第39話 マンテル ゾンデーグ

短かった夏が終わって、あっという間に紅葉が始まった。また、寒くて暗い冬がやってくるのかと思うとがっかりだ。


9月だというのに衣替えかぁ。


日本から持ってきて出番がないままのウールのコートたちを眺めて去年来た時のことを思い出した。着いたばかりの頃は着るものがなくて、変なレインコートとか、トレーナーとか買ったっけ。当然のことながら衣替えでそれらの服も出てきた。


今年も着るものないなぁ...と思っていたところ、友人が、マンテル ゾンデーグのことを教えてくれた。


直訳するとコートの日曜日、という意味なのだが、これは寒さが深まってくる10月の日曜日にお店が開いている特別な日なのだ。普段は日曜日と言えばほとんどの店が閉まっているルクセンブルグでも、この日曜日はどの店も開いている。そしてマンテル、つまりコートやジャケットなど、いわゆる防寒着が割引になる、バーゲンの日なのだ。


私のように着る服がない人にはピッタリの日。そして私は大のバーゲン好きだ。


よし。今日こそは、実用的でおしゃれで、好きだと思えるコートを買おう!と決意を決め、張り切って朝から出動した。


日曜日だというのにお店が開いている。それに、どの店もバーゲンをしているではないか!いつも通りロクシタンの前を通り過ぎ、一通りぶらぶらとしてみる。すると、なんと、80%オフ!と書いてあるお店を発見。


私は現地の言葉ができないのに、どの国に行ってもバーゲン関連の表示はすぐに覚える、という特技を持っている。フランス語は相変わらず全然できないけれど、バーゲンの表示だけは覚えた。


80%オフのお店では、ムートンのコートやジャケットが所狭しと並んでいた。


ムートンか。バブルの時代にそういえば一着持っていたような。高級感が出て素敵なんだな。自分のサイズに合いそうなものを片っ端から来てみる。うーん、どれも帯に短したすきに長し、だなぁ。


こういう時に私はよく判断を間違う。以前ルイヴィトンを買ったときと同じように。


これからは本当に寒くなりますよ。ムートンはリバーシブルだし、暖かいし、多少ぬれても大丈夫だし、フード付きだし、それに80%オフよ。こんな機会ないですよ。


確かに!それに黒だし、無難だし、暖かいし...


気が付くと、買います!と言ってレジに並んでいた。


包んでもらったバッグを肩にかけてみると、ずっしりと重い。あー、今日は一日いろんなお店で買い物しようと思ってたのに、最初にこんな重いものを買ってしまったら、ショッピングに行けないじゃないか!


この日の戦利品はこの一着のみ。それに若い時と違って、ムートンのコートを着ると肩がこる。やっぱりおばさんには軽くて暖かいダウンが一番だな。

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