第2話 騎士や親から見て

「アグレー、こんなところで何をしてるんだ」


「スペルか。いやぁ~~~、なんか微笑ましいな~~~って思ってよ」


「……………………もしや、またバトムスがルチア様に追いかけられていたのか」


キリっとしたイケメンフェイスを持つ非番の騎士、スペルは同年代の同僚の言葉から、なんとか彼が何を思って微笑ましいと感じたのかを読み取った。


「そうそう。なんつーか、物凄く平和って感じがしないか」


「…………言いたい事は、解らなくもない。しかし、バトムスが追いかけられているということは、またバトムスがルチア様に無礼な言葉を口にしたということだろう」


「はっはっは!! まぁそうかもしれねぇけど、別に良いじゃねぇか。お嬢も勉強や作法の練習だけじゃあ、疲れすぎちまうってもんだ」


「アグレー、そういった問題ではないのだ。全くあいつも…………騎士の道に進むと決めたのであれば、生活面でも厳しく指導出来るというのに」


スペルもアグレーと同じく、バトムスには到底普通とは思えない強さに対する狂気的な向上心を感じ取っていた。


「バトムスが騎士の道に、ねぇ……興味はあるけど、それこそ似合わないって感じじゃねぇか?」


「似合う似合わないかで言えば、似合わないかもしれない。しかし、適正に関しては執事よりもよっぽどある筈だ」


「ん~~~~~…………そいつは否定出来ないな」


アブルシオ辺境伯家に仕える騎士たちの中で、バトムスの事を気に入っているのアグレーとスペルの二人だけではない。


中には、バトムスの父親であるノルドと同年代の騎士が、直接お前の息子を執事ではなく騎士の道に進ませたらどうだと伝えたこともある。


「けどなぁ~~、なんつ~~か、バトムスはそんな単純なやつじゃないだろ」


「……まだ十にもなっていない子供に使う言葉ではないが、確かに単純の思考の持ち主ではない」


騎士たちの中……だけではなく、アブルシオ辺境伯家に仕える者たちであれば、当主である辺境伯がバトムスの事を気に入っているという話は周知の事実。


「強くなることに対しての憧れは強いんだろうけど、別に俺たちみたいに誰かを守るために強くなろうとは思ってないだろ」


「…………冒険者たちの様な思考を持っている、ということか」


「おそらくな。まっ、俺はバトムスがどういう道に進もうとも、絶対に面白いと思うぜ!」


「……私としては、どうしても心臓に悪い可能性だと思ってしまうな」



「バトムス!!!! お前はどうしていつもいつも同じ事を!!!!!」


(あぁ~~~~……クソ長いなぁ…………)


結局バトムスはルチアからの逃走中、最後までルチアに捕まることはなかったが、家族ということもあって、どうしても最終的に両親に捕まってしまう。


「ハバトは真面目に執事の道に進もうとしているのに、どうしてお前は!!!」


(あぁ……それ言っちゃうんだ。別に俺だから特に問題無いけど、普通の子供だったらクソ強い劣等感を抱くだろうな~~)


ハバトというのは、バトムスの二つ歳上の兄。

非常に真面目で優秀な少年。


容姿も整っており、メイド見習いたちからも非常に人気がある。


そしてバトムスにとっては……生意気と捉えられる弟に対して下に見ることはなく、兄として普通に弟と接するような態度を取ってくれる、優しい兄貴。


「別に人手不足ってわけじゃないんだから、俺が執事を目指さなくても良いじゃないですか」


「そういう話ではないのだ!!!!」


ノルドが語る通り、そういった話ではない。


雇い主、主人であるアブルシオ辺境伯が許しているからといって、その対応に甘える訳にはいかない。


「…………もう説教は十分なので、まと後で!!!」


「待ちなさい!!!」


(げっ!!! やっぱり無理矢理逃げるのは無理か~~~)


この世界には、スキルという力が存在する。


子供が会得出来るスキルなど非常に限られているが、戦闘訓練だけは真面目に取り組んでいるバトムスは既に身体強化という、文字通り身体の力を強化するスキルを会得している。


発動することで、子供らしからぬ身体能力でまだの鍵を外し、なんとか脱出しようとするも、ノルドはただの執事ではない。


戦闘訓練を積んだだけではなく、実戦経験も豊富な本当の意味で主人を守ることが出来る執事。


大きなため息を吐き、額を手で押さえた一瞬の隙を突かれたとはいえ……ノルドからすれば、隙を突かれた内に入らず、捕獲。


「本当に……お前はどうして……」


教育上、暴力は振るうことは、決してナシではないと思っているノルド。


バトムスの普段の態度、行いを考えれば暴力を振るう教育を施されても当然と言われてしまうが……ノルドはバトムスの年齢不相応な思考力を理解しており、心底屋敷での生活に苦を感じたのであれば、五歳という年齢すら関係無く家を出ていくのではないかという心配があった。


結局夕食が始まるまで説教は続いたものの、全て右から入って左から抜けているバトムス。


翌日にはどういった説教内容をされたのか、全て忘れていた。

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