第14話 美人な先輩、霧島 芽依に照れさせられまくる
宮波 美緒を蜂羽 強太のストーカーから守って部屋に泊めた一件もひと段落し、薫の大学生活は日常へと戻っていた。
現在はお昼過ぎ、美緒と瑠奈は講義があるため講義室へと向かい、次の講義を履修していない薫は学部棟のロビーで今日が提出期限のレポートを仕上げにかかっていた。
「はぁ~、ご飯の後でこう暖かいと眠くなるよねぇ」
ちなみに隣では、以前講義で知り合った美人な先輩の霧島 芽依も薫と同じレポートの締め切りに追われている。しかし彼女はノートパソコンに向き合う薫とは違い、銀のメッシュが入ったミディアムヘアをテーブルに垂らして寝そべっていた。
「先輩、早く進めないと提出期限来ちゃいますよ」
「だってぇ、これ以上書くこと思いつかないし眠いんだも~ん」
芽依と知り合ってから時間が経つにつれ、薫は以前よりも彼女と打ち解けた関係になっていた。
芽依がかなりフレンドリーなこともあり、今ではこんなふうに軽口を叩き合う仲である。
「薫くんが手伝ってくれたらやる気出るんだけどな~」
芽依は寝そべったままニヤニヤと笑みを浮かべて薫を見つめてくる。顔に垂れ下がったサラサラな黒髪の隙間から、彼女の綺麗な瞳と目が合い思わず薫はドキッとする。
しかしここで照れたら芽依の思うつぼだ。彼女は事あるごとに薫をからかっては、彼が恥ずかしがるのを見て楽しんでいるのだから。
「お、俺だって、自分のレポートがあるんですから……!」
薫は再び自らのノートパソコンへと視線を動かし、参考書を開く。
しかし、薫に構ってもらえなくなって寂しくなったのか、愛衣は白く細い指先で彼のパソコンのキーボードを適当に叩く。
jきおjkljこ――とかいう適当な文字列が彼のパソコンの画面に入力される。
「ちょっ、芽依さん! ほんとに怒りますよ……!」
「あははっ、ごめんごめん。今のはわたしが悪かったよ」
そう言って芽依は起き上がると、適当に入力した文字列を削除した。むろん、薫だって別に本気で怒るつもりなどなかった。
「薫くんさ、今わたしのこと芽依さんって呼んだでしょ。いつもは先輩ってしか言ってくれないのに」
「そ、そうですか? 意識してないんであんまり覚えてないですけどね……」
「そんなこと言って。本当はずっと意識してたんじゃないの?」
図星だった。ずっと薫は芽依のことをいつ名前で呼ぼうかと密かに悩んでいたのだ。
1人でいるときに練習していたのが無意識に会話の中で出てしまったのだろう。
「~~~!!」
不意を突かれた薫は、不本意ながら芽依に照れさせられてしまう。
「ふふっ、やっぱ薫くん可愛い。からかいがいがあるよ」
「……やっ、やめてくださいよ」
「ごめんごめん、でもおかげでやる気出て来たからレポート頑張ろっかな」
そう言って本気を出した芽依は、薫よりも早くにレポートを仕上げてしまうのだった。
◇
無事レポートを提出し終わり、芽依はサークルに向かうということで彼女とはひとまず学部棟で別れた。芽依は軽音学部に所属しているのだ。
薫はサークルには所属していないし、今日はもう講義もない。現在はバイトもしていないのでこの後はフリーだ。コンビニにでも行こうかと学部棟を歩いていると……。
どんっ――と何かが軽く後ろから薫の体に当たるのを感じた。人にぶつかってしまったのかとあわてて横を見ると、そこに居たのは美緒だった。
瑠奈や芽依なんかはよくふざけて薫にそういったスキンシップをしてくるが、美緒がこういうことをしてくるのはめずらしかった。
「あっ、宮波さんお疲れ様。どっ、どうしたの……?」
「……別に、なんでもないもん」
美緒は少し不機嫌そうに顔をそらし、頬をぷくーっと膨らませていた。どうやら彼女は先程まで薫が芽依と楽しそうにしているのを見て、やきもちを妬いているようだった。
(なんでだろ……今までこんなことなかったのに。薫くんがさっきの美人な先輩と楽しそうにしてるの見ると、なんかモヤモヤする)
最近、強太のストーキングから守ってくれて、部屋に泊めてくれたときから美緒は彼のことを意識してしまうようになっていたのだ。
「えと、宮波さんも今日はもう講義ないんだよね? 一緒にコンビニ行く?」
「…………うん、行く」
その後コンビニで買ったアイスを一緒に食べる頃には、美緒は機嫌を直してくれていたようだった。
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