第42話 生徒会

魔物の襲撃騒ぎも収まり始め普段通りの生活が戻ってきた頃。

僕はいつも通りシャーロットと世間話のような軽い雑談をしながら並んで登校していた。

もっとも寮なのだからそんなに距離は遠くないけど。


「アイリスさんが対策をアレックスさんたちと練っているそうですよ」


「まぁ今回の学園への襲撃は前代未聞だったもんね。ジェームズも生きてるってわかったわけだし」


数カ月ぶりに再会したジェームズは既に人間ではなくなり異様な力を手に入れていた。

倒せないことはないと思うけど簡単には行かないと思う。

もっと強くならなくちゃな……


「待ちたまえ!」


後ろから突然誰かに呼ばれる。

怪訝ながらも振り返ると金髪縦ロールの女子生徒とメガネをかけた男子生徒が立っている。


「げっ……」


僕は面倒なことになったと肩を落とす。

隣にいるシャーロットも苦笑いしていた。

僕の声が聞こえてしまったのかメガネの男子生徒が注意する。


「げっ、とはなんだ!まず朝、人に会ったら挨拶だろうが!おはようございます!」


朝からこのテンションである。

面倒に感じるのもわかってほしい。

昼でも夜でも面倒だけど。


「落ち着けピーター。おはよう二人共。すまんな、朝からこんな調子で」


隣にいた金髪の女子生徒がピーターと呼ばれた男子生徒を注意する。

まあ名前はわけあって知ってるんだけど面倒な男には変わりないのでできるだけ関わりたくないのだ。


「おはようございます。エリザベート


この人は何を隠そうノビリタス学園の生徒会長だ。

隣のピーターは副会長という学園内のビッグネームである。

なぜ僕たちがこの人たちと面識があるかというと……


「いつものやつですか?」


「まあそういうことだな」


「それでしたらお断りさせていただきます」


「私も……丁重にお断りさせてください」


僕たちが揃ってそう言うとエリザベート会長は困ったように笑う。

そしてピーター副会長は腕を組み首をゆっくりと横に振る。


「ふむ、それは残念だな」


「全く何が不服だというのか……会長と副会長が直々にというのに」


二人と面識があるのはよくスカウトに来てくれるからだった。

ただ僕は人の上に立つような人間じゃないし熱意があるわけでもない。

そんな人間が生徒最精鋭と呼ばれる生徒会に入るのは申し訳ないので断っていた。

シャーロットもあまり興味が無いとのことで断っている。


「うふふ、朝からお元気ですね」


「……アイリス」


後ろから突然声が聞こえたので振り返るとアイリスがニコニコとした笑顔を浮かべて立っていた。

護衛であるアレックスさんの姿は見えないが気配を感じる。

多分前回の1件から護衛を強化したんだろうな。


「これはアイリス王女殿下。朝からお騒ぎたてしてしまい申し訳ございません」


エリザベート会長とピーター会長がそろって臣下の礼を取る。

二人共実家は王家に近しい貴族家なので臣下の礼を取っているのだ。

アイリス王女は微笑みを浮かべながら臣下の礼を解かせる。


「アイリス。どうしてここに?」


「貴様無礼だぞ!アイリス殿下を呼び捨てなど!」


「いいのですよ。ピーター副会長。彼には許可してありますから」


僕に対しては猛獣と言うか面倒くさいやつだがやつはとことん女性に甘い。

エリザベート会長やアイリスには絶対服従だしシャーロットに強く何かを言っているところは見たことがない。

結果僕だけが不利益を被るのである。


「それでアランの質問にお答えしますね。先程ピーター副会長の大声が聞こえてきたのでまたやってるのかと見に来たんですよ」


エリザベート会長は理性的だがピーター副会長はしつこい。

よく僕たちのクラスに突然やってきては僕を追い回す。

前世の記憶に合ったN◯Kってやつみたいだ。


「うっ……それは申し訳ございません……」


アイリスに釘を刺されピーター副会長はシュンとなる。

まるで子犬みたいだ。


「いえいえ。いつも学園のために仕事をしてくださっているお二方には感謝しかありませんよ」


「アイリス殿下も加入していただけたら大変ありがたいのですがね」


「うふふ、それは難しいのでお断りします」


「それは失敬。では私たちはこれにて失礼します」


エリザベート会長の誘いをアイリスがあっさりと断るとピーター副会長を連れて去っていった。

ほ、本当に嵐みたいな人たちだな……


「改めましておはようございます。アラン、ロッティ」


「おはよう」


「おはようございます。アイリスさんは生徒会に入らないのですね。王権を狙うなら取っておいても悪くない席だとは思いますけど……」


シャーロットの疑問は尤もだと思う。

貴族が生徒の大半を占めるこの学園での生徒会長という席は存外影響力が高かったりする。

とって損は無いと思った。


「今は他に優先すべきことが山積みですから。視野は学園だけでは狭すぎるのですよ」


多分王城内での政治戦争の話をしてるんだろう。

学園の生徒会長というポストでは足りないからもっと強力なカードを手に入れるということだ。

魔王軍には一杯食わされたものの第二王子派などには悪くないスタートを切っている。

最もまだ劣勢には変わりないけども。


「それでどうしたんですか?わざわざ遠回りをしてでもこちらに来て」


「今日の放課後、改めて色々話したいことがありまして」


「なるほど、ではいつもの場所でいいですか?」


「いえ、今日は違う場所を用意します。場所は……生徒会室です」


生徒会室!?

なぜそんなところで……

ということはさっきの二人との接触も何か意味があったのか……?


「わかりました。では放課後生徒会室に向かいます」


「ええ。それともう一つ。お二人にお伝えしておくことがあります」


アイリスから伝えられた情報。

それは……ロバートの失踪であった──

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