第12話 数年ぶりに再会したらヤンデレになっていた

「だから……アランくんも私のものになってくださいね♡」


僕はごくりと唾を飲み込んだ。

今のシャーロットはどこか艶めかしい。

15歳とは思えない色気を放っていた。


「なんて。今は逃がしてあげます」


そう言ってシャーロットは僕の上からどいた。

今は、と言っていた気がするがこの際スルーしてしまおう。

僕の心臓は未だバクバクいっている。


「アランくん」


「は、はいっ!」


思わず返事が敬語になって上ずってしまう。

シャーロットの目には既に光が戻り柔らかな微笑をたたえている。

僕はひとまず胸を撫で下ろした。


「私がさっき言ったことは冗談ではありません。本気でアランくんに心も身も捧げるつもりですしアランくんが私のものになってほしいと思っています」


「……うん」


「でもアランくんが嫌がるのに無理やり私のものにしたい、とは思いません」


あれ、そうなんだ。

さっきのシャーロットの様子を見たら何がなんでも自分のものにするっていいそうなきもしたけど。

思ったより冷静そうで良かった。


「でもアランくんが女の子を侍らせようとするのなら……」


「だからそれは誤解だって!」


「わかってます。でもそんな想像をするととてもじゃないですが耐えられなくて……」


そう言ってシャーロットは顔をうつむかせる。

僕が口を開こうとした瞬間、人差し指で止められた。


「なので絶対に私に惚れさせてみせます。私のことが欲しくてしょうがなくなるまで。私はやっぱりアランくんと相思相愛でいたいので」


そう言ってシャーロットは妖艶に笑う。

そしてちょうど扉がノックされた。

扉を開け看護婦さんが入ってくる。


「そろそろ面会終了のお時間ですよ。回復魔法で治療はされていますがお二人とも怪我人です。安静になさってください」


「はい。ではアランくん。またお話しましょう」


「わ、わかった。僕は病室に戻るよ。またね」


シャーロットは手を降って見送ってくれる。

僕はシャーロットに別れの挨拶をして自分の病室に戻った。


その日の夜、シャーロットの言葉が頭をよぎりなかなか寝付けなかった。

これからどうなっちゃうんだろう……

それにしてもシャーロットすっごく可愛くなってたなぁ……


◇◆◇


僕とシャーロットは三日ほど入院したのち無事退院した。

回復魔法さまさまだ。

多分シャーロットもすぐにこれ以上の回復魔法を使いこなすことになるんだろう。


「アランくんはどこで過ごしてるんですか?」


「僕は学園が手配してくれた宿屋だよ」


「……メアリーさんも一緒ですか?」


「えっ?それは……まぁ……」


「今度遊びに行かせて下さい」


どうやらシャーロットは怒っているわけではないようだ。

確認するだけした、といった感じだろうか。


「それは別にいいよ。シャーロットなら大歓迎だ」


僕が首を縦に振るとシャーロットの顔が輝く。

この3日間はリハビリ、というか身体機能のチェックが忙しくてあまりシャーロットと話が出来なかったのだ。

シャーロットの惚れさせてみせる宣言のこともあるしもう一度ゆっくり話したかった。


「ではこのままついて行ってもいいですか?場所を知りたいので」


「うん。一緒に行こう」


僕はシャーロットと並んで歩き出した。

病室で話しきれなかった昔話に花を咲かせる。

今の話題は7歳のときシャーロットがさらわれたときのことだ。


「あのときは本当に焦りましたよ……アランくんの体からどんどん血が出てくるんですから……」


「あはは、でも最終的にはシャーロットが助けてくれたんでしょ?」


「まだ自分が聖女だって知らなかったのですごくびっくりしました。いきなり光が降ってきてアランくんを包んだものですから」


確かにいきなり光が降ってきたらびっくりするよね。

でもそのおかげで僕は助かったんだから本当にシャーロットには感謝している。


「あ、ここだよ」


「大きなところですね……」


途中道の記憶が怪しかったところがあったけどなんとかたどり着けてよかった。

僕はシャーロットに部屋番号を教える。


「管理人さんに言えば通してくれるはずだよ」


「わかりました」


シャーロットは頷きながら言う。


「それじゃあ今度はシャーロットを送っていくよ」


「いえ、お義父さまが馬車を用意してくださったので大丈夫ですよ。アランくんの手を煩わせるわけにはいきません」


「煩わしいなんて思ってないけどね」


「アランくんは優しいですから」


そう言ってシャーロットは首を横に振る。

確かに一緒に歩いてるとき従者さんを呼んでなにやら話していた。

馬車を停める場所をこの宿にするように頼んでいたのか。

御者さんはシャーロットに気づいたらしく停めていた馬車をこちらに寄せた。


「それでは。また今度お会いしましょう」


「うん。またね」


そう言ってシャーロットは馬車に乗ろうとしたけど途中で止まってまた降りてきた。

そして僕の手を握る。


「浮気はダメ、ですからね?」


「大丈夫だよ」


「……このまま持って帰れたら安心なのに……」


「え?なんて?」


「いえ。なんでもないです。それでは今度こそ失礼します」


そう言ってシャーロットは今度こそ馬車に乗り去っていった。

……極力女の子には会わないようにしよう。

そう心に強く誓った。



そして、次の日の朝。


「おはようございます♡アランくん」


いい匂いに誘われまだ眠い目をこすりながら僕が起きるとキッチンにエプロン姿のシャーロットが立っていた。

一瞬僕は自分の目を疑って固まる。

しかし何度目をこすっても確かにシャーロットはここにいる。


「えっと……なんでここにいるの?」


「我慢出来なくて来ちゃいました」


そう言ってシャーロットは小さく舌を出した。

僕が言葉を失ったのは言うまでもない。



─────────────────────────


砂「惚れさせるってどこまでやるつもりなの?」


シ「もちろん私がいないと生きていけなくなるまでです♡」


砂「……(アランよ……強く生きてくれ……!)」

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