよりも上がりやすいですからね」
「鍛錬はあくまで自分の持っている戦闘技術やスキルを向上させるって意味なので……」
「へ~」
「15歳になった時に教会で「職授の儀」を受けて、そこでギフトを授かるんですよ」
「え、じゃあこの『何でも屋』ってギフトは…」
「ギフトを見て私かなり驚いたんですけど…『何でも屋』は数万人に一人に授かると言われていて、別名『器用貧乏のギフト』と言われているらしいんです」
「何じゃそりゃ!」
セリカに異世界からやって来たと信じてもらえるかどうかの問題は解決した。
だが、よりにもよって器用貧乏って…そりゃ現実世界では営業マンや土木作業員をやってそれからサブカル専門店の店長と畑違いの仕事を転々としたけどさ…
「でも、それは裏を返せば何色にでも染まれる引いては自分の強みを見つけさえすれば唯一無二のギフトになり得ますからどうか気を落とさないで下さい」
「うん、ありがとう。」
「では、今度は参考の意味で私のステータスも見せてあげますね。」
セリカに慰められて少し救われた気はしたものの、異世界の事を何にも分からないままなのは本当にマイナス要素だ。
セリカは俺に彼女の現段階でのステータスを見せてくれた。
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名前:セリカ・ブレンフィア
性別:女
種族:ヒューマン
年齢:20
ギフト:軽戦士
冒険者ランク:D
パーティー:未所属
<ベーススキル>
【腕力強化】
腕力を上げる。
【脚力強化】
脚力を上げる。
【気配探知LV.1】
モンスターや人の気配を半径100M以内の範囲で察知できる。
<ジョブスキル>
【風魔法LV.1】
風魔法を使用できる。
【風魔法LV.2】
LV.1より強い風魔法を使用できる。
【剣戟LV.1】
強力な剣戟を放てる。
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「風魔法って、もしかしてあの時のモンスターに放った…」
「そうですよ、『ウインドスライサー』は【風魔法LV.1】の魔法で使える真空の刃で、あの時はゴブリンソルジャーの隙を作れたから急所へ上手く当てる事ができたんです!」
「そうだったんだ、この『軽戦士』って言うのは…」
「名前の通り、スピードやテクニカルな動きを活かした戦士の事です」
「『軽戦士』は剣術に加えて風魔法を得やすく、経験を積めば威力にも優れる雷魔法も習得できるらしいんだけど、私はまだみたいですね」
「その人の種族や与えられたギフトによっては習得しやすいもしくは上がりやすいスキルが違ってくるんですよ」
「戦士系だったら剣術を始めとした攻撃力や防御力強化のスキルを覚えやすかったり、魔術師系だったら武具を使った戦闘系のスキルは得にくいけど何種類もの強力な魔法を習得しやすかったりですね」
「種族でも分かりやすく言えば、ドワーフだったら戦闘スキルと鍛冶スキルを身に付けやすくなって…」
セリカはギフトや種族ごとに得られるスキルや伸び具合、固有スキルなどの彼女が知る範囲で教えてくれた。
俺も興味を持って聞いていたが、話をしている内に日を跨ぎそうな時間になった。
セリカは頃合いと思しきタイミングで話を切り上げて…
「もう、こんな時間ですし、今はもう休みましょうか?」
「え?あ…うん」
「私の知っている限りで話したのですが、追って教えていきますね」
「隣の部屋も殺風景ですが、ベッドもありますのでそれで寝て下さい」
「ありがとう、助かるよ」
「では、お休みなさい」
「うん、お休み」
セリカは自分の部屋に戻り、俺はもう一つある部屋のベッドで寝かせてくれた。
異世界に意図せず引き込まれたけど、そこで初めて会った人がセリカで良かったと心の底から思えた。
彼女じゃなければ俺は言い知れぬ不安を抱えたまま彷徨っていたかもしれないし、下手をすれば悪い人間に騙されて酷い目に逢っていたかもしれない。
衣食住を与えてくれて飛び込んでしまった世界について教えてくれるセリカには、今はただ感謝の気持ちでいっぱいだ。
明日はセリカが大事な用事で街に出るから、その時に何かできる事があればと思い睡眠を取って休むようにした。
「セリカの用事ってなんだろう?」
疑問を抱きつつも、ワクワクもそれ以上に抱いて眠る俺だった。
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