第38話 ロイヤルファミリー

さて、ルクセンブルグは大公国だ。つまり、大公(君主)がいる国で、その大公の奥様やその子供たちなどを含むロイヤルファミリーが存在するのだ。


シティセンターのど真ん中に宮殿というには質素な、ちょっと見ると市庁舎のような建物がロイヤルファミリーの住まいで、夏にはどうも中を見学できるらしい。


私の友人にロイヤルファミリーの絶大なるファンがいる。彼女が、プリンセスの結婚式の日程を仕入れてきた。街中でパレードやお披露目をするというのだ。


当日、彼女は小雨が降る中、彼女こそロイヤルファミリーではないかといういで立ちでお出ましになり、パレードでも最前列で見られるように場所取りまでしておいてくれたのだった。ルクセンブルグの国旗を買い込み、携帯も充電ばっちりで臨んだ、という。


おしゃれに着飾っている彼女と比べ、私は以前買った、おしゃれでもなんでもないカッパとジーンズにスニーカーという場違いな格好で着てしまった。雨だということが幸いだ。天気が悪いと、カジュアルな服装の人が増える。


この国はロイヤルファミリーと国民の距離が近い。このような行事でもすぐそばで握手したり、話したりできるのだ。さらに、噂では、オーシャンというフランス系のスーパーに、日常的に買い物に行くらしい。しかし、見かけたことがある、という人には一人もあったことがないので、デマではないかと思っている。


そうこうしていると遠くで歓声が。そう、結婚の手続きを市役所で済ませた二人が悠然と歩いてくる。真っ白いウエディングドレスかと思いきや、白のパンタロンにローブ。旦那さんのほうは普通のスーツを着ている。ロイヤルウエディングにしてはかなり質素なような。


すると次から次へとロイヤルファミリーが出てくる。あれは次男で離婚してて、3男も離婚してて...などと次々と友人が説明してくれる。そしてとうとう大公と奥様もお出ましになったのだった。


私たちが立っていた場所は、ウクライナ難民といかにもかわいらしい3歳ぐらいの子供を連れたお母さんに挟まれていた。大公は、私たちの隣のウクライナ人にゆっくりと近寄り、戦争は大変ですね、と声をかけている。おーっとこれはシャッターチャンスではないか!とカメラを向けると私の友人が大きなピースマークを作りこちらににっこりと笑いかける。


一通り話し終わると、私たちを飛び越して、隣の子供に、雨の中ありがとね、と声をかけている。わー、これも近いのでシャッターチャンス。しかし、いつの間に移動したのか、はたまた友人が私のカメラに笑いかけていたのだった。


これじゃあ、友人がメインの写真になっちゃうじゃんか!


さて、これには後日談が。次の日、友人から、スクープ記事発見!というメッセージが来た。リンクを開けると、大公、子供、お母さん、そして私の友人が朗らかに談笑している写真が新聞にでかでかと掲載されたのだった。


当の私は、と言えば、なんと完全に大公の影になっており、全く写っていないではないか!


まぁ、おしゃれしてなかったしいいんだけどね、とは言いつつも、釈然としない思いはしばらく消えなかった。


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