第33話 衝動買い

私が住んでいた一軒家の一階のアパートは、シティセンターから歩いて15分くらいのところにある。私は歩くのが好きで、普段からいろんなところに歩いていくので、15分くらいは何でもない距離だった。


週末。用事もないくせになんとなく歩いてシティセンターに向かうことが多くなった。そう。それもこの夏のせいではないか。


天気が良くからっとしていて、日差しは強いけど気温はそれほどでもない。15分歩くと、まずは角にベネトンがあり、ロクシタンがあり、そのまま、いわゆる高級ブティック街に突入するのだった。


ルイヴィトン、ディオール、グッチ、エルメス。この通りには、ここぞとばかりに高級ブランドのお店が軒を連ねているのだ。


とはいえ、H&Mや、COSというようなお店もあったり、コーヒーショップもあったり、さらには、パン屋やスーパーまであるので、私はこの通りを大いに気に行っていた。


そんなある日。突然ルイヴィトンに入ってみたくなった。そう、今日は珍しく、店の前に行列がないのだった。


私はブランド品が好きだけれど、ルイヴィトンのバッグや財布は一つももっていない。みんなと同じものを持つのが嫌だから。モノグラムとかわかりやすいのは好きじゃないからだ。


でもブランド品、限定もの、そういうのは好きで、持つことよりも見ることが好きなのだ。だって高くて買えないもん。


とはいえ、勢いで入ってしまった。いらっしゃいませ。何かお探しですか、とお決まりの挨拶をされる。


うーん何も探してません、ともいえず、黒いハンドバッグで、あまり大きくなくて、いつでも使えて、丈夫で、あまり高くないものを。


この最後の部分を聞いた店員は、見るからにがっかりした表情を見せたが、そこはプロ。すぐにニコリと笑い、ではこちらで、と言っていろいろ見せてくれた。


ははあ。やっぱり高いだけあって素敵なバッグが目白押し。このバッグはいくら、とまずは値段を確認しているのは私くらいだ。


買うつもりもなかったのに、一つどうしても気に入ってしまった。これさ、日本から友達が来た時に買えば、税金払わなくて済むから安くなるのに、と思いつつ、どうしても持って帰りたくなってしまったのだ。


そして、17%もする消費税を払い、私は人生初のルイヴィトンを手にした。


さぁ。これをもってさっそうと出かけるぞ!と思い、家に帰ると大家さんに鉢合わせ。


私さ、とうとう買っちゃったのよ。もー、買うつもりなかったのに。これから一生毎日使わないと元取れないよ。などと言ってみたものの、大家さん曰く、そんなバッグ、危なっかしくて外に持ってけないじゃない。すり、ひったくり。やられないためには、斜め掛けにしてコートの下に入れなさいね。


え、コートの下に入れるんじゃ、見えないじゃない。あれ、私はルイヴィトンを持ってますと自慢したかったから買ったのかしら。


人生一世一代の衝動買いをしたのにも関わらず、ほとんど出番がないのだった。

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