第25話 胸を騒がす違和感
「この国の国王ってどんな人なの?」
僕は王城に向かう馬車に揺られながらヘイマンさんに質問する。
これから会う人の人柄くらいは知っておくべきだろう。
「とても心優しい方だ。が……」
「王の器ではない、という噂もある方ですね」
ヘイマンさんの言いづらそうな雰囲気を感じ取ってシャーロットが代弁する。
シャーロットは社交界デビューもしてるわけだし多分面識もあるんだろうな。
「そういう面があるのは否めん。本来なら主をこんなふうに言いたくないが二人に正直に伝えぬのは不義理であろう」
近衛隊長として近くにいたヘイマンさんがそう言うということは事実なのだろう。
聞いたところ優しすぎて心を鬼にできないんだとか。
王様がそれでいいのかと思うけどもはや腐ったこの国には今更だ。
「さて、どうなるものか……」
遠くに小さく見える王城に目をやってつぶやいた。
◇◆◇
「アラン殿、シャーロット殿のご到着です!」
僕たちは今玉座の間の扉の前に立っていた。
案内役の兵士が声を張り上げ扉が開かれる。
「どうぞ、お入りください」
僕とシャーロット、ヘイマンさんは中へ足を踏み入れる。
そこには玉座に座る王、手前に立つ宰相らしき人、そして僕たちを挟むように貴族たちが立っていた。
「よくぞ、来てくれた。勇者アラン殿と聖女シャーロット殿」
まだ僕が勇者に成ったと明かされていなかったのか大多数の貴族たちが驚きの声を上げる。
だけどそんな有象無象のことなんて気にしない。
「はじめまして。アランと申します」
「シャーロット=ローレンスでございます」
本来なら長ったらしい口上を言わないといけないらしいがそんなの知らない。
いきなり呼ばれたわけだしそもそも今回はあちらに非があるのだから。
シャーロットも軽くカーテンシーをし名前を名乗って終了だ。
さあ……どう出てくるか。
「今回呼んだのは他でもない。そなたたちに謝罪させてほしい」
そう言って王は頭を下げる。
どよめきが走り先程からあまり表情が変化しなかった宰相も驚きを隠せない表情をしている。
「陛下!王である貴方が勇者や聖女とはいえこの国の民に頭を下げるなど……!」
「黙れ!」
抗議の声を上げる貴族たちを一喝で黙らせる。
あれ……?この人って王の器じゃないんじゃなかったの……?
めっちゃ迫力あるんだけど?
「声を荒げて済まなかった」
「い、いえ……」
王様はさっきまでの顔とは打って変わって真顔になる。
その落差に思わずどう反応していいかわからなくなってしまう。
「本当にすまなかった。バカ息子がそなたたちにしでかしたことは全てヘイマンから聞いた。謝罪して許されることではないかもしれないが謝らせてほしい」
そう言って王様はもう一度頭を下げる。
決して上げようとはしない。
「あの愚息がしでかしたことは親である余の責任。ましてやその相手が勇者殿と聖女殿ならば王として余が責任を取る」
この王としての発言にヘイマンさんも驚いている。
どうやら今の王様は本当に別人のような状態らしい。
この場面だけを見ると名君のようにしか見えない。
「正直許すことは出来ません。ですがこの国には守りたい人もいますし敵対はしないことにします。ただし……」
敵対はしないけど味方にもならない。 これが最終的な譲歩のラインだった。
そしてここで一つ息を吸いキッと国王を睨みつける。
「次はありませんよ?」
「……温情感謝する」
次は敵対する。
そう堂々と宣言した。
王様も異論を唱えることなく了承する。
「では僕たちはこれにて失礼します」
僕たちはそのまま玉座の間を出る。
馬車を出してくれるらしいけどそれは断って歩いて帰ることにした。
前評判とは全く違う国王……
ヘイマンさんですら欺かれた?
欺いたとして何のために?
まだわからないことが多い。
一体何がどうなっているんだ……
◇◆◇
王城を出て、しばらくしたころ。
僕は隣を歩くシャーロットに質問する。
「国王のこと、どう思う?シャーロット」
「正直に言えば違和感しかありません」
シャーロットは断言する。
やはりあの状況はどこか異常だった。
「どうしてそう思ったの?」
「こっそり魔法を使って探っていたんです。その魔法の効果は嫉妬や殺意など負の感情の内容を鑑定するものなんですが……」
「どう出た?」
「異常なほどの怯え。特にアランくんが陛下を睨んだときは心のほぼ全てが怯えで占められていました」
怯え?何かに脅されていての行動だったのか……?
ますますどうなっているのかわからなくなっていく。
国王が何かの操り人形だとすればかなりまずい状況だ。
でもまだそうだと決まったわけでもない。
「情報が少なすぎるよね……」
「私にも見当がつきません。この国の中枢で一体何が起こっているのか……」
まさかこんなところまで踏み込みたくなんてなかった。
僕はシャーロットや大切な人さえ守れればそれでいいと思っていたのにこの国の状況がここまで危ういとは思っていなかった。
王子を攫った存在のこともあるし魔王軍が動き出す日も近いのかもしれない。
まさに斜陽のときだ。
「シャーロット、君のことは何があっても絶対に僕が守る。命に代えてもだ」
僕がそう言うとシャーロットは驚いた顔をする。
どんなことがあってもシャーロットを守る、これだけは僕の絶対に譲れない、守らなきゃいけない誓いだった。
だけどシャーロットは少し悲しそうな顔をして首を横に振る。
「命に代えて、なんて言わないでください。入試でも言いましたが私にとってはアランくんがいない世界なんて考えられないんです。アランくんが死ぬときはそれは私も死ぬときですよ」
「……それじゃあ僕も死なないようにシャーロットを守るしかないね」
「……!はいっ!そうしてください!」
僕が冗談っぽく言うとシャーロットが満面の笑みで答えてくれる。
やはりシャーロットには笑顔が似合う。
ずっと笑顔でいてほしいものだ。
「ところで……」
僕は立ち止まり振り返る。
そこにはどこにでもいるような白髪混じりの男の人がリンゴを買い物袋を持って立っていた。
「尾行してるよね?誰の差し金?」
「……?なんのことでしょうか?ただ買い物に来ただけですけど……」
「隠密は一流でも嘘は三流ですね。しらばっくれないでください。さっきからずっと尾行してきてるのはわかってるんですよ」
「……驚きました。まさか気づかれるとは」
さっきまでのにこやかな表情はどこへやら、一転厳しい表情に変わる。
身のこなしから察するにかなりできそうだ。
でも冷静に分析するに僕のほうが強い。
「これでもかなり自信があったんですけどね……流石は勇者さまといったところでしょうか」
「そんなことはどうでもいい。要件を言ってください。それ次第では切り捨てることになりますが」
シャーロットを後ろにかばい剣を少しだけ抜く。
魔法の準備もすでに出来ている。
「私はあなたと戦うつもりはありませんよ。要件は……」
「なんでしょう」
「我が主に会っていただきたく」
その言葉から面倒な気配が嫌でも漂ってきた。
次は一体なんなんだよ……
───────────────────────
だんだん規模がでかくなってきた……
学園ものなのでちゃんと学園には戻ってきます。
もうしばらくお待ち下さい。
※砂乃の描写が下手すぎて勘違いさせてしまいましたがヘイマンさんが命を懸けたのは国王の指示ではなくヘイマンさんの独断です。
24話にも後ほどわかりやすくなるように修正をいれます。
よろしくお願いします。
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