第21話 決着のとき

「や、やめろぉぉぉぉ!!!!!」


「消えろ」


僕が剣を振り下ろすと王子は醜く避けようとする。

僕は別にこの一撃で消せなくても問題はなかったのでそのまま振り下ろす。


「うぐっ……!」


鮮血が舞う。

そして、ボトッと音を立ててが落ちた。


「ぎ、ぎゃぁぁぁぁぁ!!腕が!俺の腕が!」


「ゴミがわめかないでよ。命を懸ける覚悟があるから決闘を挑んできたんでしょ?」


僕が質問しても王子は傷口を押さえて悶えるばかりで答えようとしない。

こんなやつをいたぶっていてもただ吐き気がするだけだ。

もう終わりにするとしよう。


「今度こそ終わり。次は避けられないようにちゃんとトドメをさしてあげるから安心していいよ」


「あ……う……」


「じゃあね」


僕は思いっきり王子の脳天に向かって剣を振り下ろす。

しかし僕の剣は王子に届くことはなかった。


キィィィィン!!


激しい金属音が鳴り響く。


「っ!?」


嫌な気配を感じ何に防がれたのか確認もせずバックステップで後退する。

突如漆黒の穴が生まれたと思えばその中から人型で禍々しい雰囲気を放ったものが出てくる。


「すみませんねぇ。こいつを殺させるわけにはいかないのでして」


「誰?」


明らかに普通の魔物とは見た目も気配も一線を画している。

かなり上位の存在であることは間違いないだろう。


「申し遅れました。私、魔王軍がNo.3、ゴッセルと申します。以後よろしくお願いします」


「以後よろしくするつもりはないよ。早くそこの王子ゴミを返してもらおうか」


返事を聞くまでもなく僕は地面を蹴って駆け出す。

最速の一閃を放つも腕で受け止められる。


「ほう……当代勇者は中々骨がある……!」


「称賛なんていらない。早く返せ」 


「そいつは出来ぬ相談ですなぁ」


ゴッセルと名乗るやつはニヤニヤと気持ち悪い顔で笑う。

そのふざけた顔と対称に実力はかなりのものだった。

一言で言うならフェニックス以上に強い。


「まぁいいや。お前ごとやってやるよ。雷槍穿通らいそうせんつう


強大な雷の槍が現れそれを

そして思いっきり王子に向かって投げた。


「っ!!こりゃあまずい!」


ゴッセルが急いで駆け寄った瞬間雷槍が着弾する。

激しい爆風と土煙があがった。

ようやく視界が開けたときそこにはもう誰もいなかった。


「クソ……!逃がしたか……!」


悔しさのあまり唇を噛む。

あいつはここで仕留めないといけなかった。

最初からトドメをさしておくべきだったと後悔する。


「アランくん!」


「アラン!無事か!?」


僕が立ち尽くしていると後ろからずっと聞きたかった声が聞こえる。

驚いて振り返るといきなり抱きつかれる。


「シャーロット!?ヘイマンさんまで……」


なぜこんなところに?と思って聞こうとしたけどシャーロットがめちゃくちゃ泣いていてそれどころじゃなかった。

僕はとりあえずシャーロットを落ち着かせるべく頭を撫でる。


「ど、どうしたの?」


「だ、だって……たくさんの人に囲まれてアランくんが危ないと思って……無事で安心したら涙が出てきちゃいました……」


「え?なんでそれを……?」


「突然暗転して機材トラブルだと思っておったら突然画面が復旧してな。アランが王子や近衛たちと戦ってるのが見えたもんで急いでこうして飛んできたというわけだ」


結構激しく戦っていたしなんらかの拍子に再び魔道具が起動したのかもしれない。

ということは全部筒抜け!?


「すみません……何人かは……」


「謝らんでもよい。あやつらは生きておっても死刑になっておっただろう。陛下もわかってくださる」


「そうですか……」


僕たちの間に重い空気が流れる。

それほどまでにこの短時間で起こったことは衝撃的なことばかりだった。


「アランくん……」


「ごめん。あいつを仕留めることができなかった」


「そんなこといいんですよ。私にはアランくんさえいてくれればそれでいいんです……だから謝らないでください」


「はは。そっか……うっ……!?」


僕はそう言うと突然猛烈な吐き気とめまいに襲われた。

倒れるほどでは無いけど思わず口を抑えて地面に膝をつく。


「大丈夫ですか!?」


「……?どうして突然……?」


「アラン……お前もしや魔法を使ったか?」


ヘイマンさんは辺りを見渡してそう言う。

確かに辺りには火属性の魔法ではつかないであろう跡がたくさん残っていた。


「うん……」


「ならばそれが原因だろうな。魔法が使えるようになったばかりの頃は魔力酔いが起こることがあるのだ。病気の類ではなく安静にしておれば治る。後始末は兵らに任せお前は先にシャーロットと帰っとれ」


「わかった……後はよろしく頼むよ……」


「部屋に戻ったら治療をしましょう。幸い魔力酔いによく効く治療法を知っていますから」


「うん……」


「ではアランを頼みますぞシャーロット殿。アラン、後で魔法の話は聞かせてくれよ?」


「わかった……」


こうして僕たちは先に寮に戻ることになった。


◇◆◇


「ふぅ……危なかったですねぇ。まさか雷魔法を初日からあんなに使いこなすとは……」


異空間魔法を使いなんとかアランから逃げることに成功したゴッセルはそうひとりごちる。

そして腕に抱えていた人間を放り投げた。


「ひ、ひぃ……お、お前は……」


「あなたのような虫けらに名乗る必要はありませんねぇ」


「で、ではなぜ助けたのだ!」


虫けらが何かを喚いている。

なぜ下等な生物に質問なんぞをされないといかんのだと思う。

あの勇者の場合は敬意を表するに足る人物だったから会話をしたのだ。


「まあいいでしょう。今の私は機嫌が良い。なぜ連れてきたのかくらいは教えてやってもいい」


今からすることを想像して笑いが止まらなくなる。

これはなのだ。


「実験体にするためですよ」


「は……?」


「人間の王族とやらはたくさんの勇者や聖女を祖先に持つらしいじゃないですか。実験をした先に得られるデータはまさにお宝です。どれほど貴重なデータが得られるのか……楽しみで仕方ありませんねぇ……!」


「や、やめろ……!俺に近づくな……!」


「勝手に腕を一本失ったのは痛手ですがまあいいでしょう。偉大なる魔王様の

ために有効活用してあげますよ」


「や、やめろぉぉぉぉぉ!!!!」


叫び声は誰にも届くことなく虚しく響きわたる。

そしてそれからジェームズ王子の姿を見た者はいなかった……


─────────────────────────

コメ欄での一番のモテ王子、実験台行き


普通に◯されたほうがマシだったかも知れませんね。



補足説明


ヘイマンさんたちがアランが魔法を使ったのを知らなかったのは映像が復旧してすぐに入学式の会場を飛び出したから!

携帯型の受信機は貴重で普通の人は持っていません。

ちなみに王子やアランは携帯型受信機を使って入学式を見ていました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る