第37話 野外コンサート

さて。日本からこちらに引っ越してきてから、あと少しで1年を迎えようとしていた8月。毎日からっと晴れていて、気持ちがよい。


少し前まであんなににぎわっていた街が8月に入ったとたん、ガラガラになった。


どうも、8月はルクセンブルグで働いている人たちが一斉にバケーションに行ってしまうため、街がガラガラになるそうだ。


そこではっと気づいた。そうだ、私、夏休みをとるのを忘れてたじゃないの。なんだかんだと忙しくしていたら、あっという間に8月で、同僚たちも、数少ない友人たちも一斉に街からいなくなっていた。


まぁ、一人でいるのも嫌いじゃないからいいか。それに、街では野外コンサートをやってたり、駐車場が突然遊園地になったり、いろんな催し物があるんだ。


しかも、野外コンサートには割と有名な歌手が来るらしい。私は恥ずかしながら、これまで一度も野外コンサートに行ったことがない。フジロックとか、以前誘われたけど結局行かずじまい。クラシックの演奏会は好きだけど、野外はなぜか行ったことがなかった。


でもせっかくだから行ってみるか。夜6時くらいに家を出て、行ってみた。


あんなに街中はがらんとしているのに、いったいどこから来たのか、たくさんの人が芝生に座って音楽を聴いている。踊ったり、一緒に歌ったり、楽しそう。


私はそんな人たちを眺めながら、クレマントを飲むことにした。しかし、平和だな。そして自由だな。


ルクセンブルグやヨーロッパは、人々の言動や服装、食べるもの、などなどどれをとっても、日本に比べて格段に自由度が高い気がする。年甲斐もなく、とか、女のくせに、とか、そういう概念がそもそもないみたい。


だから、私のような50代の女性でも、どちらかと言えば太い足をさらけ出してショーツで野外コンサートに行って、クレマントを飲んで、アイスクリームを食べながらぶらぶら歩くことだって誰にも気兼ねなくできる。ブヨブヨの二の腕が恥ずかしげもなく丸見えになるノースリだって普通に着ている。


日本に帰ったら、同じようなことができるかしら。


うーん、まぁないな。考えただけで恐ろしい。人目が気になるからなのか、そんなことをしている人はほかにいないからなのか、とにかく絶対にやらないだろう。


もしかしたら自分をしばっていたのは、自分自身なのかもしれない。それでもやっぱり、日本で同じようなことは多分一生できないだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る