第10話 変則ルール

ジーニスに護衛として同行してもらい、初めてモンスターという異形の怪物を討伐してから約一か月間……アストは六日、七日に一度のペースで休日の騎士に初回と同じく同行してもらい、ゴブリンやスライムなどの比較的弱いモンスターを倒し続けていた。


基本的にその件に関して、アストは他の人には話さず、一番仲が良いジョゼフぐらいにしか伝えない。


ただ……実際にアストの戦いっぷりを観ていた騎士たちは、時折その会話で盛り上がる。

なるべく騎士しかいない場所で話すのだが……うっかりルチアに訊かれてしまうという事態が起こった。


「私もモンスターと戦うわ!!!!!!」


当然、そう言ってギデオンや騎士たち、魔術師たちを困らせる。


辺境の土地を治める家に生まれたルチアは、いずれモンスターと戦う。

ルチア自身がその道を進むと希望している事もあり、普段の訓練を担当している騎士やギデオンたちなりに予定を考えていた。


ただ、五歳でモンスターと戦うのはいくら何でも早過ぎる。


「どうして!!?? あのバカはもう戦ってるじゃない!!!」


当然の様にこういった反論の言葉が飛んでくる。


現役の騎士やギデオンから見ても、ルチアには戦闘者としての才能がある。

それは間違いないのだが、どうイメージしても……上手く戦える姿が想像出来ない。


あのバカ……バトムスは何故許可されているのかと問われれば、普段の訓練光景を観ている騎士たちからすれば……対応力が優れているから、としか言えない。


バトムスが初めてゴブリンと戦った時の光景を観たジーニスが同僚たちに内容を伝えると、バトムスにも歳相応……人間らしい部分はあるのだなとは思いつつ、やはりスバ抜けた対応力を持っているなと感心していた。


しかし、そういった内容を馬鹿正直に伝えてしまうと、ルチアのプライドを傷つけてしまう可能性があり……後々面倒な予感になあるかもしれない。


どう言葉を返せば良いか、騎士やギデオンたちが悩んだ結果……要因の主と言えなくもないバトムスに丸投げしようという結果に至った。


「…………砂糖を購入してもらっても良いでしょうか」


今回もアブルシオ辺境伯家の当主であるギデオンから頼まれたバトムスは、タダで受けたくないという姿勢を示した。


当然ながら、ギデオンはバトムスからの頼みを快く了承し、その日のうちに購入の手配を行った。


そして翌日、バトムスとルチアの模擬戦が行われることになった。


因みに変則ルールとして両足以外が地面に付いたら負けという内容をバトムス側から追加。

理由としては、常日頃バカにする様な言動はともかく、物理的に怪我をさせるのは……という中途半端な親切心から追加された。


「面白いルールを追加したな、バトムス」


「そうですか? 俺が単純に早く終わらせたいからなんですけど」


「そこも含めてだよ。まっ、大丈夫だとは思うけど頑張れよ」


「うっす」


ジーニスからエールを送られ、準備運動を終えたバトムスは開始線へと向かう。


会場には非番の騎士や兵士、魔術師たちがいる。


そしてバトムスの正面には……同じく準備運動を終えて、最初からトップギアで動けるルチアがいる。


「…………」


「おいおい、顔が怖いぜお嬢」


「だからどうしたの」


(お~~~っと……超マジみたいだな)


ルチアはこの模擬戦に負ければ、何かしらの罰が待っている……という訳ではない。

負けたら花嫁修業に集中しなければならないといった未来はないのだが、合法的にバトムスをぶちのめせるチャンスとなれば……それだけで超集中状態で臨めるというもの。


「お二人とも、一般的な決着以外に、足裏以外の部分が地面に付いたら敗北というルールもお忘れなく」


「えぇ」


「うっす」


「それでは……始め!!」


審判の開始の合図の元、二人の模擬戦が始まった。


(? 開始から攻めてくると思ったんだけど、これはちょっと予想外だな)


バトムスが木製のロングソードを持ってるのに対し、ルチアは木製の大剣を装備している。


腕力の差も含めて、武器を振るう速度はバトムスの方が速い。

そのため、ルチアの訓練を担当している騎士は、迂闊に突っ込めばバトムスに上手くやられてしまうと伝えた。


本気でこの模擬戦に勝つつもりであるルチアは素直に助言を受け入れ、直ぐに突っ込まなかった。


(まっ、それはそれでって話だ)


来ないのであれば、自分が行くまで。

バトムスはある程度勢いを付けて近づき、ロングソードを振るう。


それをルチアはしっかりと大剣でガード。


魔力、スキルの使用が禁止であるため、まだそこまで身体能力に大きな差はない。


「よっと!」


「っ!!??」


初手の斬撃はフェイク。


鍔迫り合うつもりは一切なく、ルチアの横に移動したバトムスは左手で片腕を掴み、右腕は首下に添え……左脚で片足を引っかけ……それぞれ力を込める。


結果、片足を刈られたルチアは自由に動くもう片方の手で……地面に転がってしまわない様に、体を支えてしまった。


「っ、そこまで!!!!」


鮮やか過ぎる動きに一瞬反応が遅れるも、審判担当の騎士は直ぐにバトムスの勝利を

告げた。

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