第28話 私の選んだ道(アイリス視点)
「では僕たちはこれにて失礼します」
「はい。詳しい説明は改めて場を設けます。今日はありがとうございました」
私はアラン様たちを見送る。
そして姿が見えなくなると大きく息を吐き椅子に腰をかけた。
「ふぅ……第1段階は成功ね……」
一度は見捨てる覚悟をした祖国だがアラン様とシャーロット様の力があれば立て直しができるかもしれないと踏んでわざわざ帰国したのだ。
時間も命もかけるこの作戦は絶対に失敗するわけにはいかない。
「アイリス殿下……いくらなんでも命の球まで渡すのはやりすぎなのではないでしょうか……」
「そう思う?アレックス」
後ろに控えていた白髪のアレックスが言う。
この人は私が一番最初に登用した重臣で私の補佐をしてくれている。
戦闘に諜報に政治となんでも精通している天才だが平民という身分のせいでくすぶっていたところを私が登用したのだ。
「はい……正直そう思います」
命の球は言わば持ち運べる人体の弱点だ。
魔道具を起動させた本人の命を球に封じ込める。
病や寿命、また許容量を超えるダメージを防ぐことはできないが本体が第三者的要因で死亡するのをある程度防ぐことができる王家の宝。
本体と球に同時に回復魔法をかけると効果が何倍にもなるというメリットもあるがそれでも盗まれてしまうなどのデメリットのほうが大きい。
私だって今回みたいなことがなければ使いたくなかった。
「いいのよ。そのおかげで私は命を懸けるに値する一番欲しかったものが得られたのだから」
「勇者さまと聖女さまの信頼、ということですな?」
「ええ。計画を成功させるためにはなんとしてでも二人の信頼を勝ち取ることが必須だもの。
本当に昔からつくづく忌々しい家族だった。
父は優柔不断で王として自分の命をかける覚悟が完全に不足し保身に走る無能、母は自分の権力にしか目がない老害、双子の兄は聖女に嫌われているのに勇者に勝負をしかけ不正を行いその様を魔道具で校内放送して王家の信頼を地に落としたクズ、腹違いの弟は税で贅沢を楽しむだけの愚か者。
そんな王家に従う役人もまたまともな人員のほうが少ない。
「陛下もよくもまあ許されたものですね」
「アラン様とシャーロット様の人柄のおかげね。ヘイマンもよくやってくれたわ」
計画通り進めるためにはまだ父には生きていてもらわないとならなかった。
なんとか許される確率を上げるためにアラン様たちの謁見の前に父と接触して不安を煽りまくっておいたから謝罪するとは思っていたけど許されるかは微妙なところだったのだ。
「ヘイマンには私名義でとびきりの褒美を出しましょう。どうせ父達は褒美を出すのは渋るでしょうから」
「わかりました。手配しておきます」
忠義には報いる。
それは王族として当然のことだ。
自分の利益欲しさに報酬を渋るなどあってはならないことだった。
「何か他に計画の質問、懸念点はあるかしら?」
「懸念というより感想ですがお二人とも殿下と同い年ということで本当にお若いですね」
「あら、アレックスはあの二人だと不安かしら?」
私が冗談気味に聞くとアレックスは首を横に振った。
その顔はいつにもまして厳しい顔をしている。
「その逆でございます。シャーロット様は入試試験で既に
「そうね。なら、アラン様はどう見たのかしら?」
私自身は戦闘は大の苦手だ。
だから戦闘にさせないように頭脳を使って立ち回るのが私の戦いだった。
そのため強いということはわかっていてもどれくらいなのかは信頼できる配下に判断してもらうしかない。
「あの方は……」
アレックスが言い淀んでいたので何事かと後ろを振り返ってみればアレックスが大量の汗を流していた。
運動したわけでもなくなにかに怯えるように揺れる目を見ればそれが冷や汗だとわかる。
「あの方は別格です……おそらく私が戦っても勝てる可能性は万に一つもありません……」
「……!!」
アレックスがそこまで言うなんて……
アレックスは私の配下の中でも最強でヘイマンから勝率4割ほどは取れる人材だ。
にも関わらず勝つことは不可能だと断言した。
それがどれだけ異常なことかを理解したとき私も背筋が凍るのがわかる。
「アラン様がこの国に刃を向けていたらと考えるのも嫌ね……やっぱりそれも勇者の恩恵なの?」
「それもあると思いますがあの方は勇者に成る前からかなりの強さを持っていました。歴代の勇者と比較しても破格の強さかと……おそらく昨日雷魔法を発現したことで爆発的に成長したと思われます」
勇者は全能力上昇、耐性強化の他に成長限界の突破と成長効率の上昇という強力すぎる恩恵を受ける。
だとしてもたった一回の戦闘でアレックスより強くなるなんてありえない成長スピードだと思う。
「本当に敵に回さなくてよかったわね……」
「この国が今残っているのもアイリス殿下のおかげかと」
いつもならお世辞だと聞き流すところなのだが今日ばかりは笑えなかった。
でも敵に回すと恐ろしいということは味方であるならばこれほど心強い存在はいない。
それくらいの人材ならば革命成功の可能性も高まるというもの。
「二人の信頼を完全なものにする必要があるわ。すぐにでもこの国のゴミ掃除を始める。準備は任せたわよ」
「お任せください。全てはアイリス殿下のために……」
そう言ってアレックスは一瞬で姿を消した。
ここからが私の勝負だ。
女だからと常に政治から遠ざけられ無能を演じざるを得なかった。
でもこれからは違う。
己の才覚、仲間、配下、全てを駆使しどんなに不利な状況でも勝ってみせる。
それが私の選んだ道なのだから。
「必ず……必ず私は女王になってみせる。私の夢を叶えるために……」
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