第37話 再会

「魔族……」


姿はどこにもない。

だが確かに気配は強く感じている。

ゴッセルほど強大ではないが他の魔物とは一線を画した禍々しい気配。


「まだ終わってない!シャーロット!」


「確かに近くにいます!皆さん戦闘態勢を維持してください!」


僕は目をつぶり感知に集中する。

気配を隠蔽、もしくは認識を阻害する類の魔法がかけられているのか居所が掴みづらい。

だけど10秒も時間を貰えれば捕捉できないことはない。


「皆さん目をつぶってください!アランくんの魔法が発動します!」


雷撃一点らいげきいってん


僕は捕捉するとすぐに敵を逃さないよう躊躇なく詠唱する。

その刹那、辺りが一瞬ピカッと強く光り何かに直撃する。


「ピギャアァァァ!」


雷の強みはその速さと威力。

ほぼ光速と変わらぬ速さで敵を撃ち抜く雷撃一点この魔法は強く発光するため隠密には使えないがそれ以外はかなり汎用性が高い。


「グッ……ナゼ気づいたノダ……」


僕の一撃をくらって魔法が解けたのか魔族の姿が明らかになる。

肌は紫色をしており体は子供のようなサイズで顔は皺くちゃの老人のようだ。

昨日アイリス王女から預かった本には載っていない。


「かなり本気で隠れてたみたいだけど時間をくれればこのくらいは余裕だね」


「このバケモノめ……!」


周りを伺うが他に気配はない。

だがタイミング的にこいつが学園にさっきの魔物たちをけしかけたと考えていいだろう。

空飛ぶ魔物あいつらは召喚魔法の類で呼ばれたわけじゃなさそうだったしもう増援はないだろう。


「お褒めいただきありがとう。お前の目的、今までやってきたことを全て聞いてもいいかな?」


「言うワケがナイだろう!」


「そっか。じゃあ残念だけどここで消えてもらおうか」


「っ!?」


話し終える前に地を蹴り接近する。

相手は想定していなかったようで目を大きく見開いた。

僕はその大きな隙を前に躊躇なく剣を振り下ろした。

振り下ろされた刃は魔族の肩から体の中心へ切り裂くが途中で回避される。

人間なら致命傷になってもおかしくないが魔族なら軽傷だろう。


「こいつは僕一人で十分!逃さないように周りを囲んで欲しい!」


「ホ……ホザケェェェェ!!このクソガキがぁぁぁ!!」


相手が放ってきたのは地属性の魔法。

大きな岩が大量に飛んでくるが回避することなく全て斬り伏せる。

後ろにいた生徒に関してはシャーロットが障壁を張り守ってくれた。


「こんなもんか。これならメアリーの方が何倍も強いね」


「無傷だと……魔力で強化していてタダの岩とは比べ物にナラン強度なのだぞ……」


「でも斬れちゃったんだから仕方ないよね?」


僕がすぐにでもトドメを刺しにいこうとしたその瞬間、突如禍々しい気配が現れ半分勘でとっさに回避行動を取る。

すると僕がいた場所は黒い炎に包まれていた。


「これを避けるか。流石だな。アラン」


「その声は……!」


振り返って空を見上げると姿も魔力の質も全く違う。

だけどその声には聞き覚えがあった。


「ジェームズ……」


「ジェームズ王子!?」


僕が苦々しくつぶやくとシャーロットが驚きの声を上げその驚愕が伝播したかのようにみな目を見開いている。

だけどジェームズは他には目もくれず僕だけを見て不敵に笑う。


「様をつけろ様を。ともあれ覚えているなんて光栄だな。あのときの俺は羽虫のような強さしか持っていなかったというのに」


翼が生え、肌はどす黒い色へと変わり、目は赤く染まり、もはや一目で人間ではないとわかる。

だがその気配と魔力は前と比べるものにならないほど強大で肌がピリつく。


「随分姿が変わったね。前よりも気持ち悪いよ」


「フッ!なんとでも言え!俺は力を手に入れたんだ……お前にも負けぬ力をな……!」


湧き上がる殺意を抑え冷静に分析する。

勝率は5割……シャーロットの支援があって7割といったところかな……

だけどこいつは……こいつだけはここで消す!


「何?倒されに来たっていうこと?それなら遠慮なく殺るけど」


「それがお前を倒しにきたわけじゃない。その勝負は一旦預けておいてくれ」


そう言ってジェームズは横で膝をついている老人のような魔族を見る。

その目は味方に向けているとは思えないほど冷たかった。


「こいつの抹殺に来たんだよ」


「ナッ!?ナニを言っているのだ!」


ジェームズの言葉に老人魔族は慌てふためく。

まさか本気で同士討ちするつもりなのか……?

敵の真意が読めず僕からは攻撃をしかけることができない。


「グッ……ワシは大昔から陛下に仕えてキタのだぞ!キサマのような若造がホザクでない!」


「黙れ!」


ジェームズが一喝し老人魔族を黙らせる。

その目は激しい怒気を孕んでいた。


「貴様が功を焦り出しゃばったせいで我らの計画に支障が出たのだぞ!何一つ成果は得られず結果として勇者の糧になったのだ!勇者の成長速度を舐めるな!」


なるほど。今回の襲撃は一部の魔族の独断だったのか……

おそらくこいつがわざわざトドメを刺しに来たのは僕の強化を少しでも防ぐためだろう。

戦うのでも強くなれるが敵を倒すことが一番効率的らしいからね。

今回の襲撃で倒した魔物たちも僕の強さの糧になってくれているはずだ。


「今回の件は失敗に終わったが他の分野では貢献してオルだろう!イキナリ抹殺なんて納得デキんぞ!」 


「貴様の貢献が諜報のことを言っているなら抹殺は覆らん。貴様の後はすべて俺が引き継ぐことになっているから貴様は必要ない」


「ナッ!?こやつらの前で諜報のことを話すとは!ナニを血迷った!」


老人魔族の訴えをジェームズは鼻で笑い飛ばす。

そして僕たちの方に目をやってきた。


「こいつらのバックにはアイリスメス犬がついている。忌々しいがあれは中々優秀だ。正体はまだだろうが内通者の存在にも気づいているだろう」


アイリス王女のことも既に気づかれているのか……

だけど今回の件の全貌が少しずつ見えてきた。

ここで僕が取るべき行動は……


「シャーロット!行くよ!」


「はい!」


「「身体強化プラスフィジカル!!」」


身体強化魔法をシャーロットと同時に使い重ねがけをする。

内からあり得ないほどの力が湧いてきてその勢いのまま地を蹴ると爆発したような音と共にジェームズに急接近する。


「チッ!ちょっとくらい待てよ」


ジェームズは黒い光に包まれ一瞬で消えた。

異空間系の移動魔法。

しかしそれを使うのは読んでいた。


「シャーロット!」


「はいっ!聖なる大槌ホーリーメイス!」


シャーロットは魔物や魔族の気配を感知するのに長けている。

異空間の出口に大きな聖属性の大槌を出現させ振り下ろす。

これが相手の制限。


「ぐっ!厄介な……!」


ジェームズはなんとか受けるが聖属性は対魔物・魔族特効。

ふっ飛ばされダメージを腕に白い火傷の跡のようなものができている。


「流石だ!シャーロット!」


「今のうちです!アランくん!」


雷装剣らいそうけん!」


僕はその隙にに接近する。

先程の詠唱により剣が雷を帯び剣身全体を覆い始めた。


「くらえ!」


僕が剣を振り下ろそうとすると目の前に黒い光が立ち込めジェームズが現れる。

雷をまとったその一撃はジェームズが張った障壁を切り裂くが翼によって止められてしまう。


「厄介な戦法を取るものだ。貴様も本当に忌々しいな」


「これなら取れると思ったんだけど残念だね。ずいぶん強くなったご様子で」


「このゴミを貴様に狩らせるわけにはいかん。だが生かすわけにもいかないんでな。今回は貴様に勝ちを譲ろう。じゃあな!ジジイ!」


「グハッ!な、何を……」


ジェームズは老人魔族の体に腕を突っ込む。

そして魔力を注入し一瞬で消え去った。

残された老人魔族の体は膨張を始める。


「な、何が起こってオルのだ……ま、魔力暴走が……」


「っ!まずい!全員伏せろ!」


「アランくん!早く逃げてください!」


「イヤだ……死にたくない……こんなところでワシはぁぁぁぁ!!!!!!」


振り返って叫んだ瞬間爆発が起こる。

僕は身体強化プラスアビリティとシャーロットがとっさに張ってくれた防御障壁ダメージウォールのおかげでなんとか無傷で回避することができた。


「アランくん!大丈夫ですか!?」


少し離れたところにいたシャーロットが慌てて駆け寄ってきてペタペタと怪我がないか確認してくれる。

僕は大丈夫だと伝えて優しく頭を撫でたらほっとした様子で微笑んだ。


「それにしてもジェームズがあんなことになっていたとはな……」


アイリス王女と話し合わなければならないことが増えてしまった。

だけどどっかで野垂れ死んでいるよりは何倍もマシだ。


あいつは絶対に僕の手で倒す……

剣をしまい拳を強く握った。

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