第34話 泥棒猫
模擬戦から更に2時間授業を終えた俺達は昼休みに入った。
一時間ほどあるこの時間を各々有意義に使うのである。
「アランくん。お昼ご飯食べませんか?」
「いいね。食堂行く?」
「はい。ノビリタス学園の食堂は美味しいと有名なので一度食べてみたかったんです」
「それは楽しみだね。早速行こうか」
僕たちはたくさんの生徒たちが利用するという食堂へと移動する。
アイリス王女とメアリーも来るかと思ったけど二人共弁当だから教室で食べるとのこと。
アイリス王女は暗殺を警戒し念のため弁当にしたらしく、メアリーは自分で弁当を作ってきたらしい。
仲睦まじげに二人で弁当を開いていたが今思えばすごい光景だよな。
身分をそこまで気にしないアイリス王女とめちゃくちゃフレンドリーなメアリーでなければ王族と平民が一緒に弁当を食べる光景なんてなかっただろう。
「さて、どのメニューがいいかな……」
貴族が多数所属するだけあって聞いたこともない料理名がズラッと並んでいる。
ただコックは全員一流なのであえて庶民料理を食べてみたい気持ちもある。
とにかく品揃えが多くて迷ってしまう。
「シャーロットは何食べるか決めた?」
「はい。私はこのビーフシチューにしようかなと」
「美味しそうだね……僕は……ハンバーグにしようかな」
僕はハンバーグにすることにした。
看板に書かれているオリジナルソースと最高級の肉、という魅力に抗えなかった。
というか全部美味しそうだからいつかは全部食べてみたい。
僕たちは注文した料理を受け取り空いている席に座る。
自分たちで料理を受け取るなんて貴族が反対しそうなものだけどそういう人は大体同じ派閥で立場が下の者に取りに行かせている場合が多い。
それくらい自分で取りに行けばいいと思うけど
「それじゃあ食べようか」
「はい」
「「いただきます」」
僕たちはそろって手を合わせ料理を食べ始める。
流石に料理人の腕も食材も良く、肉汁がたっぷり閉じ込められていてそこにオリジナルだというソースが肉を優しく包み込んでいる。
貴族もこの味だったら十分に満足できるだろう。
現にローレンス公爵家でいろんな美味しいものを食べてきたであろうシャーロットが目尻を下げて美味しそうにビーフシチューを食べている。
「美味しい?」
「はい!とっても美味しいです!」
僕も美味しくて箸が止まらない。
が、ふと強く視線を感じて食事を止める。
見ればそこら中からチラチラと見られている。
しかしその視線たちに悪意はほとんどなく興味本位、といった様子だった。
敵意とか持ってたらすぐに気付けるんだけどなぁ……
僕が周りを見たせいでシャーロットもみんなに見られていることに気がついたらしく周りをキョロキョロしている。
「少し居心地が悪いですね……」
「最初は僕が平民だからかと思ったけど……どうやら違うみたい」
僕は耳を澄ませ周りのうわさ話を聞き取る。
しかしその内容は思いも寄らないものだった。
『あれが雷魔法を使うって噂の当代勇者か……魔法だけじゃなく剣の腕も立つらしいな』
『平民って聞いてたけど結構イケメンですわね……』
『爵位はなくてもこの国唯一の勇者様でしょ。それであの容姿や強さなら愛人でも側室でもいいからもらってほしい……』
『お父様にかけあってみようかしら……』
『夜這いをかけて純潔を奪われれば責任を取るしかなくなりますわね……しかし同室にはシャーロット様がいるのね……』
……いや、なんでそうなるんだよ。
前半はまだしも後半は絶対にシャーロットに聞かせるわけには行かない。
こんな内容を聞かせてしまったら間違いなく……シャーロットの目から光が消える!
僕はその情景を想像してしまい冷や汗が止まらなくなる。
「……?アランくんどうしたのですか?具合でも悪いですか?あまり顔色がよろしくありませんけど……」
「い、いや!何でもないよ!あ、あはは……」
僕はどうしてでも話題を変えなくてはならない。
そうじゃないとノビリタス食堂事件として歴史に刻まれることになってしまうかもしれない。
「ほ、本当にこの料理美味しいよね!どうやって作ってるのかなぁ!」
「私にもこのレベルの料理は作れないのでわかりません……というかアランくん」
「は、はい」
シャーロットが質問をしてくる。
なんの質問かもまだわからないのに体が一瞬ビクッとなってしまった。
「なにか私やましいことでもあるのですか?嘘……というよりは隠し事に近い感じでしょうか」
ちょっと鋭すぎない!?
一分持たずに感づかれたんだけど!?
ど、どうする……ここはどうするのが正解だ……?
考えに考え抜き、選んだ選択は……
「いや、気の所為じゃないかなぁ……?」
誤魔化した。
だって証拠は無いし僕が言わなかったらバレないかもしれないじゃないか。
学園の平和のためになんとか誤魔化しきらなくては……!
「アランくんの言葉を疑いたくはないですが……どことなく怪しいんですよね……」
「そ、そんなことないよ……?」
シャーロットがジト目で見てくる。
冷や汗が止まらないけど目が泳がないようになんとか耐える。
「……アランくんがおかしくなったのは視線を感じてからですよね。一応確認だけします。
シャーロットがかけたのは五感強化の補助魔法。
しかし聴力が上がってしまうということは……
僕は最悪の結末が訪れたことに気づき絶望する。
僕が聞いたのと似た内容を聞いたらしいシャーロットの目から光が消えていく。
「……なぜ隠したんですか?」
「……シャーロットが怒ると思って」
ここまで来てしまったならもはや抵抗は逆効果。
僕はシャーロットの質問に嘘や隠し事なく素直に答えていく。
されるがままになってあとはシャーロットの裁量に任せるしかない。
「はぁ……泥棒猫たちにアランくんが誰のものかわからせないといけないみたいですね」
「え?」
「はい、どうぞ」
シャーロットは自分のビーフシチューをすくい僕の前に出してくる。
いわゆるあーん、の体勢である。
「……マナー違反で怒られるんじゃ?」
「そんなの関係ありません。私のアランくんを狙うほうが悪いんです。それとも嫌なのですか……?」
ここで断ると事がもっと面倒なことになりそうだ。
それにシャーロットにあーんされるのが嫌なはずがない。
周りに見られながらするのは少しどころか猛烈に恥ずかしいが仕方ない。
「あ、あーん」
シャーロットが出してくれたビーフシチューをパクっと口にいれる。
ビーフシチューもハンバーグに負けず劣らず美味しかった。
「美味しい……って恥ずかしがるならやらなければいいのに」
「は、恥ずかしいなんて思ってません!」
そう言うシャーロットの顔は真っ赤に染まっていた。
やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしいらしい。
それでもやめるつもりはなかったらしくもう一度差し出してくる。
一回目よりは二回目のほうがハードルが低くパクっともう一度食べた。
「泥棒猫には絶対にアランくんを渡さないんですから……!」
「はは……つい隠しちゃってごめんね……」
ノビリタス食堂事件は起こらずにすんだ。
そして僕の平和も守られるどころかシャーロットとイチャイチャできた。
でも……隠し事はなしにしよう……
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もうすぐテスト一週間前に入ります。
なので更新、コメントの返信が遅れる可能性がありますがご承知おきください。
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