第15話 家探し

さてさて。衣食住、の衣食までは確保できた。足も確保できている。そこで、次はいよいよ住むところの確保。


私の仮住まいは1DKで、狭いくせに家具が詰め込まれている。家具付きのマンションがこんな感じなら、私は絶対家具なしで、広くて、新しくて、街の中心と会社に近くて...などなどと条件を並べ立てて不動産屋に連絡した。


それは条件がはっきりしてていいですね。いくつかありますよ。とすぐに連絡がきた。


ほほぅ、サービスは悪いって聞いてたけどなかなかやるじゃないか。


そこで紹介されたリンクを開けてみると...


確かに条件には合致している物件ばかり5件ほど紹介してもらったが、なんと一番安い物件で、日本円にして60万円程度の家賃だ。


そうか私は、予算を伝えていなかったんだ。道理で紹介が早いわけだ。


あの、実は家賃は安ければ安いほどいいのですが。20万円くらいのマンションだってあるって聞いたけど。


そういったとたん、1週間も連絡が来なかった。さんざんこちらから催促してもらった返事は、Call Me。


え?こっちが客なのに、電話して来いって?


おかしいだろ、と思いながらも家が決まらないと困るので、電話をしたところ、電話に出たのはロシア人。私の担当らしい。


一通り、ルクセンブルグで家を探す心得をレクチャーされる。Webサイトにあったからと言って空いているというわけではない。空いている物件が見つかって、かつ気に入ったらすぐ申し込みなさい。申し込んだからと言って住まわせてもらえるとは限らないから覚悟すること。だってあなたフランス語話せないでしょ。フランス語話せない人お断りといわれることだって多いのよ...


あの、そんなこと初めて聞きましたけど。でもよくわかった。住むところを確保することって大変なのだ。


そこで、条件を再検討して、再度絞り込んだ結果...


値段も手ごろ、広さもロケーションも最高の物件を見つけた。1950年築の一軒家の1階部分、ということを除けば条件に合う。見に行って即決したい、と申し出ると、じゃああなた大家さんに手紙書いてねと言われた。


え、手紙って言いました?メールじゃなく?


住むところがなくなるという恐怖と、こんないい物件はほかにきっとないだろうという思いから、私は懸命に手紙を書いた。


あなたの家、サイコーです!特に立地と、歴史ある建物、外観、すべてがおしゃれ!便利で安全。ぜひ私を住まわせてくださいませ。私は文化にも興味あるし、フランス語だって絶対勉強して見せます!仕事があるなしにかかわらず長くいたいです!


熱意が伝わったのか、すぐに大家さんから住んでよし、という許可をもらった。よかった。とりあえずはホームレスにならずに済んだ。

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