第32話 クラスの和
「ルールは簡単だ。相手を戦闘不能、もしくは降参させたほうが勝ちだ。そしてアラン」
「なんでしょうか」
「お前は放出系の魔法の使用は禁止だ。雷魔法を制御しきれない今のお前なら相手を殺しかねんのでな」
「わかりました」
確かに僕はまだ雷魔法を使いこなせているとは言い難い。
それに実力を示すために魔法の威力で強引に勝利を掴んでも周りは納得しないだろう。
先生に言われずとも雷魔法を使うつもりはなかった。
「それでは結界を張る。開始の合図を待て」
そう言って先生はなにやら詠唱を始める。
すると僕たちの周りに透明な結界が張られた。
かなり頑丈そうな結界でよほどの威力がなければ破壊できないだろう。
こんな結界を簡単に張るルドルフ先生って一体……
「それでは始めるぞ、各自構え」
「ククッ……!手合わせよろしく頼むぜ……!」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
僕とフォスター様は剣を抜き構える。
かなりの使い手という噂は本物のようで構えに隙は見受けられない。
さて、どんな戦い方をしてくるものか……
「始めっ!」
先生の合図が聞こえると同時に二人共地面を蹴る。
急接近と同時に剣を振り抜くがかすり傷一つ負わせられない。
倒せるとは思ってなかったけどこんなにも簡単に捌かれるなんてね……
「ハッハッハ!強いなぁ……こりゃあ本物だ……」
「それはどうもありがとうございます」
「お前が魔法を使わないんだから使うつもりはなかったんだが……今の俺じゃお前に勝てねぇ。魔法を使わせてもらうぜ?」
「ご自由に」
「その余裕顔、すぐにでも塗り替えてやりたいなぁ!」
そう言ってフォスター様は魔力を集め始める。
魔法の造詣も深いらしくかなりの速度で集め隙ができることはなかった。
それに僕はフォスター様がどんな魔法を使うのか全く知らない。
よく見て抑えるしか僕の取れる戦法はなかった。
「行くぞ……!
フォスター様の魔法が発動した瞬間、僕の体が一気に重みを増す。
それどころか剣も重くなり明らかに動きづらくなる。
「これは……!重力魔法……!?」
重力魔法とはその名の通り重力を操る補助魔法だ。
本来なら味方の重力を小さくして動きを速くするくらいの効果しかなかったはずだがこれは次元が違う。
ここまで強力な重力を発生させるなんて……!
「行くぜぇ!」
「っ!!
迫りくる一閃をとっさに覚えたての身体強化を使い回避する。
とはいえまだ十分に使いこなせていないのか普段より体がかなり重い。
使わないよりかはマシになったけど。
「まだ避けるとは流石の一言……でもこのままいけばお前に逆転の目はねぇ!」
「くっ……!」
僕はずば抜けて動体視力が良いらしい。
ただ今は相手の速度が上がっているんじゃなく自分の速度が遅くなっているため見切れているのに思い通りに体が動くまでのタイムラグに中々慣れないという厄介さがあった。
まだ致命的な一撃はもらわなさそうだけどいつ崩れるかはわからない。
「本当に厄介ですね!貴方様の使う重力魔法は!」
「お褒め頂き光栄だ。ならそのまま勝たせろ!」
本当に厄介極まりない。
フォスター様は僕の動きを制限するだけでなく自分にもこまめに魔法をかけ緩急を付けてくるし1回毎のインパクトの瞬間に剣先に重力魔法をかけ威力を増している。
しっかり防御しないと弾き飛ばされてしまうため中々攻勢に出られない。
同時に魔法を使うことにも驚きだがその調整と切替の早さが化け物級だ。
「それは無理なご相談ですね。可愛い婚約者にかっこいいところを見せたいもので」
「タッハ!本当に面白いやつだ!なら俺は悪役として婚約者の前で恥かかすとしよう!」
そう言ってフォスター様は更に加速する。
まだ本気じゃなかったか……
これは厄介な試合になりそうだ……
◇◆◇
(なるほど……わかってきたな……)
試合が始まりどれくらい経っただろうか。
試合は膠着し続けていたものの僕は勝機を見出し始めていた。
「クッソ……なんで当たらねぇ!?こいつの動きが速くなってるわけじゃねえのに……!」
さっきから余裕を持って防ぐ割合が増えてきて少しずつ余裕が生まれてきた。
逆にフォスター様の目には焦りが浮かび始めている。
こんな感覚はいつぶりだろうか。
始めて感じたのはシャーロットと出会っていじめっ子たちと対峙したとき。
それからシャーロットが攫われた時を始め何回もこの感覚を感じ一つ先のステップに進んできた。
頭がスッキリし集中が極限まで高まるどこか心地良い感覚だ。
「くっ……!」
(見える……全部がわかる……)
戦況が好転し始めた理由。
それは僕が自分の目の使い方を理解したからだった。
時間が経てば経つほど理解が深まりフォスター様を追い詰めていく。
僕がこの戦いの中身につけた戦い方、それは相手の行動を読み切ることだった。
相手の表情、視線、思考回路、戦況、地形、筋肉の動き方、様々な情報を常に取り込み続け相手の次の行動を読む。
すでに僕は相手が攻撃を開始する前から防御を始めていた。
フォスター様が何を考えどんな手を打ってくるのか全て手に取るようにわかる。
「あなたの負けですよ。もう今から僕に勝つことはできない」
「何言ってやがっ……!?」
僕はこの試合開始以来初めて自分から攻撃を仕掛ける。
フォスター様の防御を全て読み体術も交えながら追い詰めていく。
「これで……終わりです!」
僕の研ぎ澄ました一閃がフォスター様の剣を弾き飛ばす。
その剣は回転しながら宙を舞い遠くに突き刺さった。
僕は反撃の芽を摘むように剣を突きつける。
「僕の勝ち、ですよね?」
「そこまで。模擬戦はお前の勝ちだ、アラン」
ルドルフ先生が結界を解き終了を言い渡す。
僕はほぅっと息を吐き少しだけ安堵した。
まさか学生でこんなに強いなんて……間違いなく近衛で戦った誰よりも強かったな……
「アランくん。お疲れ様でした」
「シャーロット。うん、勝ててよかったよ」
シャーロットはパタパタと駆け寄りタオルを手渡してくれる。
僕はそれで土やら汗やらを拭う。
さっぱりして周りを見ると取り囲むようにクラスメイトたちが立っていた。
「え、えーっと……?」
「す……」
「す?」
「すごいなお前!」
「わぁ!?」
クラスメイトたちが近寄ってきてもみくちゃにされる。
シャーロットもしっかり巻き添えをくっている。
「お前なんでそんなに強いんだよ!入試でフェニックスを倒したのもお前って聞いたぞ!」
「その剣術に加えてあの雷魔法まで使うんですよね……」
「フォスター様って変な人としか思ってなかったけど今日はちょっとかっこよかったかも……」
みんな貴族なのに平民の僕にたくさんの賞賛の言葉をくれる。
授業初日に行けなかった分存在していた距離感が少しづつ薄れていくのを感じる。
「みなさん……本当にありがとうございます」
「ガッハッハッハ!強すぎるなぁ!アラン!」
心が温まり少しジーンとしてきたのをぶち壊すようにぐいっと強く横から引っ張られる。
見るとフォスター様が満面の笑みを浮かべ僕に肩を組んできた。
感動の心を返してほしい……
「さあもう一戦だアラン!こんなに楽しかった戦いは初めてなんでな!俺が勝てるまで付き合ってもらうぞ!」
「そ、それは遠慮しておきます……」
周りからどっと笑いが起こる。
貴族といっても意外とフレンドリーな人が多いんだな。
このクラスなら、一年間がすごく有意義なものになりそうだ。
この模擬戦は優秀者が集まるSクラスの生徒のやる気に火を付けた。
アランが入試を生き残ったことにより、進むはずだった歴史はどんどん進路を変えていく。
しかし、このSクラスにもクラスの和に加わらずただ、黙々と訓練と後悔を続ける男がいた。
その男の名は───ロバート=ウィルソン
仕える主君を失った元忠義の士の名前であった。
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