第28話 プレッツェル ゾンターグ

まだまだ寒い日が続く3月。相変わらずのどんよりとした空を見上げながら、ホットココアをすすり、クロワッサンを食べる。一瞬、そんな生活ができたら夢のようだ、と思い始めてみたものの、当然毎日続けていれば飽きる。


最初は絶品だと思ったクロワッサンも、持ち帰って家に着くころには、パン屋さんで入れてもらった紙袋に油がべっとりとしみているのを見ると、激しい罪悪感に襲われる。うーん、朝食だけでどんだけカロリー高いんだ。昼はリンゴ、夜はおかゆにでもしない限り、帳消しにできないのではと思うほど高カロリーだと思うが、恐ろしくて調べる気にもならない。


だったら、何食べたらいいのさ。と、冬空を見上げながら悶々と考えていたその時。


ねえ、プレッツェル ゾンターグがやってくるよ。パン、買いに行かない?


とWhatsappでメッセージが来た。この友人は、ルクセンブルグ語を習っていて、語学学校で教えてもらうルクセンブルグの行事に詳しいのだ。


何々、プレッツェルゾンターグとは??


直訳するとプレッツェルの日曜日。小さい国の大きな伝統!プレッツェルの形をした、日本で言うところの山崎パンのミニスナックゴールドのような味のパン。これを1年に一度、男性から好きな女性に贈る、というこの行事。このパンが、パン屋さんに山盛りに積まれていた。


しかも、年によっては女性から男性に送るという時もあるらしい。時期はイースターの前。


普通、プレッツェルは人が腕を組んだ形のパンに塩がまぶしてある、しょっぱいものだが、ルクセンブルグのそれは、甘くて、砂糖がかかってて、生地はクロワッサンみたいなもので、かつスライスアーモンドまで乗っている、甘党の私にはとてつもなく惹かれる組み合わせのパン。それに、サイズは30センチくらいあるんじゃないかという大きさ。


私はこのパンを買ってあげたい人がいない。また、残念ながらくれる人もいなそうなので、堂々と自分へのプレゼントとして一つ買ってみよう。1500円くらいするパンなんて、日本じゃ買ったことないけど、1年に一度と言われた瞬間、すぐにでも買いに行くフットワークの軽さ。


寒空のなか、友人とパン屋に並んで購入。早速かじってみる。


うーん、ミニゴールドよりはもちろんおいしいけど(山崎パンさん、ごめんなさい!)30センチの巨大なパンを一気に食べられるほどのおいしさではない。というかクロワッサンにお砂糖かけてスライスアーモンドを乗せただけじゃないの。


と友人に言うと、いやいや。来年こそは、誰かにもらえるようになる、または誰か上げたい人を見つける。そう思って食べなさいよ。と言われてしまった。


おっしゃる通りです。来年こそは!頑張ります。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る