第13話 イジワル

「我慢出来なくて来ちゃいました」


そう言ってシャーロットは小さく舌を出した。

僕が言葉を失ったのは言うまでもない。


「ど、どうやって入ったの?」


「私の身元を話してお願いしたら管理人さんが開けてくれました」


何してんの管理人さん!?

勝手に人の部屋を開けたらダメでしょうが!


「とりあえず座っていてください。もうすぐ朝ご飯ができますから」


「え?あ、うん」


流れに押し切られ僕は座らされる。

シャーロットは美しく長い銀髪を一つにまとめ鼻歌を歌いながら調理を進めていく。

いい匂いがしてきて食欲が湧いてきた。


「はい、完成しました」


「おお……!」


メニューはスープとパンという庶民的な朝ご飯。

昔、僕たちがお泊り会をしたときはいつも食べていた懐かしのメニューだった。


「食べてもいい?」


「もちろんです。アランくんに食べてほしくて作ったのですから」


僕はパンをスープにつけて一口食べる。

野菜の旨味が一気に口に広がる。

パンの味にもよく合っている。


「うっま……!」


「よかったです……!」


でも美味いのは確かなのだが何よりも懐かしさを感じる。

いくら昔と同じメニューと言ってもここまで懐かしさを感じることはないはずだ。


「ふふ、気づきましたか?」


「うん。すごく懐かしい味がする。本当にあの頃のままの味だ」


「実はですね。アランくんのお母さんからレシピを教えていただきました。アランくんに食べてほしくてこの5年間でお料理の練習もしたんですよ」


貴族の必須教養に料理はない。

他にも勉強や魔法の練習が大変だったはずなのに料理の勉強もしていたという。

しかも理由は自分に食べてほしいから。

そんなことを言われて嬉しくないはずがない。


「僕のためにありがとう。すごく嬉しいしおいしいよ」


「アランくんに喜んでいただけて嬉しいです」


シャーロットは嬉しそうに目を細める。

そしてシャーロットは僕の反応に安心したのか自分も食べ始めた。


「やっぱり私はこういう食事のほうが好きです……」


「貴族の食事は口に合わない?」


ローレンス公爵家だったら超豪華な食事が出てきそうな気がするけど。

僕がそう思って聞くとシャーロットは苦笑いをする。


「美味しいは美味しいんですけどね。それでも私はこういう落ち着く食事の方が好きです。それに……アランくんと一緒に食べれるのが一番嬉しいんですよ」


「……そうだね」


僕もシャーロットとこうやってゆっくり出来てすごくホッとする。

やはりシャーロットと一緒にいられるのは嬉しい。

本当に生きていてよかったと思う。


「そういえば魔法の試験の準備はどう?」


「今更やれることはありませんよ。本番で自分の力を出し切るだけです」


ノビリタス学園の入試には紙でのテスト、魔物との実戦テスト、そして最後に魔法のテストがある。

この魔法のテストは全員が受けられるものではない。

基本的に魔法は貴族か本当にごく僅かな平民しか使うことができない。

なので平民の受験生はほとんど受けることができないのだ。

魔法のテストは配点自体は少ないものの確かに加点される。

よって魔法の加点が無くても合格できるような相当優秀な生徒か魔法を使える希少な人材しか平民で入試に推薦されることはない。


「そっか。頑張ってね。応援してるよ」


「アランくんは魔法を使えないんですか?」


「うん。適性は調べたことないけど今の時点で使えないからね」


シャーロットが複雑そうな顔をする。

シャーロットには僕にはわからない何かが見えているんだろうか。

もし魔法が使えたら戦闘の幅が広がるし使ってみたいけど。


「まあその話は今はいいです。アランくんなら魔法の試験を受けなくても合格でしょうから」


おぅ……随分シャーロットに信頼されてるな。

そう言われると俄然落ちることはできない。

もちろん今更結果は変わらないんだけどね。

……大丈夫だよね?


「それよりも、はい。どうぞ」


シャーロットが隣に移動してきてスプーンでスープをすくって俺の口元に持ってくる。

何がしたいかなんとなく検討はついたがとりあえず聞いてみることにした。


「ん?これは?」


するとシャーロットは小さく頬をふくらませる。

なぜこんなこともわからないのか、と目で訴えてくる。


「あーん、ですよ」


「……やらなきゃダメ?」


僕がもう一度聞いた瞬間シャーロットの目からハイライトが消える。

でも顔は笑顔のままで威圧感を放っている。


「私とあーんするのは嫌だ、ということですか?」


「そういうわけじゃなくてね!?ちょっと緊張しちゃって……」


「それなら大丈夫ですよ。ここには私とアランくんしかいませんから誰も見てません」


僕が緊張する、と言ったのはそういう意味ではない。

シャーロットは正真正銘の美少女だ。

僕にとっては守るべき特別な存在で先日告白されて少なからず意識している女の子。

そんな子と間接キスをすることになって緊張しないはずがない。


「ほら、どうぞ」


「……わかった」


覚悟を決めてぱくっと一口。

さっきまでめちゃくちゃ美味しいスープだったのに今は味がわからなかった。

顔も熱くなっている。


「ふふ、お顔が真っ赤ですよ。可愛いです」


シャーロットがニコニコ顔で頭を撫でてきた。

……随分と小悪魔に成長したもんだな。


「シャーロットは間接キスとか緊張しないの?」


「それはもちろんです。アランくんとならどんなこともできちゃいます」


……怪しい。

僕は自分のスプーンでスープをすくってシャーロットの口元に持っていった。


「ほら。あーん」


「わ、私もするんですか?」


シャーロットは明らかに動揺し始めた。

ますます僕は疑念を深めていく。


「ほら、僕以外は誰も見てないよ」


「う、うぅ……」


どんどんシャーロットの顔が赤くなっていく。

僕はそんな様子を見ているといたずら心が芽生えてくる。


「そっかぁ……シャーロットは僕にあーんされるのが嫌なんだね……わかった。今回は諦めるよ。……グスン」


「……!?ち、違います!た、食べます!ぜひ食べさせてください!」


少し悲しそうに嘘泣きして言ってみるとすぐに食いついた。

僕は改めてシャーロットにスプーンを差し出す。


「はい。あーん」


「嘘泣きだったんですか……!?うぅ……あーん……」


シャーロットは小さく口を開ける。

僕はシャーロットの口にスプーンを入れるとシャーロットはもぐもぐと咀嚼をして飲み込んだ。


「おいしい?」


「……おいしいです」


そう言うシャーロットは首まで真っ赤になっていた。

僕は無事反撃することができてすっきりしていた。


「うぅ……アランくんは少しイジワルです……そういうところも好きですけど……」


シャーロットから涙目で睨まれた。

でも依然顔は真っ赤のままだったので怖いというより可愛いと思ってしまったのは秘密だ。



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総合日間4位!

総合週間8位!

本当にありがとうございます!


ヤンデレはやっぱりМっしょ!

聖女+病み属性+ドM=最強の聖女ヒロイン


という謎の方程式が砂乃の中にはありました。


共感してくださる方はいますか?

いるなら語り合いましょう。

いや、このヒロインこそ至高!という意見も否定しません。

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