第24話 真の武人の覚悟

「国王陛下が話したいことがあると仰せです。聖女様も一緒に王城までご同行願えないでしょうか?」


「……!!」


国王の……謁見……

いつかは来ると思っていた。

でもまさかこんなに早く王城が動き出すなんて……


「アランくん、どなたですか?」


「あ、シャーロット」


見覚えの無い人が来たから気になったのかシャーロットも出てきた。

さっきまでのラフな格好から白を基調とした服へと着替えている。

イメージ保全や神聖さを出すために白基調の服を着ているんだとか。

シャーロットも大変だ。


「近衛の人。王城からの遣いだって」


「エドワード=ハリスと申します。聖女シャーロット殿」


エドワードさんの自己紹介を聞いたシャーロットはペコリと行儀よくお辞儀する。

そして明らかに作り笑いな表情になった。


「はじめまして、エドワード殿。シャーロット=ローレンスと申します。今日は何用ですか?」


「はっ!聖女殿とアラン殿に国王陛下の謁見の遣いに参りました。ぜひお二人にはご同行願いたく……」


「お断りします」


エドワードさんが言い終わる前にシャーロットは謁見を拒否する。

これは……相当怒ってるな……

まあ僕も正直この謁見は断りたい、なんて考えていたし異論は無い。

エドワードさんの目が驚きによって大きく見開かれる。


「な、なぜでしょうか」


「一言で言うなら僕たちはこの国あなたがたが信用できません」


「!!」


王子があんな奴だったことを考えると原作から人格がどんなに変わっていてもおかしくない。

僕に非は全く無いと思うけど目の前で王子を攫われている。

責任を僕になすりつけてこないとも限らない。


「国王陛下はお二人に責を咎めるつもりはないと仰っています!ですからどうか……」


「それをどうやって証明するんですか?」


もはやこれは悪魔の証明だと思う。

人の思惑の証明なんてできるはずがないのだ。

だからこれは実質断っているのと同義だ。

僕が話を終わらせようとすると横から威厳のある声が聞こえてくる。


「これでわかっただろう、エドワード。我々は取り返しのつかないことをしてしまったのだと」


「……ヘイマンさん」


ヘイマンさんが歩いてくる。

まさかヘイマンさんまで来ているとは思わなかった。

その表情は真剣そのものだった。

ヘイマンさんはエドワードさんの横まで行き顔を上げさせる。


「我々は誤ったのだ。勇者と聖女の信頼を失う、これがどれだけ国の犯した罪が重いかわかるだろう」


「……はい。ヘイマン様」


エドワードさんは苦い顔をする。

ヘイマンさんの顔も険しいままだった。


「一度外で待っておれ、エドワード」


「……わかりました。失礼します」


ヘイマンさんの指示に大人しく従ったエドワードさんが廊下を歩いて姿を消す。

この場には僕とシャーロットとヘイマンさん、そして重苦しい空気が残った。


「やはり無理か、アラン」


「そうだね。僕はもうこの国を信じることは出来ない。何かを失ったあとじゃ遅いんだ」


「全くもってその通りだ、アラン。失ってから後悔するのではどうすることもできん」


ヘイマンさんは自嘲気味に笑う。

そして改めて僕たちに向き合った。


「アラン……いや、アラン殿、シャーロット殿」


ヘイマンさんは胡座をかき両手を地面についた。

この国における最敬礼である。


「ちょっ!ヘイマンさん!いきなりどうしたの!?」


「どうか……もう一度この国にチャンスをもらえないだろうか……!」


「え?」


ヘイマンさんはかたくなに顔を上げようとはせず話を続ける。

その姿はまるで決死の覚悟を決めた兵士のようでその言葉を遮ってはならないと、思わせられる。


「陛下は二人を害そうとは思っておらん。だからどうか……」


「それでも……僕はこの国を信じることはできないんだよ……」


失ってから後悔するな、この言葉はヘイマンさんからよく聞かされた言葉だった。

本当にその通りだと思う。

この言葉によってヘイマンさんの願いを断らなければいけないこの現状はまるで皮肉のようだ。


「今この場で儂の首をはねてもらっても構わない。儂の命で済むならいくらでも差し出す。だから……」


「なんでヘイマンさんがそんなことを言うんだよ!ヘイマンさんには関係無いじゃないか!」


「関係ある。この国は古くから腐り始めていた。それを駆除できなかったのは大人我々の責任だ。それにこの国は儂の故郷だ。命に代えてでも守りたいという気持ちくらいあるさ」


ヘイマンさんはもう一度深く頭を下げた。

その姿はまさに武人の鑑。

祖国を思い命を懸けるその精神は見事としか言いようがなかった。


「……これも国王の指示なの?」


「儂の独断だ。儂の命くらいで勇者と聖女がチャンスをくれるのならば安いものよ」


なんてことしてんだよ……

なんでそんなことができるんだよ……


「……シャーロット」


「私はアランくんの意思に従います。一番被害にあったのはアランくんですから」


シャーロットも思うところはあるだろうに僕に意思決定を任せてくれる。

そしてもう、僕の答えは決まっていた。


「……今回はヘイマンさんの顔を立てる。顔を上げてよ」


「……!!本当か……?」


「うん。ただし再び信頼を損ねるようなら僕とシャーロットはこの国を出る。それでいいよね?」


「十分だ。もう一度チャンスをもらえるだけで破格なのだ。こちらから文句など一つもない」


僕たちは条件として護衛をヘイマンさんにやってもらうことを提示し無事に受理された。

こうして僕たちは王城にて国王に謁見することになった。

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