2章
第23話 甘い朝と思わぬ来訪者
「うーん……朝か……」
気だるさを感じながら目が覚める。
眠気は消えず瞼は重たかった。
こんなに体が重いのなんていつぶりだろう。
「おはようございます。アランくん。目が覚めましたか?」
「……シャーロット?」
なぜか目の前にシャーロットの顔が見えた。
僕は寝ぼけているんじゃないかと自分の目をこする。
しかし余計鮮明にシャーロットの顔が見えるだけだった。
「……なんでこんな状況に?」
「ふふ、聞きたいですか?」
いつも僕とシャーロットは同じベッドで寝ているが大抵は僕の方が先に起きるかシャーロットが朝ご飯を作ってくれる音で目が覚めるので起きた瞬間に目の前にシャーロットがいてこっちを見ていた、なんて場面に遭遇したことはなかった。
しかもよく見れば僕がシャーロットの腰を抱いている状態だ。
ということは間違いなくこの状況は僕のせいなのではないだろうか。
「……一応聞くよ。なんで僕たちは、というか僕はシャーロットの腰を抱いている状態なのかな?」
「では、お教えしますね」
そう言ってシャーロットはドヤ顔になる。
僕はなんか嫌な予感しかしなかったが自分から聞いた手前やっぱり嫌だと言うこともできず素直に聞くとする。
「珍しく今日はアランくん起きてこなかったので様子を見に来たんですよ。そしたらアランくんが私を布団の中に引き入れて抱きしめてきたんです」
「…………」
「それで『シャーロット大好き』って囁いてくれたんですよ」
「…………」
「あとは色んな寝言を言ったりキュッと強く抱きしめてきたり──」
「も、もうわかった!わかったからそれ以上はもうやめて!」
これ以上は恥ずかしすぎて死ねる。
意識無い状態でのあれこれを見られるのは謎の恥ずかしさがある。
自分の顔が熱い。
「ふふ、そんなに恥ずかしがらなくてもいいんですよ?寝ているアランくんはすごく可愛かったですから」
「恥ずかしいものは恥ずかしいんだ。シャーロットだって寝顔を見られるのは嫌だろ?」
「全く恥ずかしさが無いわけではないですけど……アランくんにならいいですよ……」
結局恥ずかしいんじゃないか。
でもそんなことを話していると少し心が落ち着いてきた気がする。
顔の熱も収まってきた。
「それでは私は朝ご飯の続きを作ってきますね」
「ダメ」
「へ……?ひゃっ!」
僕は立ち上がるシャーロットを引き止め改めて布団に引き込んだ。
今度は背中から抱きつく形になってシャーロットのお腹に手を回す。
「もう……朝ご飯が冷めちゃいますよ?」
「シャーロットのご飯は冷めても美味しいから。それより今はシャーロットと二度寝がしたいな」
「ふふ、今日は随分と甘えん坊さんなんですね。わかりました、一緒に寝ましょう」
「ああ。ありがとう」
多分昨日の戦闘の疲れが残っていたんだろう。
人生で初めて魔法を使った影響はそれくらい大きかった。
ただそれ以上に雷魔法に将来性を感じたわけだが。
「そう言えばシャーロットは僕が魔法を使えるかもしれないって前から気づいていたの?」
シャーロットは入試で再会したあとの僕が泊まっていた宿で僕が魔法を使えないことを話すと複雑そうな顔をしていた。
もしかしたらあのときから魔法を使えたのだろうか。
「いえ、あのときのアランくんから魔力はほとんど感じなかったので気づいてはいませんでした。ただ……言葉では表現しづらいんですが何か不思議な感覚を覚えたので……」
「それもシャーロットが聖女だからなのかなぁ……ヘイマンさんやメアリーは特に気づいた様子はなさそうだったし」
ヘイマンさんも貴族出身なので魔法を使える。
一度見せてもらったがかなり強力だった。
ていうかあの人は剣術が飛び抜けてるから魔法を使うまでも無いんだろうけどね。
いつかお互い全力で戦ってみたいなぁ……
「本当に微かな違和感だったんですけどね。どことなく懐かしい感じというか……」
シャーロットもよくわかっていないらしい。
この話をこれ以上続けてもしょうがない。
その違和感の正体を掴むすべはないのだから。
「ごめんね。いきなりこんなこと聞いちゃって」
「いえ、大丈夫ですよ。それよりも私は安心したんです」
「安心したって何が?」
僕がそう聞くとシャーロットは僕の方を向き正面から抱き合う形になる。
シャーロットは上目遣いでニッコリ笑う。
「だってアランくんは無意識に私を求めてくれたんですよ?そんなの嬉しいに決まっているじゃないですか」
「あー……そうだね」
「アランくんが見ているのは私だけのようで安心しました。もし他の女性を見ているようなら一度じっくりアランくんとお話しないといけなかったですから」
そう言うシャーロットは笑顔だが目は全く笑っておらず光を失っている。
僕はその視線に背筋が凍った。
今までも浮気をしようなんて思ったことは微塵もないがこれからはもっと注意しようと心に誓った。
◇◆◇
無事にシャーロットの目に光が戻り少し
僕は扉のノックの音で目を覚ます。
「……?こんな時間に来客?」
「特に誰かいらっしゃる予定はありませんでしたけど……」
シャーロットも心当たりが無いらしい。
僕は仕方なく起き上がり玄関へ向かう。
そして扉を開けると──
「おはようございます、アラン殿。こんな時間に申し訳ございません」
やってきたのは整った顔と茶髪が印象的な35歳くらいの男性だった。
そして……近衛の甲冑を身に着けている。
「いえ……それよりあなたは……?」
「失礼しました。私はエドワード=ハリスと申します。近衛隊の副長でヘイマン様の副将を務めております」
ヘイマンさんから聞いたことがある。
自分が実質上隠居になった際近衛隊を託したのは副将のエドワードという人なのだと。
だから……現在の近衛隊のトップは事実上この人なのだと。
「はじめましてエドワードさん。それで僕に何の用でしょうか」
ヘイマンさんから信頼できる男だと聞かされているけど自分の目で確かめたわけじゃない。
警戒を緩めず質問する。
「国王陛下が話したいことがあると仰せです。聖女様も一緒に王城までご同行願えないでしょうか?」
「……!!」
国王の……謁見……
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昨日、ラブコメ月間1位を頂きました!
本当にありがとうございます!
この作品は作者の体調不良や事情がない限り10万字にいくまで毎日更新でいきたいと思います。
10万行ったら更新ペースはちょっと考えます。
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