第38話 行方不明

戦いが決着して今日の授業は全て中止し避難していた生徒は寮に戻されることになった。

戦っていた生徒や先生はやってきた憲兵隊から事情聴取を受けている。


「はい。これで質問は終了です。ご協力いただき感謝します」


「いえ、これくらい協力するのは当然のことですから」


僕は憲兵さんに一礼してテントを出る。

随分長いこと椅子に座っていた気がするから体が固まっている。

伸びをして体を伸ばしていると隣のテントからシャーロットが出てくる。


「あっ、アランくんも終わったんですね」


「お疲れ、シャーロット。ずっと座ってたから体がカチカチだよ」


「ふふっ、じゃあこんなのはどうですか?」


シャーロットが僕の腰に手を付け魔力を流し始める。

温かくて優しい魔力が僕を包む。


「おお……!体がすごく軽くなった気がするよ」


「それはよかったです」


シャーロットは嬉しそうにニコッと笑う。

僕もつられて笑った。


「さて、今日は授業も無くなったし部屋に戻るのもありなんだけど……」


「アイリス王女に会いに行くんですよね?」


「うん、そのほうがいいと思う。今日はいろんなことがあったから早めに情報共有しておいたほうがいい」


特にジェームズのことはすぐにでも共有するべきだ。

一応あれでも王族なわけだし諜報はあいつが担うとか言ってたし。

他にも話すべきことはあるし今日は授業がなくなって時間もあるから今日のほうがいいだろう。


「アイリス王女の部屋に行ってくれる?」


「わかりました。行ってきますね」


「お願い。僕は建物の外で待っているよ」


アイリス王女は他の生徒と同じく寮暮らしをしている。

当然他の生徒よりはセキュリティなどしっかりした部屋にいるのだがその部屋は女子寮にある。

僕は中に入れないのでシャーロットにお願いする。


「では少し待っていてください」


「うん」


僕は女子寮に入っていくシャーロットを見送った。


◇◆◇


10分ほどしてシャーロットが戻って来る。

しかしその表情は少し困ったようなものだった。


「どうしたの?」


「それが……アイリス王女が部屋にいらっしゃらなかったんです」


「アイリス王女がいない……?」


アイリス王女ならば襲撃こんなことがあった今、すぐにでも接触して話し合いを始めると思っていた。

それが部屋にいないとは……


「……もしかしたら入れ違いになったのかもしれない。一度部屋に戻ろうか」


「それがいいと思います」


僕とシャーロットの意見は合致し僕たちの部屋に戻ろうと振り返るとアレックスさんが走ってくる。

ビシッとしたスーツ姿でこんな全力疾走はなかなかシュールだ。


「どうしたんですか?そんなに走って……」


「た、大変です!アイリス王女殿下が……姿をお消しに……!」


「「えっ!?!?」」


詳しい事情を聞くとどうやらアイリス王女は全ての手勢を生徒の護衛とこちらへの援軍に回したらしい。

何人か護衛を残そうとしてもアイリス王女からの厳命が出てしまい戦いが終わって戻ってくるとアイリス王女の姿がなかったんだとか。


「こんなことになるならば殿下の厳命を破ってでも護衛に残るべきだった……」


「……誘拐だとしたら非常にまずいですね」


「もう少し学園内を探してみましょう。大事にするとアイリス王女の印象も悪くなります。捜索隊を編成するのはそれからでもいいと思います」


僕たちは頷いて各方に散っていった──


◇◆◇


(クソ……見つからない……まさか本当に誘拐されたのか……!?)


いるかもわからない人を探すのはなかなか心に来るものがあった。

それでもとにかく探すしかない。


「このまま適当に探し回っていても埒が明かない……もしアイリス王女が自分の意志で動いてるとしたらどこにいるかを考えるんだ……」


僕は一旦その場に留まり頭を回す。

そして一つの可能性にたどり着いた。


「これだけ探してもいないならあそこくらいしか……お願いだからそこにいてくださいよ……!」


僕はそこにいることに賭け一目散に走り出す。

立入禁止のあの場所……

いるとしたらそこしか考えられない。


僕は校舎の階段を登りの扉に手をかけた。

案の定鍵は開いている。

少し力を込めて押すとギィという錆びた音と共に扉が開いた。

屋上に出るとアイリス王女が座り込んで空を眺めていた。


「アイリス王女……」


「アラン様?どうしてここに……」


アイリス王女は僕のほうを見て小さく首をかしげる。

しかしその目からは微かな憔悴が感じられた。


「アイリス王女が姿を消したと聞いて探していたんです……アレックスさんも心配されていましたよ」


「あ……書き置きをしてくるのを忘れていました……。ご迷惑をおかけしてすみませんでした」


本当はすぐにでも二人に伝えたほうがいいんだろう。

でも今のアイリス王女は普段の様子と全然違うような気がして一旦僕はアイリス王女の隣に座る。


「何かあったんですか?らしくないですよ」


「何でも……ないですよ」


その顔は明らかになんでもないような人の顔ではなかった。

心なしか少し体も震えている気がする。


「話したらすっきりするかもしれませんよ。それとも……僕では話すに値しませんか?」


「そんなこと……!ないですけど……」


そう言ってアイリス王女はまた顔をうつむける。

やはり何かあったのだろうか。


「ほら、素直に白状しちゃってください」


「……今日の襲撃のことなのですが」


アイリス王女は観念したのか口を開く。

その声は少し震えていた。

いつも気丈に振る舞っている彼女らしからぬ姿だった。


「はい」


「あれは……私のせいです」


「えっ!?」


何を言われても驚かないようにと思っていたのだが思わず驚きの声が漏れてしまう。

アイリス王女の顔はどうみても冗談を言っているようには見えなくて息を呑む。


「あの襲撃がアイリス王女のせいってどういうことですか?」


「敵が西側の情報を集めている、という情報を掴んでいたのにも関わらず対応を怠りました。今回の襲撃だって……国境の強化をしていれば奇襲を受けることもなかったんです!対空兵器を配備しておけば国境を超える前に掃討できたかもしれなかった!だから……」


全ては私の責任ですとアイリス王女は言う。

その目には深い悲しみと後悔が浮かんでいた。

だけど僕は今の話を聞いてアイリス王女が悪いようには到底聞こえなかった。


「アイリス王女はできることはやっている方ですよ。怠慢だなんて誰も言ったりしません」


「でも!それで私は皆さんを危険に晒してしまいました……たまたま被害が出なかっただけであの規模の襲撃なら死傷者が多数出てもおかしくありません……」


どうやらネガティブのサイクルにはまっているらしい。

自己嫌悪の渦から出られていない。

そんなアイリス王女の姿は痛々しくて見ている僕も悲しい気分になってしまう。


「アイリス王女が助けた命も数多くあるはずですよ。今回の戦いだけじゃない。アイリス王女がやってきた政策にもです」


「ですが……もしまた皆さんを危険な目に合わせてしまうと思うと……」


「そのときは僕たちが助ける!」


僕はアイリス王女の言葉を遮って声を張り上げた。

アイリス王女はびっくりしたようで口をぽかんと開け目を見開いている。


「アイリス王女がピンチのときは僕たちが助けます。どんなことであっても」


「……どうして、そんなことを言ってくれるのですか……?」


「僕たちが協力者だから、といいたいところですが僕は違います。あなたの描く未来が見たいからですよ」


「……!!」


「あなたなら……きっとこの国を幸せにできる。いや、あなたにしかそれはできないはずだ。僕はあなたと交わしたあのときの約束を……今でも馬鹿正直に信じているのですよ」


ポロリ、とアイリス王女の頬を涙が伝う。

自分でも意図しないものだったようで拭っても拭っても次から次へと涙は溢れ出す。


「あ、あれ……おかしいですね。涙が止まらないです……」


「辛いときはいくらでも寄りかかってください。泣きたいときは胸はシャーロット専用なので無理ですが手は差し伸べます」


「ふ、ふふっ……胸を貸してくれないなんて薄情な人ですね」


「シャーロットに怒られたくはないでしょう?」


「それもそうですね……それじゃあ、少しだけ肩を貸してください……」


アイリス王女は僕の肩に顔を押し当てて小さく嗚咽を漏らす。

僕はアイリス王女が落ち着くまで動かずにその小さな背中をさすり続けた──


◇◆◇


「はぁ……いっぱい泣いちゃいました……」


「たまにはそんな日もあっていいんじゃないですか?明日からまた前を向いてあるけるのなら」


僕とアイリス王女は顔を見合わせて笑う。

目は少し赤く腫れてしまっていたけど顔はさっきよりすっきりしているように見える。


「アラン様……」


「どうしたんですか?」


「少し昔話を……してもいいですか?」


「いくらでも。僕は時間の許す限り聞かせてもらいますよ」


「ふふっ……ありがとうございます。それじゃあ話しますね」


そう言ってアイリス王女はポツリポツリと話し始めた。


──────────────────────

次回はアイリス王女の過去編!

皆を危険にさらすことや失敗に怯えていた理由も話していこうかなと!


昨日から新連載、『いつも俺にだけ冷たい猫の獣人の幼馴染を間違ってテイムしたら本音が隠せなくなっちゃったらしい』を始めました!

https://kakuyomu.jp/works/16818093078248386745


見てくださると嬉しいです!


そして明日からもう一つ新連載始めるのでそちらもよかったらぜひ!

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