第27話 今日は危険

冬の朝は、8時半くらいまで暗くて、朝という感じがしない。夜と同じで、街には街灯がついている。


朝起きると必ず窓を開けて、外の空気にあたり、着ていく服を決める、といういかにも原始的な方法は、日本にいたときの習慣そのままだ。しかし、こちらでは暗くて、たいていしとしと雨が降っていることは変わらないのだから、いつもジーンズにレインコートといういで立ちは変わらないのだった。


年が明けて、日本からの荷物も無事ついて、やっと自分の服で生活ができると思いきや、雨の日がほとんどなので、日本から持ってきたウールのコートたちは、出番があるわけがなかった。


だったら靴だけでも、ということで、いろいろな靴を履いてみることにしていた。やっぱり履きなれた靴はよいものだ。


一つ、忘れていたことがあった。


秋のしとしと雨ならばまだしも、冬の雨は、夜中、氷点下まで下がる気温で、凍るのだ。ということは、朝はアイスバーンになっていることが多いし、それに暗いから状況がよくわからないまま、出かけなければならないのだ。


何も考えずにハイヒールのショートブーツでさっそうと出かけようとしたその時。


大家さんと玄関でばったり。開口一番に言われた。


あなた、今日は危険。昨日の雨が凍って、さらに上に雪がうっすら積もってるから、道路がどういう状況か見えない。まさか、あなたその靴で出かけるつもり?自殺行為。やめなさい。今日みたいな日は出ないのが一番。どうしても行くなら、長靴にしなさい。


えーっと、そこまで考えてませんでした。長靴ははかないと思って捨ててきちゃった。持ってるといえばDoctor Martinのハイカットだが、この靴は少しはいただけで裏がつるつるになるもんだから、ハイヒール並みに危ないはずだ。


結局、ハイキング用のハイカットの靴に厚手の靴下、薄手のダウンの上に、こちらに来てから買った、レインコートの重ね着といういで立ちで出かけることにした。


絶対に知り合いには見られたくない姿だ。おしゃれな街に住んでいるというのに、なんなんだこの格好は。


急に興味がわいて、トラムに乗ってからみんなの服装を観察。


あれ、ウールのコート、来ている人意外と多いけど。靴だって皮のブーツが多い。


後で同僚に聞いてみた。


だって、いつだって雨なんだもん。ウールのコートでぬれたって別にかまわないじゃん。靴だって、消耗品だし。わざわざ雨用の服にしなくたって。


なるほど。この人たちはこれが日常なのね。道理で平然としているわけだ。


私も次の日はウールのコートで出かけてみたが、そこでの教訓。ウールでもよいけど、フード付きが絶対便利!なぜなら、ほとんどの場合、しとしと雨だから傘をさすほどでもない。でもぬれたくないならフード付き、ということだ。

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