第27話 時代が動き出した瞬間

「単刀直入に言わせていただきます。……この国、私達で盗っちゃいませんか?」


僕とシャーロットは思わぬ爆弾発言に言葉を失った。

明らかにスケールのでかすぎる話だ。

第一王子のジェームズがいない今、王位継承権第一位は第二王子であるジャックに繰り上がる。

それを取りに行くとこの人は言ってるのだ。


「本気ですか……国を盗りに行くなんて……」


僕が驚いているのにはもう一つ理由がある。

それはこの国の歴史において女性が王座についた前例が一つも存在していないということ。

間違いなく国中の貴族たちがこぞって反対するのは目に見えていた。


「本気です」


アイリス王女は曇りなき瞳で僕を見据える。

その目は嘘をついているようには見えなかった。

シャーロットの魔法なら一発で見抜けるのだろうがこの建物に来てからなぜか使えなくなったらしい。

確実なカードが無い分、自分の目でしっかりと見極める必要があった。


「……なぜこの国を盗りに行くと?」


「この国がどうしようもないほど腐っているからですよ」


「「……!!」」


そう言い放つアイリス王女の目はどこまでも冷たく覚悟を決めた目をしていた。

まさか王家から王国へのここまで辛辣な批判が出るとは思わずシャーロットと揃って息を飲む。


「お二人も目にしたことでしょう。この国の汚い部分を数え切れないほどに」


「……はい」


シャーロットが小さく頷く。

確かにこの数日で国の嫌な部分が大量に見えてしまった。

それこそ国の将来が心配になるレベルで。


「あれはほんの一部に過ぎません。この国は根本まで腐りきっています。おそらくこのままでは10年足らずで国が滅ぶでしょう。現状維持をしたところで100年も持たないと思います」


その情報が本当なら事態は深刻すぎる。

この国、エリオット王国は魔王軍の領土から人間の領土を守る盾の役割をしている超巨大国家で人類側の盟主国だ。

ゆえに聖女はどの国で生まれようともエリオット王国に連れてこられる。

そんな重要な国が10年で滅んだらどうなるだろうか。

考えるまでもなく人類が生き残れるかすらも怪しいところだろう。


「本来ならばこの国は諦め留学先のユテラ帝国にて防衛線を構築する予定だったのですが状況が変わりました」


アイリス王女は言葉を一度切り僕たちを二人交互に見る。

そして小さく頷いた。


「それがお二人の存在です。配下からの情報を聞く限りお二人の力があればエリオット王国の立て直しが可能かもしれない。エリオットの国力は相当なものですし守れるに越したことはない。そのために私は急いで帰国してきたというわけです」


アイリス王女から聞かされた内容はどれも衝撃的だった。

まずい状況だとは思っていたけどまさかここまでだったなんて……


「しかし、私達に手伝えることはあるのでしょうか?正直政治でお手伝いさせて頂くことは難しいと思うのですが」


「……確かに。シャーロットはまだしも僕は政治はからっきしです」


僕たちが懸念点を挙げるとアイリス王女は首を横に振る。


「国内のは私と配下で行います。しかしいつ魔王軍が攻めてくるかもわからずの状態では改革のしようがありません。なのでお二人には時間稼ぎを頼みたいです」


なるほど……

適材適所というわけか……


「しかし広大すぎる領土を二人で守り切るなんて絶対に不可能ですよ?」


「私の読みでは本格的な侵攻が始まるのはまだ先ですがもし魔王軍が侵攻してきた場合は逆侵攻をかけてください。もし二人を先頭に人類が反撃に出れば魔王軍を防衛に戦力を割かせることが出来ます。攻撃は最大の防御というやつですね」


アイリス王女の言っていることは理に適っている……と思う。

僕たちが時間を稼ぎアイリス王女が国を盤石なものに作り変えて支援してもらい魔王を倒す。

これが一番いい流れだし僕たちにも利があると言える。

でも……


「逆侵攻をかけている際に裏切られると僕たちはどうしようもなくなってしまいます。こんなふうに疑いたくありませんが何度も王家に裏切られてきたので……」


「いえ、仰ることはごもっともだと思います。私だってお二人の立場だとしたらこんな得体のしれない女の言うことなんて信じられません」


自分で得体のしれない女って言うんだ……

僕が変なところに驚いているとアイリス王女は赤く光る球を取り出した。


「なっ!アイリス殿下それは……!」


「もう決めたことです」


今まで沈黙を貫いて王女の後ろに立っていた男が突然慌てだすが当の本人は全く気にしていない。

そのまま僕に球を渡してきた。


「これは……?」


「小さく傷を付けてみてください」


軽くナイフで切りつけてみるが硬くて傷がつかない。

少しだけ力を入れると小さく傷が付いた。

その瞬間──


「うっ……!」


アイリス王女が胸を抑えて苦しみだす。

よく見れば少し吐血していた。


「シャーロット!すぐに回復魔法を!」


「はい!」


シャーロットが回復魔法をかけると王女の顔色はみるみる良くなっていった。

それと同時に僕がさっき付けた

その現象を見た瞬間これがどんな代物か薄々気づいてしまう。


「それは命の球と呼ばれる魔道具です……本来なら王族の命を守るためにあるのですが今回は人質として使ってください……」


とんでもない人だ。

自分の命を人質として差し出すなんて正気の沙汰じゃない。


「僕らが悪用する、とは考えないのですか?」


「そのときは私に見る目がなかったということですよ……」


ヘイマンさんと同じような強い覚悟を感じる。

あの王様なんかと比べ物にならないほどこの人に期待している自分がいるのがわかった。

王女に助力したいという気持ちが膨れ上がる。

横のシャーロットに目をやると覚悟を決めた顔で力強く頷いている。


「わかりました。僕たちもあなたを全面的に信頼します。手を組むという話、ありがたくお受けいたします」


「よろしくお願いします」


僕とシャーロットが揃って頭を下げるとアイリス王女は目を輝かせる。


「はいっ……!よろしくお願いします……!」


全員で握手をし、結束を誓った。


「それではまず、あの父王無能を玉座から引きずり落とすとしましょう」



この日、誰も知らぬ路地裏の建物で一つの時代が動き始めた。

ここからエリオット王国は変革のときを迎える。

そしてその歴史的瞬間は運命のうねりを生み始めたのだった──

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