桜をあなたへ
楠ハル
【掌編】桜をあなたへ
夕飯を食べ終えて、勉強机へ向かう。明日提出する算数の宿題に取り組むためだ。私は、小学一年生になったばかりで、目が覚めた瞬間から、毎日不安と緊張で頭も心もいっぱいになる。心が重たくなってきて、側にある窓をほんの少し開ける。柔らかい風が私の頬を撫でた。大丈夫だよって言ってくれている気がした。宿題をしないと。
「咲ー!ちょっとおいでー!」
1階から私を呼ぶお母さんの声がした。
「はーい!今行くー!」
手を止めて、椅子から立ち上がる。
目がチカチカするピンクと白のストライプ模様の壁紙を横目に見ながら、階段を駆け降りた。
居間へ向かうと、正座をした母の後ろ姿があった。テーブルの上には、ミシンが置かれている。
「お母さんどうしたの?」
「咲が欲しいって言ってたワンピースが出来たよ!じゃーん!」目の前に明るい色がふわっと広がった。部屋の壁紙みたいなチカチカする色じゃなくて桜のような淡いピンクのワンピースだった。
そういえば、お母さんが子供の頃は洋服はとても高価で、なかなか買ってもらえなかったから、手作りしたものよと言っていた。
「きゃー!!!!とってもかわいい!!!お母さんありがとう!明日、学校に着ていってもいい?」
「いいよー!」
「やった!やった!」
ワンピースを強く抱きしめて、床が抜けてしまうくらい強くぴょんぴょん飛び跳ねた。大丈夫のお守り。
青空の下、柔らかい風を浴びながら、桜並木を2人で歩いている。
「ママー!見て見て!桜とお揃いだよ!」
手を繋いでいないほうの小さな手で、桜の木を指す。
「ママー?どうしたの?」「ううん、何でもないよ、お揃いだね」
私は、あの頃を思い出していた。
桜をあなたへ 楠ハル @haru_kusunoki_
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