第3話 気合いあれば良し
「勝負よ、バトムス!!!!」
「…………へいへい、分かったよ」
ある日の昼過ぎ、ルチアが世話係のメイドと共に、ある物を持ちながら現れた。
そのある物とは……リバーシ。
バトムスが前世の知識、オ〇ロを模して作った娯楽。
この世界で自分が生きたいように生きたいと決めているバトムスにとって、金という力は非常に重要。
そのため、アブルシオ辺境伯の力を借りて、商品化することに成功した。
「勝負は一回だけだからな」
「コテンパンにしてあげるわ!!!」
場所を移動し、ルチアの専属メイドが用意した紅茶とお菓子を楽しみながら、バトムスはルチアの相手をする。
「……ここよ!」
「へぇ~~~~……本当にそこで良いのか?」
「っ!! え、えっと……」
「まっ、待ったはなしだけどな」
「っ!!!!!!!!」
(今日も今日とて、手玉に取られてますね~~~)
明らかに貴族の令嬢に対する態度ではない。
しかし、専属メイドである女性は、全くバトムスに注意するそぶりを見せない。
何故なら……もはやこれが日常風景だからである。
「っ~~~~~~、ここ!!」
「なるほど~~~~。んじゃ、俺はここ」
「っ……」
まだ勝負は中盤。
白と黒の数が互角。
互角ではあるが……目の前の憎たらしい程の余裕な態度を崩さないバトムスを見ると、どうしても自分が何かを見落としてるのではと考えてしまうルチア。
悩みに悩んでコマを置き、対するバトムスは特に深く考える様子を見せずコマを置いていく。
「ほいっと。さて、別に数えても良いけど、多分俺の勝ちだよな」
「~~~~~~~~~~っ!!!!!!」
バトムスの言う通り、差は十五以上。
いちいち数を数えなくても、バトムスの勝利は明確だった。
「も、もう一回!!! もう一回よ!!!!」
「嫌に決まってるだろ。一回だけって言っただろ。そんなにもう一回やりたいなら、何か用意して貰わねぇとな」
「なっ!!!」
「つか、俺そろそろ訓練の時間なんだよ。訓練の時間は削りたくないから、ちゃんとした物を用意してくれないとな~~~」
「…………」
まだ五歳の子供ながら、本気で何を用意しようかと考えるルチア。
そしてバトムスが「時間切れ~~、またな~~~~」と言いながら去ろうとした瞬間、ルチアは耳に付けていたイヤリングを外し、テーブルの上に置いた。
「これでどう!!!」
「どう、って言われても……これ、良いんですか?」
本当に貰っても良いのかと尋ねた相手はルチアではなく、専属のメイド。
「確か……他家の令息から貰ったプレゼント、ではありませんでしたか、ルチア様」
「別に良いのよ! なんか偉そうな奴だったし!!」
(……俺もルチアから見れば、偉そうな奴だと思うんだけど……それは良いのか?)
ルチアの胸の内までは解らない為、バトムスは金になるピアスを受け取り、もう一戦だけリバーシの勝負に付き合った。
「んじゃ、もう少し強くなってから挑んでな~。イヤリング、サンキュ~~~」
「…………」
ルチアが半泣きになっているのを完全に無視し、バトムスは超速足で騎士や兵士たちが訓練を行っている場所へ向かった。
「おっ、ようやく来たかバトムス。遅かったじゃねぇか」
「あの小娘に捕まってたんで」
「ルチア様にか……二人って、実は仲良いよな」
「……寒気が止まらないんで、冗談で言わないで貰って良いですか」
本来であれば、照れた笑みでも浮かべるところだが、バトムスは本気で否定しながら準備運動を始めた。
「よろしくお願いします!!!!!!!」
「おぅよ! 今日もビシバシいくぞ!!!」
バトムスはまだ五歳。
既に成人している騎士がビシバシ指導してしまったら、間違いなく死んでしまう。
そんな事は騎士たちも解っている。
ただ、大半の騎士たちはバトムスの訓練に対する気合、根性を気に入っていた。
「ほら! もうよれてるぞ!! もっと体のバランスを意識しろ!!」
「は、はい!!!!」
言われた通り、バトムスは体のバランスを意識し、しっかりと木製の剣を振り切る。
「そうだ!! 一つの事だけに意識を捉われるなよ!!!」
中々難しいことを五歳時に伝えている。
体のバランスを意識しつつ、縮こまってなよなよした攻撃を行うのではなく、全力で振り切ることを意識させる。
「っ! っと」
「よ~~~し!! よくフェイントに気付いたな!!!」
「あざっす!!!!!」
現在、バトムスにビシバシ指導を行っている騎士は、元は子爵家の令息。
バトムスも一応、騎士の爵位を持つ家の令息ではあるが、指導を行っている騎士自身が正式な騎士の爵位を持っていることもあり、普通は「あざっす!!」ではなく「ありがとうございます!!!」と言わなければならない。
ただ……アブルシオ辺境伯家に仕える騎士たちは、やや荒っぽい性格の者が多い。
そのため、言葉遣いよりも気合が入っているか否かを気にする。
その点、バトムスは十分に気合が入っており、言葉遣いの有無など気にせず指導を続ける。
「ぃよし、休憩だ。しっかり休めよ」
「は、はい」
とはいえ、まだまだ五歳児。
身体強化というスキルを会得しても、そのスキルを使用するには、人が持つ魔力という力を消費しなければならない。
結果、本当にまだまだ子供であるバトムスの体力の消耗は早い。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
(……ったくよ、なんつ~~~良い顔してんだか)
呼吸を整えようとするバトムスの顔に辛さ、苦しさはなく……ただただ、純心な笑みを浮かべていた。
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