第29話 転入生
アイリス王女と手を組んだ翌日。
僕たちは2日ぶりに学校に向かっている。
昨日は王城に呼ばれたから登校免除されたんだよなぁ……
僕は隣を歩くシャーロットに質問する。
「魔力量は大丈夫そう?」
「大丈夫ですよ。開け閉めするとき以外はほとんど魔力を使いませんから」
なぜ僕がいきなりこんな質問をするのか。
それは王女から命の球を預かったのはいいけどどう保管しようかという悩みから始まった。
これを持ち歩いて戦闘するのは危険、大した保管場所もなく剥き出しで置いておくのは論外。
どうしたものかと頭を悩ませていたのだが……
『え?異空間収納?』
『はい。私は異空間系魔法が得意ではないのでポーチくらいの大きさしか作れないのですがそのくらいのサイズでしたら収納は可能です』
異空間系魔法は難易度がかなり高いが効果は絶大である。
収納ならば本人以外絶対に開閉できない金庫のようなものだ。
いくら小さいと言ってもシャーロットから使えると聞かされて大層驚いたものでありがたくお願いすることにした。
魔力消費がかなり多いらしく昨日は収納したあと疲れたと言っていつもより甘えてきた。
そうこうしている間に教室に着き空いている席に座る。
すでに何人かクラスメイトが来ているが自己紹介も何も聞いていないため入学式の日と同じくクラスメイトの顔と名前が中々一致しない。
「クラスメイトの名前全員覚えた?」
「ある程度は覚えましたけど全員はまだですね。授業を一緒に受けるんですから今日中には覚えきれると思いますけど」
シャーロットって頭いいんだなぁ……
僕も歴史はそこそこ得意だから人の顔覚えるの苦手じゃないはずなんだけど……
「おはよう二人とも。私もそこに座っていいかな?」
僕が頭を抱えていると横から話しかけられる。
顔を上げるとメアリーがニコニコの笑顔で立っていた。
「おっメアリーか。いいよ、一緒に授業を受けよう。シャーロットもいいよね?」
「もちろんです。どうぞこちらに」
この長椅子は四人がけなのだが今はまだ僕とシャーロットしか座っていない。
シャーロットが僕がいるほうとは反対の右側を空ける。
メアリーはそんなシャーロットの様子に少し苦笑しながらシャーロットの右隣に座る。
「私はシャーロットちゃんからアランくんを取ったりなんてしないよ〜!」
「念には念をということです。アランくんを誰にも渡したくありませんから」
そう言ってシャーロットはぷくっと頬を小さく膨らませて僕の腕をムギュッと効果音がするくらいホールドしてくる。
僕としては役得だなぁと思うものの相変わらずの独占欲に苦笑い。
それでも自分を独占しようとしてくれて嬉しいという自分もいるため僕もだいぶ重いんだろう。
「僕はどこにもいかないから」
そう言って頭を撫でるとシャーロットはにへらと笑う。
あるはずのない尻尾がブンブンと振られている幻覚が見えた。
本当に可愛らしい婚約者だ。
「二人とも本当に仲良いよね〜!もうラブラブな夫婦って感じ!」
「そ、そうですかね……えへへ……」
メアリーの言葉にシャーロットは嬉しそうにする。
さっきまであんなに警戒してたのにやっぱりシャーロットってチョr……
まぁそんなところも可愛いんだけども。
「メアリー、昨日の授業はどんなことをしたんだ?」
「昨日は顔合わせと教科の説明がほとんどだったよ〜!怖そうな先生もいたけどこれからすごく楽しみ!」
「あはは、メアリーらしいね」
ここ、ノビリタス学園は生徒の大半を貴族が占めており派閥や実家の圧があるせいか表立って争いは無いものの常にピリピリした空気が漂っている。
そんな空気感の中学園生活を楽しみだと言えるのはいつも明るいメアリーらしいと言えるだろう。
僕もいつ事態が動き出すかはわからないけどそれまではシャーロットと楽しい学園生活が送れたらなと思う。
僕がそんなことを考えているとチャイムが鳴り少しガラの悪そうな担任教師が入ってくる。
名前は確かルドルフ先生だったっけ……
「おい、お前ら席につけ。ホームルーム始めんぞ」
先生のその一言で教室は静まり返る。
ルドルフ先生は気だるげに頭をかき連絡事項を話し始める。
「今日は平常授業だ。昨日と同じようにしっかりと授業に励むように。そして昨日も話したと思うがジェームズ=エリオットは無期限の休みだ」
いくら学園内での身分差は関係ないとの校則があったとてそれはほとんど名目だけのはずなのにこの人は王子のことを呼び捨てにしている。
それだけでも驚きなのに王子が攫われて行方不明になっているのを無期限の休み、というふうにしていることにも驚いた。
……命知らずなのかな。
決闘で王子を殺しかけた僕が言えることじゃないかもしれないけど。
「それともう一つお前らに知らせておくことがある。今日からこの1−Sクラスに転入生がくる」
ルドルフ先生の言葉に僕たちは全員頭にハテナマークが浮かぶ。
常識的に考えれば入学式から2日目で転入というのは全く意味がわからないしそもそもこのノビリタス学園に転入が可能なんて話を聞いたことがない。
あるとしても他国の貴族が留学に来るくらいだが先生は転入と言った。
「本人がいないところで話してもしょうがないだろう。入れ」
「はい」
そんな美しい声と共に扉が開かれる。
教卓付近まで歩いてきた声の主は誰もが見惚れるような美しい容姿と見覚えしか無い輝く金髪の少女だった。
「皆様ごきげんよう。ユテラ王国での留学を終え帰国してまいりましたアイリス=エリオットと申します。これからよろしくお願い致します」
「「「え…………?」」」
全員驚きを隠せず教室が静まり返る。
誰もが声を失い固まっていた。
「全員聞いたことあるだろうがアイリス嬢だ。仲良くしてやってくれ」
なんでルドルフ先生は全然動じていないんだよ……
僕はこの状況とルドルフ先生に対し頭が痛くなった。
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