第9話 良い意味でドキドキ

「大丈夫か、バトムス」


「は、はい……なんとか」


全部出し切り、口の中もゆすいでなんとか持ち直したバトムス。


「ぶっちゃけ、バトムスならモンスターの中身とか見ても吐かないって思ってたけど、案外そんなことねぇんだな」


「ジーニスさん……俺、まだ五歳ですよ?」


「いや、そりゃそうなんだけどよ。なんつーか……な」


ジーニスが言いたい事は解るものの、バトムスは転生者という存在ではあるが、常人と比べて頭のネジが一本か二本外れてる様なぶっ飛んだ存在ではない。


「けど、どうせならモンスターの中身も見るか訊こうかと思ってたし、手間が省けたって感じだな」


「……そうなのかもしれませんね」


「ふふ、やっぱり殺したって感覚が結構きてるか?」


生物を殺した。

その感覚に忌避感を感じる者は稀も稀……という訳ではない。


ずば抜けた才を持つ者であったとしても、そこを割り切れていなければ騎士や戦士として大成出来ない。


「…………いえ、そこはあまり問題無いと思います。確かに俺はこのゴブリンを殺そうとしましたけど、向こうも嗤いながら俺のことを殺そうとしたんで」


「へへ、良いじゃん良いじゃん。そうやって割り切れる考えを持てるのは大切だぜ」


「ありがとうございます。ただ、さっきの戦いは……割と逃げてしまったなと思うので、そこは反省しなきゃなって思いました」


(……いやぁ~~~~~、やっぱり先輩たちの気持ちが良く解るわ)


ついつい育てたくなる。

バトムスはそういった存在だと先輩騎士から言われたのを思い出し、ジーニスも同じ事を思った。


「俺としては、あそこで腹部に突き刺した短剣の柄を蹴って、んで片手を掴んで地面に叩き伏せる。最後は思いっきり頭を蹴り潰す流れは良かったと思うけどな」


「……あれは、一応考えていた二つ目のプランだったと言いますか」


「本来のプランはどんなプランだったんだ?」


「そりゃあ、しっかりと短剣を使って斬って殺すですよ。俺は、今までそういう訓練を積んできたんですから」


ただ、バトムスは前世の知識を持っており……戦闘力に関しては自信を持ってないということもあって、万全な準備を行っていた。


結果……ゴブリンというモンスターが発する殺気、襲い掛かって殺して食うという雰囲気に圧され……セカンドプランを実行することになってしまった。


「正直……ゴブリンの圧というか、そういうのに色々とビビってしまいました」


「ふっふっふ。さっきも言ったけど、そうやって自分のダサい部分をちゃんと口に出来てる内は、全く問題ねぇよ」


「そういう、ものですか?」


「おぅ、そういうもんだ。あっ、どうせなら魔石を取り出す作業もしてみるか? 魔石のことは知ってるだろ」


「はい、勿論知ってます……そう、ですね。何事も経験なので、やってみます」


「おっけい!!!」


バトムスはジーニスの指示通りに短剣を動かし、ゴブリンの腹を割いていき……小さな紫色の結晶、魔石を取り出した。


ちなみに、ゴブリンの臓物を見た……プラス、内臓等の匂いで再度メンタルブレイクを起こしたバトムスだったが、先程リバースしたため吐けるものはなかった。

吐けるものはなかったが、それでも気持ち悪さが消えることはないという……何とも言えなない最悪な気分を味わった。


「どうする。一応モンスターを殺す経験は出来た訳だし、もう帰るか?」


ジーニスは煽りゼロの、心配の気持ちマックスで問いかけた。


「大丈夫です。折角ジーニスさんが護衛をしてくれてる訳ですし……それに、まださっきの反省が出来てないんで。今度は、もっと自分が積み重ねてきた経験に自信を持って戦います」


「そうか……日が暮れる前までがっつり付き合うよ」


ジーニスの言う通り、バトムスは夕食前まで通常種のゴブリンやスライムなど、世間一般的に弱いと部類されているモンスターと戦い続けた。



「しっかし、よく頑張ったな、バトムス」


「ジーニスさん、それさっきも聞きましたよ」


屋敷に戻って来た二人。

敷地内に入ってから、ジーニスは改めてバトムスの活躍を褒めた。


「何度でも褒めるに決まってるだろ。色々とすげぇつっても、まだ五歳だろ。それなのに何度も何度も戦い続けて……ちゃんと反省を活かしてただろ」


「何度もビビりましたけど、まぁ……訓練の半分ぐらい? は、出せたと思います」


「……まだまだ戦い足りねぇか?」


「………………かもしれませんね。ビビッて、吐いて、恐れを感じましたけど……良い意味で、ドキドキもしました」


「はっはっは!!!!!! 良いじゃねぇか。なら、また休日の時は付き合ってやるよ」


「ありがとうございます」


「ところで、直ぐに飯か?」


「いやぁ……さすがに、先に浴場に行こうと思います」


自分では解らない。

解らないが、なんとなく血生臭さ残ってることは予想出来る。


「んじゃ、まずは汗を流すか」


男二人で汗を流しに行こうと決めたタイミングで……小娘が走って向かってきた。


「バトムス!!! 仕事もせずに何サボってたのよ!!!!!」


「…………教える訳ねぇだろ、バ~~~~~カ」


「なっ!!!!!!! ま、待ちなさい!!!!!!」


ベロを出しながらバカにした表情を浮かべるバトムスに、いつも通り怒りメーターが速攻で沸点に到達したルチアは頑張って追いかけるも、バトムスは浴場に避難することに成功。


さすがのルチアも、男湯に入ってはいけないという冷静さは持ち合わせており、いつも通り地団駄する結果となった。

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