第33話 その義の心の行く末は(ロバート視点)

私の名前はロバート=ウィルソン。

私はウィルソン公爵家に長男として生を受け将来王家の支えとなれるように厳しい教育を受けてきた。

そして、仕える主君に出会ったのは8歳のとき……


「おい、ロバート=ウィルソンと言ったな?」


「はい、ジェームズ第一王子殿下。これより私はあなたの剣となり盾となって生涯尽くすことを誓いましょう」


「ククッ……そうか。俺は従順なやつは好きだぞ?頼りにしている、ロバート」


そのとき、王子殿下にかけられた頼りにしている、そんな一言が私の頭に甘美に響き溶けていく。

私は自然と涙が溢れてきた。


「おい。なぜ泣いている?」


「申し訳ございません……臣としてこれ以上嬉しい言葉はございませぬゆえ……」


「……そうか。ならば先程の宣言通り俺に心から服従を誓い俺のために働け。俺にはなしたいこと、いやなすべきことがあるんだ」


「そのなすべきこととは一体……」


「時が来れば話そう。今日はもう下がれ、大義であった」


「はっ……」


私の主君となる人は同い年の8歳とは思えないほど大人びていた。

なすべきこととはまだ何かわからないがきっと大志を抱かれているに違いない。

きたる時までにあの方のお役に立てるように鍛え直さなくてはならないな。


きっとあの方は偉大な王になる。

そんな方を将来支えることになるのだと誇らしくなった。


◇◆◇


「平民が国の転覆を企てている可能性がある……ですか……!?」


ときが流れ私達が15歳になりノビリタス学園の入試を1ヶ月後に控えた今日。

私はジェームズ殿下に呼び出され従者も全て下げた状態でジェームズ殿下と二人きりで会食をしていた。

そこで告げられた内容はある平民が国の転覆を狙っている可能性があるというもの。


「ただの平民にそんなことが……?まさかクーデターでも起こすということですか?」


「いや、そいつは聖女、シャーロット=ローレンスの幼馴染だ」


「っ!?聖女殿の……?」


聖女をもし狙っているのであれば十分に国の転覆は可能になってしまう。

それほどまでに聖女、ないし聖女から生まれる勇者の力は強大と言える。

本来ならそういうことが起こらないように聖女は発見され次第どこかの公爵家に預けられるはずだったのだが当代聖女のシャーロット=ローレンスは7年前に王家の命令を断固拒否し聖女を処刑したところで次の聖女は生まれてこないため不敬罪に問うこともできなかった事件があった。


「まさか……すでに七年前に聖女は……」


「いや、おそらくまだ勇者に成っていることはないだろう。だが洗脳されている可能性は十分にある」


「なんと卑劣なことを……!」


今まであの女は殿下の誘いを断ってばかりだった。

王族、しかも次代の王であるジェームズ殿下の正妻となれば女として最高の誉れであり幸せであるはずなのに断る聖女を訝しく思っていたがまさか洗脳されていたとは……


「では聖女の洗脳を解くことを目標に」


「間接的にはそうだな。だがその平民を殺して置かなければ根本的な解決にはならない。だから『アラン』という平民を消すことが第一目標だ」


「はっ!」


「やつは学園の入試を受ける。まずはそこで様子を見るぞ」


「承知いたしました」


聖女は必ず殿下の婚約者になってもらわなくてはならない。

聖女の権威は必ず殿下の治世において力になるはずだ。

私は……やり遂げて見せる。


◇◆◇


「殿下……聖女はやはり……」


「ああ、応じてはくれなかったな。まあこの案は上手く行かなくてもしょうがない。これで上手くいくなら最初から苦労はしていないはずだからな」


やはり洗脳されているのか……?

ひとまずこの入試試験においてアランとかいう平民を探さなくては……

まずは敵を知らないとなにも始まらないのだから。

私達が魔物を狩りながら歩いていると突如赤く巨大な影が現れる。


「殿下!後ろに!」


「チッ……来やがったか……アランは周りにいるか?」


「い、いえ……少なくとも半径50mには誰もいないかと!」


王子殿下は何もないような顔をしていたが私はそれどころではなかった。

フェニックスなんて学生が相手をできるような魔物ではない。

すでに勝つことは諦めなんとか殿下だけでも逃がせるような方策を探す。

しかしその努力も虚しく時間を稼ぐ暇もないままフェニックスは炎を吐いてくる。


「っ!殿下!」


王子殿下を庇うが一向に熱はやってこない。

恐る恐る目を開けるとキラキラ光る透明な壁が私達の周りを守っていた。


「これは……まさか聖女殿の魔法!?」


「ちっ!アランは来ないのか。俺を守る可能性があったから生かしておいてやったのに結局邪魔しかしてこないな」


アランが……殿下を守る?

いや、それどころではない。

フェニックスは標的を私達から聖女へと変えた。

殿下が無事なのは喜ばしいが聖女が死ねば魔王へ対抗しうる力が人類にはなくなってしまう。

死なせるわけにはいかなかった。


「で、殿下!いかがいたしますか!?」


「待て、あの者は……」


殿下が見ている方には黒髪の男が聖女に向けて駆けている。

まさかあの男が……


「アランだ。追うぞ!」


「っ!?殿下!お待ち下さい!」


フェニックスの戦闘にギリギリまで近づき物陰に隠れていると時間が経つに連れ聖女の動きが悪くなっていく。

聖女よりも強いあの平民は一体……?

いや、そんなことよりも聖女を救出しなくては!

私が飛び出すタイミングを伺っているとアランと思わしき男が殿下に向かって声を張り上げる。


「王子殿下!シャーロットは限界です!シャーロットを連れて安全なところまで避難

してください!」


聖女がこの男をアランと呼びまだ戦えると言っていたがそんなのは明らかにもう無理だ。

その判断は正しいと言える。


「平民風情がこの俺に命令するなよ!」


「聖女さまは守らなくてはなりません!時間を稼いでいる間に早く!」


「チッ……!わかった」


私達はアランがフェニックスを抑えている間に聖女に接近する。

そして殿下は聖女の腕を掴んだ。


「シャーロット!逃げるぞ!」


「離してください!私はまだ戦えます!離して!」


「ダメだ!行くぞ!」


すぐにこの場から離れようとするが聖女が動こうとしない。

こんなときに何を文句を言っているのだ……!


「貴女が死んだらこの国は終わります。素直に従っていただきたい!」


「この国のために戦うなんて死んでもお断りいたします。私の命は全てアランくんのために使うと決めています!」


まさか洗脳がここまで強いとは……!

アランめ、よくもやってくれたな……!


「すぐにこの手を離しなさい!でなければ攻撃します!」


聖女の周りに魔法陣が現れる。

殿下は慌てて手を離すと聖女は走り去ってしまった。


そして、意図せず消せると思っていたアランの勝報が知らされたのは数時間後のことであった。


◇◆◇


なぜ……あの男を勇者と認める。

あの男は平民の身でありながら聖女を初めとした全員を謀るこの国にとって重大な病巣だ。

なのになぜ誰も疑わない?

この国の王にふさわしいのは……勇者にふさわしいのはジェームズ殿下ただ一人なのに。


あの放送だってアランの策略かなにかに違いない。

あの殿下があのようなことをお考えなはずがないのだから。


「アラン……」


王子が攫われたのもあの男の仕業に違いない。

いつか必ずその醜い正体を暴いてやる。


まずは殿下の行方を探し出す。

そしてジャックやアイリスの婿ではなく必ず殿下を玉座に据えお前に罪を償わせる。

それまで精々……生き残ることだな。

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