執事なんかやってられるか!!! 生きたいように生きる転生者のスローライフ?

Gai

第1話 真っ平ごめんだ

「待ちなさい!!!!!」


「待つわけないだろ」


廊下を走る一人の少女と少年。


少年の名は、バトムス・ディアラ。

前世の記憶を持つ日本人、朝霧詠無。


十四歳の時に不慮の事故で亡くなり、その後異世界に転生。


そして少年を追いかける少女の名は、ルチア・アブルシオ。

この世界の辺境伯家……いわゆる貴族の娘である。


さて、何故転生者であるバトムスが同じ歳の令嬢から追いかけられているかと言うと……元々十四歳であるバトムスの方が、当然ルチアよりも精神年齢が上。

しかし、元中学生と言えど、当然ながらメンタルが大人な訳ではない。


貴族の令嬢であるルチアと初対面の際、貴族らしく……やや上から目線で話しかけられた際、速攻で「何言ってんだこのクソガキは」といった感じで返答してしまった。


「バトムス~~、執事見習の仕事は終ったのか~~~」


「狂暴娘に追いかけられてるんで、後回しで~す」


「またディアラさんに怒られるわよ、バトムス」


「執事にならないんで大丈夫で~~す」


日常的な光景であるため、アブルシオ辺境伯家に仕える従者たちは、誰一人として目の前の光景にツッコまない。


バトムスは領地限定ではあるが、騎士の爵位を持つアブルシオ辺境伯家に仕える執事家系の息子。

その為、基本的には貴族しか持たない苗字を持っている。


そして父であるノルドは従者たちを纏める副従長。

母であるサリアナもメイドとして働いており、長兄であるハバトもバトムスと同じく執事見習という立場。


ディアラ家の次男であるバトムスも、当然のことながら将来は立派な執事になる為になるのが決められた目標なのだが…………それが常識になる前に、既に朝霧詠無という自我が存在していた。


最初こそ、バトムスは十四歳という若さで死んだにもかかわらず、理由は解らないが第二の人生があることに歓喜した。

加えて、ファンタジー漫画やRPG系のゲームが好きだったこともあり、転生したファンタジーな異世界に大興奮だった。


ただ……そんな転生者であるバトムスにとって、せっかく大興奮するほどの世界で執事という誰かに仕え、誰かのご機嫌を取る仕事に就くなど……真っ平ごめんである。


「ま・ち・な・さ~~~~~~い!!!!!!!」


「俺を追っかけてる暇があったら、勉強でもしたらどうですか~~~」


「あなたを叩く方が、先よ!!!!!」


そして現在、初対面での一件以降、言い合いが日常化している二人。


まだ子供であるルチアは本気でバトムスが執事になる気はないのど、胸の内を全く把握してないため、嘗めた対応をされると……普通にシバきたくなる。


それに対して詠無ことバトムス。

仮に……仮に、妹であれば生意気で可愛いな~~と思える言動であっても、バトムスから見てルチアは他人。


両親が使える主人の娘という、決して関係値がゼロではないものの、上から目線なガキなど…………クソほどウザい。


生意気なメスガキが可愛いなど、所詮は二次元での話。


加えて、前世が中学生で終わったバトムスは、まだそういった自分がハマってしまう性癖なども特に自覚してなかった。


前世で精神が完熟してなかったこともあり、ウザいものは本当にウザい。


「よし、撒けたな」


「へい、バトムス。こんなところで何してんだ?」


屋敷の外に出てルチアを完全に撒いたバトムスの元に、一人の非番の騎士が訪れた。


「アグレーさん……見ての通り、あの小娘から逃げてたんですよ」


「はっはっは!!!! 今日もお嬢に追いかけられてたのかよ。毎日毎日懲りねぇな~~」


騎士たちもルチアとバトムスの関係については把握してる。


普通に考えれば……アブルシオ辺境伯家の令嬢であるルチアに無礼な態度を取ることなど、仕える騎士たちからすれば、叩き斬りたくなるものだが……とある過去から、大半の騎士たちがバトムスの事を気に入っていた。


そのとある過去とは……執事見習であっても、希望すれば将来の兵士、騎士となる為の訓練を受けられる。

参加したバトムスは四歳という超低年齢であるにもかかわらず、ルチアへの接し方が気に入らなかった騎士が、その態度を後悔する程度の痛みを与えたのだが……その際、確かにバトムスは痛みを感じていた。


涙がほんの少し零れたが……嬉々とした表情を浮かべ、もう一戦お願いしますと口にした。


四歳児の体、まだ諸々が育っていないため、大人相手に戦いらしい戦いになる訳がない。

バトムスが転生者という特別な存在であっても、その点は変わらない。


「にしても、お嬢を小娘呼びとか、相変わらず恐れ知らずだな」


「だって、欠片も尊敬できる要素がないんで、あんなの小娘で良いじゃないですか」


「なっはっは!!!!! それ言っちゃ~不味いやつだっての」


四歳の子供が痛みで泣き叫ぶのではなく、ほんの少し涙を零しながらも嬉々とした表情で、もう一戦を頼み込んだ。

強さを求める兵士……騎士たちにとって、その狂気とも思える光景に対し……ヤバい、面白い、ぶっ飛んでると思わざるを得なかった。


元から普通ではないと噂されており、喋り方や考え方も普通ではないことから、当主の娘であるルチアに嘗めた態度を取る光景に対しても、もう「あぁ、こいつはこういう奴なんだな」と色々と認め……諦めてしまった。


「つか、令嬢なら令嬢らしく、作法とか勉強だけに集中してりゃ良いじゃないっすか。一々突っかかってくんなって話っすよ」


「ん~~~~…………まっ、あれだ。それだけ気に入られてるって事なんじゃねぇの? ほら、当主もバトムスの事を気に入ってる訳だしよ」


物凄く……物凄く苦々しい表情を浮かべるバトムス。


当主に気に入られている。

執事になる気はないとはいえ、この世界の生活水準などを考えると、速攻で家出……出奔? するという選択肢はあり得ない。


当面の間、辺境伯家の加護をうけられるのは有難い。


しかし、実はルチアから気に入られているなど……想像するだけで寒気がする。


「怖い事言わないでくださいよ、アグレーさん…………っ、俺そろそろ行きますね」


「? おぅ、気を付けろよ」


バトムスがその場から移動した約十秒後……まだ引っ叩くために走り回っていたルチアが現れ、アグレーはさすがに噓をつく訳にはいかず、バトムスが走り去っていった場所を指さして教えた。


「ありがとう!!!!」


「いえいえ~、お気を付けて~~~…………なんて言うか、微笑ましいね~~~」


アグレーは二人が走り去って行った方向を見て、歳上のお兄さんらしい笑みを零した。

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