第36話 魔法の申し子

一限目の授業を受けていると突如けたたましいアラートが鳴り始める。

いきなりの騒音にクラスメイトも驚きと困惑を隠せない。

だけど──


(教師の表情が固くなっている。いい状況ではなさそうだね)


すぐさま横に立てかけてあった剣を持って立ち上がる。

それに呼応してシャーロットとアイリス王女も立ち上がった。


「アイリス王女!何が起こってますか!?」


「学園を守る防御結界が攻撃を受けています!ということは……」


アイリス王女が窓に走り寄りカーテンをさっと開ける。

すると目に飛び込んできたのは防御結界を破らんとする数え切れないほどの空飛ぶ魔物だった。

その光景にアイリス王女は絶句する。


「これほどの数の魔物を王都近くまで接近を許すなんて……」


「考えるのは後です!先生!避難の指示を!」


学園は国家の重要施設の一つなので強力な防御結界が張られている。

それでもこの数の魔物相手ではすぐに限界がきてしまう。

今国の重要人物の子息子女の大量虐殺が起こればアイリス王女の王位どころではなく国が割れかねない。

なんとしてもそれは阻止する必要があった。


「すぐに避難するぞ!邪魔になるだけだから余計なものは持つなよ!」


先生は有能ですぐに生徒をまとめ始める。

僕は安心して今にも結界を破りそうな魔物たちを見る。


「僕はこいつらを倒す。シャーロット、手伝ってくれる?」


僕がそう聞くとシャーロットは僕の手を優しく握る。

そして微笑んだ。


「もちろんです。アランくんが行く場所ならどこにだってついていきますよ」


迷う素振りもない即答。

その信頼が僕を奮い立たせる。


「待って!」


「待て!」


僕とシャーロットが出撃しようとすると後ろから待ったがかかる。

後ろを振り返るとメアリーとフォスター様が立っていた。


「二人とも……避難したんじゃ?」


「二人なら絶対戦おうとすると思ったんだもん!だから……」


メアリーはかつてないほどの真剣な目で僕を見てくる。

その目はまるで命をかける覚悟をした戦士のよう。

有無を言わせぬ気迫を帯びていた。

そしてその目はフォスター様も同じ。


「二人が戦ってるのに自分は逃げるなんて絶対に嫌だよ!私たち友だちでしょ……?」


「俺も連れて行けアラン!お前たちだけ戦うなんて羨ま……薄情な真似はできないだろう!」


「メアリー……フォスター様……」


誰も犠牲にするわけにはいかない。

だからこそ避難させたかったけどどう考えても人手が足りないのもまた事実。

僕は心の奥で揺れ動いていた。


「……わかった力を貸してくれ」


「……!うん!任せて!」


「ガッハッハ!任せておけアラン!俺があの身の程知らずの小鳥どもを撃ち落としてやる!」


フォスター様の場合は戦いたいだけだろうけどその実力はよくわかっているし何より重力魔法は空飛ぶ敵と相性がいい。

メアリーの魔法も今の状況に適しているといえる。

手伝ってもらったほうがいいと判断した。


「アイリス王女は避難先へ行ってください」


「私には……戦えとおっしゃらないのですね……。私ではお役に立てませんか……?」


「適材適所という面ではアイリス王女の強力な防御魔法は避難した生徒たちを守るのに適任ですし命の球を使用しているのである程度の安全は確保されています。どうかここは退いてください」


「……適材適所という面で諭されるなんて私も未熟ですね……。すみません、取り乱しました。皆さんのご武運をお祈りしています」


アイリス王女は大きく頷くと避難先へと走っていった。

これで僕たちが死なない限りアイリス王女は無事なはずだ。


「さぁ……行こうか……!」


「はい!」


「うん!」


「おう!」


僕たちは窓から校庭へと飛び出した。

その瞬間、防御結界は限界を迎え破られた──


◇◆◇


斬って斬って斬りまくる。

ただその一言に尽きた。

それほどまでに敵の数が多い。


「ハッハ!へばったかアラン!まだまだ残ってんぞ!」


「わかってますよ!そっちこそ剣が鈍ってきてるのでは!」


フォスター様から煽りが飛んできてそれを軽口で返す。

勇者の基礎能力と成長は凄まじいものでこれくらいじゃ疲れない。

ただ避難先に通さないように移動しまくりながら味方に当てないように遠距離に魔法を放つのは集中力と体力を確実に削ってきた。


「シャーロット!戦況はどうなってる!?」


後方で補助魔法をかけながらサポートをしてくれるシャーロットが僕らの司令塔だ。

前線で戦っていると敵の数が多すぎてよく見えないためシャーロットに頼るしかない。


「各所奮戦し盛り返しています!まだ崩れることはありません!」


学園側で現在抗戦しているのは僕たちの他に避難誘導を終えた先生たち、3-S、3-A、2-S、そして最精鋭と呼ばれる生徒会メンバー。

数の暴力にも負けない強さを各々が持っているうえに僕たちよりも人数が多い。

そのため僕たちがサポートに回るどころか──


「援軍にきたぞ1年坊!好きに使え!」


「今年の一年は噂通り有望株揃いだなぁ!音楽担当ベートーだ!俺も自由に使いなぁ!」


余裕が出てきたところから次々と先輩や先生がフォローに来てくれる。

戦闘中の指揮官の交代は逆に混乱をきたすためみなシャーロットの指揮下に入った。

どんどん戦局が安定しそれどころか盛り返していく。

しかしこの場を盛り返している一番の要因は別にあった。

先輩や先生、果てや僕やフォスター様をも抑え圧倒的に敵を撃墜していく存在。

それは──


「まだまだ行くよ!大いなる爆破グレートブラスト!」


そんな詠唱と共に激しい爆発が起こり鳥形の魔物が墜ちていく。

その威力は凄まじく離れたところにいる僕にもかなりの爆風が来る。


(対多数戦闘に強いとは聞いていたけどまさかここまでとは……手伝ってもらって正解だったね)


獅子奮迅の活躍を見せるのはメアリー。

彼女はただ魔法が使えるだけの平民ではない。

数万人に1人と言われる2属性の使い手であり1-Sでの魔法の序列ではシャーロット、僕に次ぎ第3席である。

だが彼女の本当の強みはそこではない。


「噂には聞いていたがまさかこの目で見られるとは……」


「信じられん……」


「もっともっといっちゃうよ〜!」


メアリーは歴史上ほとんど前例がない2使魔法の申し子であった。

彼女の持つ属性は火と土。

それを融合させて爆発魔法を使っている。

土と火を同時に使い擬似的な爆発魔法も不可能ではないがメアリーのそれは比べ物にならない。

放出した魔力のほぼ全てが爆発エネルギーに変わるため攻撃力、攻撃範囲共に全属性の中でトップクラスと言われている。

つまり一言で言うならメアリーはめちゃくちゃ強い。


「皆さんメアリーさんの援護を!討ち漏らしのないようお願いします!」


「「「おう!」」」


爆風で体勢を崩した敵にトドメをさしていく。

人が増えれば増えるほどその効率は上がっていく。


(一応広範囲魔法は用意してあるけど今回は出番は無さそうだ)


ちゃんと僕はこういう状況でも対応できるように広範囲魔法を習得している。

今回で試そうと思ったけどメアリーに私にやらせてほしいと言われ頼むことにしたのだ。


「これでっ!最後っ!」


メアリーが魔法を放つ。

その魔法により残っていた僅かな敵を殲滅し終えた。

しのぎきったことに色んなところから歓声が聞こえる。


しかし僕の本能が訴えていた。

まだ見えぬところに敵がいると。

その気配はまるで……


「魔族……」

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