第40話 大家さんにお呼ばれ

私が住んでいた一軒家の大家さんはフランス人の女性で、とても気さくな人だ。フランス語ができない私を住まわせてくれたし、時々クロワッサンとか、お菓子とか、いろんなものを買ってきてくれる。最も、あとで聞いたら、英語を勉強したいから、フランス語通じない人だといいかと思った、という理由だったみたい。


私は1階、大家さんは3階。2階はフランス人夫婦が借りているが、どうも、税金対策でルクセンブルグに住所を置いておきたいためだけに借りているようで、ほとんどいない。ということは必然的に大家さんと私は一人暮らし同士で、会えばおしゃべりする仲になったのだった。


さて、ある日廊下で二人で立ち話をしているときに、ついに、うちに遊びにいらっしゃい、と誘ってくれた。


え、いいんですか?うれしい!と日本だったらありえない返事をして、週末に遊びに行くことになった。とはいっても、同じ家に住んでいるのだから、階段を上がっていくだけなのだけれど。


そこで、ハタっと気づいた。あれ、こういう風にお呼ばれしたときって、手ぶらじゃ行かないだろう。でも何をお土産にすればいいのかな。


大家さんはこのルクセンブルグの一等地の一軒家だけでなく、南フランスにも数軒不動産を所有し、家賃収入を得ている、ということは本人から聞いて知っていた。


それに、家にいるときの普段着からして、見るからに高級そうな毛皮のベストとか、カシミアのセーターとか、そんな服ばかりだ。そんな人に、変なものを持って行っても迷惑だろうし...


ということで、早速友人に相談。すると、そんなときにはシャンパンもっていけば間違いないよ。種類が多くて好みがわからないワインよりよっぽど外れない。お菓子ももっていくなら、オーヴァーヴァイス(ルクセンブルグ発の高級なお菓子屋さん)なら迷惑がられないはずよ、と教えてもらった。


そして私は最も無難そうなモエのシャンパンと、お菓子を買っていざ大家さんの家に。


想像した通り、大家さんの家にはIKEAの家具は一つもなかった。不思議な形のオブジェが部屋のあちこちに飾られてて、本当にセンスがよい。IKEAの家具に囲まれた私の家とは大違いだ。


これよかったどうぞ、とお土産を差し出すと、大家さんが一言。なんでみんな手土産はシャンパンを持ってくるのかしら。


そう、大家さんは気さくで思ったことをズバッと言ってくれる人なのだ。


さすがに返答には困ったけれど、フランス人にはイタリアやスペイン製のワインなどは決してもっていかないように。どんな嫌味を言われるかわからないから、と友人から言われたことは言えなかった。


お菓子についてコメントがないところを見ると、お菓子は大丈夫だったみたい。


次からは、お菓子にするか。




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