第45話 業
アイリスに忠誠を誓ったエリザベート会長とピーター副会長は臣下の礼を解き再び話し合いが再開された。
まあ話し合いと言ってもアイリスの計画を頭に入れる会だが。
でも色んな視点から計画を精査することは大切なので反対意見や疑問があったらすぐに言うようにしているのだ。
「エリザベート会長には私の補佐をしてもらうと言いましたが主に兵站管理など前線への支援などを手伝っていただきたいと思います。もし侵攻が始まったら手柄が欲しい貴族王族が動き出すでしょうが頼りにはならないと考えておいたほうがいいでしょう。貴族からの妨害対策は引き続き私と配下で行います」
エリザベート会長は頷きアイリスの意見について自分の考えを伝える。
「我が一族も必ず私が責任を持ってアイリス殿下の派閥に入るよう説得いたしましょう。私が言うのもなんですが我が父は王としての器量は確実に見抜ける人です。農業が盛んな我が領地が仲間になれば兵糧も国に頼らず出せるはずです」
「助かります。ついでと言ってはなんですが兵を出していただけると助かるんですがね」
「それは私からはなんとも。ですが勝算ありと父が判断したのなら間違いなく援軍を出すでしょう」
アイリスが苦笑しながら頼むとエリザベート会長は言質は取らせないものの協力の意思を示した。
ここで援軍を出してアイリスが即位すれば莫大な恩を王に売れたことになる。
ただ今のところ優勢なのは第2王子派閥や有力な貴族派閥であり勝てるとも限らないのでハイリスク・ハイリターンの賭けになるとは思うが。
「そしてアランとロッティには渡すものがあります」
そう言ってアイリスは2つの球を取り出した。
命の球と見た目は似ているが命の球は血のような赤色なのに対してこれは深い緑色だった。
「……?これは一体……」
「それは瞬間移動の球という国宝です。アランとロッティが先日立てた功により何個か頂いてきました」
「あーあのときのか……」
学園の危機を救ったとして僕たちはまた王城に呼び出されそうになったんだけど僕たちは自分たちの学び舎を守っただけなので、と断っておくとアイリスがその功を利用してもいいかと聞いてきたので許可したのだ。
あの王様にできるだけもう会いたくないしアイリスが最大限利用してくれるならそれが一番良いと思ってたんだけどこうやって国宝になって返ってくるとは思わなかった。
「アランとロッティには一番の負担をかけるでしょう……身体的にも、精神的にも」
「え?それってどういう……」
「その球は文字通り行ったことがある場所ならばどこにでも一瞬で瞬間移動できる魔道具です」
え?それって強すぎない……?
汎用性もめちゃくちゃ高いし……命の球の何十倍も良さそうなんだけど……
「ただそれには一つ問題点があります」
「問題点……」
「ええ。その魔道具は一回使うと壊れる使い捨ての魔道具です」
「つ、使い捨て……!?」
なるほど……効果は高い代わりに回数制限が設けられているのか……
王国もそんなに数は持っていないだろうし本当にここぞの場面で使うものなんだな……
「あれ?でもこの魔道具何に使うの?遊撃班にって言ってたくらいだし逆侵攻のときに使うんだよね?」
僕がそう聞き返すとアイリスは苦い顔をする。
とても悲しくて、でも覚悟を決めたような顔だった。
「もし……もし遊撃班が全滅の危機に瀕したとき、アランとロッティはその魔道具を使い王国まで避難してきてください」
「「っ!?!?」」
アイリスの言葉に僕とシャーロットは絶句した。
だって命に危険が迫れば仲間を見捨て自分たちだけは生き残れと言うのだから。
「そんなことはできない!仲間を見捨てるなんて……!」
「そうです!私達は最後まで──」
「絶対にそれは許しません!」
シャーロットの声はアイリスのよってかき消された。
アイリスは悲しみを奥に隠し為政者の表情で語りだす。
「あなた達が死んでしまっては人類は魔王への対抗馬を失うことになってしまうのですよ……?そうなったとき、全人類の文明は半壊以上の損害を受けるでしょう。数え切れないほどの人々が死ぬことになるんです……」
「だからってそんなこと……ピーター副会長はどうなんですか……!」
「俺はアイリス殿下の意見に賛成だ。たとえ遊撃班が全滅してもお前たちだけでも生き残ったほうがいい」
再び絶句することになった。
ピーター副会長だって遊撃班に加わると知っているはずなのにそれでも躊躇なく切り捨てろと言う。
己を犠牲に、なんてなんでそんなに躊躇なく言えるんだよ……
「主の役に立って死ぬなら本望だ。殿下なら俺が死んだとしても一族には報いてくれるだろうしな。それに……」
「それになんですか。まだ死んでもいい理由があるっていうんですか……」
「落ち着けアラン。お前だってシャーロット殿に命の危険が迫れば自分の命を捨ててでも守ろうとするだろう?俺にだって命をかけてでも守りたいものがあるんだよ」
ピーター副会長は一瞬、エリザベート会長のほうを見て切なげに笑う。
そう言われてしまえば僕に止めるすべなんてなかった。
「さっきアイリスが負担をかけるって意味……わかったよ」
「全ては私の
確かに冷たいな、とは思う。
でもそれだけ政治とは綺麗事ばかりではうまく行かないとこの数ヶ月で何回も思い知らされてきた。
君主としては、これが最適なのかもしれないと思う自分に嫌気が差す。
「……わかった。でもアイリスの業になんてさせないよう最善を尽くすよ。僕たちは誰も見捨てることなく逆侵攻を成功させて見せる」
「みんなを守る。そのために私とアランくんはこの日まで力を磨いてきたのですから」
僕とシャーロットが言うとアイリスは目尻に少しだけ涙を浮かべて微笑む。
頼りにしています、と言う言葉で僕たちの闘志に火が着いた。
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