第8話 引き出す難しさ
「んじゃ、行くとするか」
「はい!!!」
ジーニスにモンスターと戦ってみると伝え、マジックアイテムで体を強化した時の動きにも慣れ……バトムスは当然の様に執事見習いの仕事をサボって街の外に出た。
「どうよ、やっぱりドキドキしてるか?」
「そうですね…………ワクワクより、ドキドキの方が上回ってます」
「なっはっは!!!! それをお前自身が解ってるだけで、十分ってもんよ」
バトムスの戦闘力は、明らかに同世代の子供たちを上回っている。
しかし、バトムスは実際に触れ合ったことはなくとも、モンスターという存在と対峙するということは、前世の虎やライオン、狼などの猛獣と対峙するのと同じ……というイメージが浮かぶ。
そのため、身体強化というスキルが使える、魔力を扱える、マジックアイテムという年齢を考えればチート過ぎるアイテムを持っている……とはいえ、全く余裕など生まれてこない。
「ジーニスさんは、初めてモンスターと戦う時……やっぱりドキドキしましたか?」
「そうだな。ぶっちゃけ、自分の剣の腕に自信があったから調子に乗ってた部分があったんだが、気付いたら声を上げながら剣を振るってた。あん時は倒すことは出来たけど、それまで訓練で培った力や技術を半分も出せてなかったんじゃねぇかな」
恥ずかしい過去を思い出し、苦笑いしながらもジーニスは言葉を濁さずに伝えた。
「ジーニスさんでも……やっぱり、初めての戦いっていうのは、恐ろしいんですね」
「……迫力と殺気ってのは、また違うんだなって思い知らされたよ。まっ、俺の知り合いにゃあ、ションベン漏らしながらも勝った奴もいるんだ。変にカッコつけず頑張れよ」
「は、はい!!」
街からそれなりに離れ、森に入ってから数分後……いきなり目的のモンスターを発見。
「バトムス、あいつがゴブリンだ」
「あれが……ゴブリン」
緑色の肌を持つ、小さな鬼。
体形は人間に近いが、それでも異形の怪物だと一目で解る見た目をしている。
「一人でいけるか、バトムス」
「……戦ります」
「オッケー、良い顔だ。行ってこい」
ジーニスに背中を優しく押され、初めて……死地へ足を踏み入れる。
「ギギャっ!?」
「…………」
バトムスの存在に気付き、慌てて振り返るゴブリン。
しかし、その顔から焦りは直ぐに消え……ニタニタと汚い笑みを浮かべる。
(こっちもガキなんだし、当然だよな)
今のバトムスは子供。
身長は百十センチほどと、殆どゴブリンと変わらない。
「ギャギャギャッ!!!!!!」
(来たっ!!!)
バトムスはわざわざ今の自分に合う短剣を鍛冶師に造ってもらっていた。
そして元々カウンター狙いで倒そうと予定を立てており、頭の中で何度もイメージを繰り返していた。
(腹っ!!!!!!!!!)
「ィギャっ!!!???」
飛び掛かる様に襲い掛かって来た。
対してバトムスは身体強化を使い、全身に……武器にまで魔力を纏い、ゴブリンの体に対して短剣が垂直になる様に突き刺した。
しっかりと掴もうとしていた両手は回避しており、理想のカウンターと言えた。
(おいおい……やっぱあいつ、普通じゃねぇな!!!!)
初の命を懸けた戦闘で、冷静にカウンターを決めたバトムスに賞賛を送るジーニス。
だが、バトムスが短剣で刺した箇所は……腹。
心臓ではないため、それだけでは速攻で終わらない。
(お、りゃッ!!!!!)
「ッ、ギャ、ァ」
短剣を引き抜き、心臓を突き刺す。
もしくは完全に斬れなくても良い、ほんの少しだけ首を斬り裂く……そんな選択が理想的だった。
しかし、バトムスが次に取った選択は短剣による斬撃、もしくは刺突ではなく、腹に刺さった短剣の柄を蹴る。
(おっはっは!!!! いやいや、マジで面白れぇなおい)
柄を蹴られたことにより、短剣は更に深く刺さり……刃が完全にゴブリンの体を貫いた。
(手、手、手、手っ!!!!!!)
内心、バクバクに心臓を高鳴らせ焦りながらも……バトムスは痛みで動きが鈍ったゴブリンの手を掴み、そのまま地面に引き倒す。
「おらっ!!!!!」
「っ!!!???」
ゴブリンを倒した直後、バトムスは全力で跳び……そのまま後頭部を全力で踏みつけた。
「おら!! おら!!! ぅおらっ!!!!」
その後、何度も何度もゴブリンの頭部を踏み続けた。
「ストップ。もう大丈夫だぜ、バトムス」
「はぁ、はぁ、はぁ…………み、みたいです、ね」
命懸けの戦いは最後の最後まで、気が抜けない。
多くの騎士たちから同じ忠告を教えられていた。
途中から完全に頭蓋骨を、脳を踏み砕いた感触はあった。
だが……今回が、初めて命を懸けた戦い。
その緊張感から、バトムスは必要以上にゴブリンの頭部を破壊してしまった。
「っ!!!! ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!!!」
結果、当然と言えば当然だが……まき散った頭の中身を見てしまい、朝食を全てリバースしてしまった。
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