第43話 世間話と話し合い
ロバートの失踪……か。
僕は授業が終わりシャーロットと一緒に生徒会室に向かうべく歩いていた。
様々なことに考えを巡らせるがなぜこのタイミングで生徒会室に呼ばれるのだろうか。
「……やっぱり生徒会と手を組むのかな?」
「じゃないと生徒会室に呼ばれることはないと思いますよ。世間話ではなく情報交換を生徒会室で行うというのですから」
「だよなぁ……」
もちろん生徒会は優秀な人材揃いで味方になるなら心強いことは間違いない。
でもそれ故にピーターを始めとした曲者も多数在籍している。
御しづらいのは間違いなく生徒会とアイリスがどんな関係なのかというのも重要になってくる。
「まぁなるようになれだね。アイリスならきっと良い道を作っているはずだ」
「ええ。ただ私達もその手の話題に置いていかれないようにしないとですね」
シャーロットが苦笑いし、僕も言い返す言葉もなく頭をかく。
頼りっぱなしじゃあ申し訳ないしそれこそ悪手を勧められても最善策だと疑わずハメられる可能性がある。
アイリスが裏切らなかったとしても魔族がアイリスになりすまして唆してくるかもしれないのだから。
流石に気配で気付けるとは思うが最後まで何が起こるかわからないのが戦いというものである。
そうこうしている間に生徒会室の前に到着した。
大きな扉に見事な鷹の彫刻が彫られていて威厳を感じさせる。
僕はノックをして入室をした。
「失礼します」
「失礼します、遅れてしまいましたでしょうか?」
部屋の中にはアイリス、エリザベート、ピーターが揃っていた。
でも他の生徒会メンバーたちの姿が見受けられない。
「大丈夫ですよ、ロッティ。私たちも到着したばかりですから」
「ふむ、二人ともそこにかけてくれ。ピーター、二人にお茶を」
「お任せください!」
エリザベート会長にすすめられてソファに腰を掛ける。
僕とシャーロットが隣同士に座りアイリスとエリザベート会長が対面にくる形だ。
ピーター副会長が僕たちの前に紅茶の入ったカップを置いてくれる。
「茶菓子も用意しておいたからな。まずは軽い世間話といこうじゃないか」
世間話……ねぇ……
僕は出された紅茶を一口飲む。
すると茶葉の香りが強く感じられた。
見た目も透き通っているしとても美味しい。
「美味しいですね」
「そうですね。これはどんな茶葉を使っているのですか?」
「これは帝国産だよ。アイリス殿下が取り寄せてくださったのを頂いたんだ。それとうちのピーターは淹れるのも上手いのでな」
確かにこれは美味しい。
あのいつもうるさいピーター副会長がこんな繊細な作業をやってのけるとは……!
人っていうのは不思議なものだ。
「むっ……何か失礼なことを考えていないか?」
「いえ、そんなことはないですよ。ピーター副会長」
野生の勘だろうか。
こういうときは鋭いらしい。
「シャーロット殿。私が淹れたお茶はいかがかな?」
「美味しいですよ」
シャーロットは皆に向けるような聖女の笑みを見せる。
作り笑いとはわかっていても少しモヤモヤしたものがあった。
というのもピーターは原作でシャーロットと共に旅をしていたメンバーでありシャーロットに恋に落ちることはなかったものの主要キャラであったため顔がめちゃくちゃ整っている。
あまり良い気はしない。
「ピーター副会長はお茶を淹れるのがお上手なんですね。とても美味しいですよ」
「お前から褒められても嬉しくない。黙って飲んでおけ」
こ、こいつ……!
シャーロットが褒めた時はまんざらでもなさそうなのに僕の時は適当に扱いやがって……!
僕が内心カチーンとしているとエリザベート会長が仲裁に入る。
「じゃれ合うのは構わんが喧嘩はするなよ。それにしてもアラン、お前は雷装剣なる雷を纏った剣を使ったらしいな」
「は、はぁ……」
「ぜひとも手合わせしてみたいものだ」
「あ、あはは……機会があったらよろしくお願いします……」
もっとも機会を作る気はないけども。
だってこの人めちゃくちゃしぶといから!
「生徒会長たるもの諦めるべからず」とか言って何回でも立ち上がってきて怖かった。
しかも「生徒会長として生徒の模範でありたいから強くなるために手合わせをしてくれ」って勧誘と同じくらいしつこい。
この会長も副会長に負けず劣らず強烈な人だった。
「うふふ、お二人の勝負楽しみにしていますよ。ではそろそろ本題に入りましょうか」
アイリスが本題に切り込み一気に緊張感が走る。
僕もシャーロットも手に持っていたカップを置く。
「我が双子の兄、ジェームズが先日の襲撃に現れたことはみなさんご存知ですね?」
「はい、この目で確認することは出来ませんでしたがそう聞いております」
「私も同じくです」
エリザベート会長とピーター副会長はアイリスの質問に恭しく答える。
僕とシャーロットも続いて頷いた。
「アラン、説明を頼めますか」
「ああ。ジェームズは数ヶ月前僕との決闘で行方不明になって久しぶりに姿を見せたと思ったら人間から魔族に墜ちていました」
人間が魔族に堕ちる。
その前例は無く随分と衝撃が走ったものだ。
二人も驚いている。
「人が……魔族に……」
「その強さは人間のときと比べ物になりません。おそらく僕でも負けはしませんが簡単には勝てないでしょう」
僕の実力はここにいるみなが知っている。
それでも強いという事実に沈黙が流れる。
「ありがとございます、アラン。ここでの共通認識は一つです。ジェームズは元王子ではなく魔族、人類の敵として扱ってください」
「ああ、僕もその方が良いと思う」
「勇者の情報も知れ渡ったと考えたほうが自然です。そうなると何が起こるのかわかりますか?」
「侵攻を開始する……ですか?」
シャーロットの言葉にアイリスは頷く。
「その通り、時間は我々の味方です。時間が経てば経つほどアランの強さは増していき魔王軍からすれば脅威になっていきます」
だから強くなる前に消しておく、と。
なるほど筋が通っている。
「我々には時間が必要なんです。そのためにできることは何か」
「それは一体……?」
ピーター副会長の問いにアイリスは今日一番真剣な表情へと変わる。
背筋が自然とピンと伸びた。
「逆侵攻をかけましょう」
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