第13話 宮波 美緒のストーカーを捕まえる

 その後、薫と美緒は準備をしてから一緒に大学へと向かうことにした。


 美緒の服は昨日の夜に洗濯したので乾いてはいたが、今日の講義のテキスト等を準備する関係もあり、途中で美緒の住んでいるアパートにも寄る。


 無事大学へと辿りつき、薫は自分の講義へと向かうことになった。美緒は一限目の講義は履修していないため、大学内のパソコンを利用して課題を進めてるということだ。


「じゃあ、またあとで」


「うん……薫くんありがとね」


 美緒は薫に手を振りながら、今朝の出来事を意識してかどこかぎこちなく、いまだに少し頬を赤らめていた。


 ◇


 一方その頃、蜂羽 強太は大学内を練り歩いていた。


(昨日は薫のやつに邪魔されたが、今日はあいつが講義の時間を狙ってやる)


 先日、美緒がバイトで帰りが遅くなるという情報を盗み聞きした強太は、昨夜彼女が帰るところをストーキングして公園で襲い掛かった。


 しかし、なぜかそこに薫が現れたことで彼は計画を中断したのだ。


(おっ、いたいた……やべぇ、はやく襲ってやりてぇ)


 気温が高いためか、今日美緒はTシャツにショートパンツという格好で腕や脚を露出しており、薄着なため身体のラインもわかりやすい。それが強太の欲情をより奮い立たせた。


 しばらくすると美緒はパソコンの前から立ち上がり、人の少ない廊下へと移動した。トイレか自販機にでも行くのだろう。


 そう予想して強太が尾行すると、彼女は自販機で飲み物を買い始めた。ちょうど周りには誰も人がいない。


 今しかないと思った強太は美緒に近づき、彼女の腕を強引に掴む。


「よぉ、久しぶりだな美緒」


「えっ、ちょっ、やめて……」


 美緒は手を振り払おうとするが、強太の力に適わずつかまってしまう。


「美緒さぁ、あんな陰キャオタクなんかと一緒にいないで俺と遊ぼうぜ」


「ふざけないで! あんたとはもう縁を切ったって言ったでしょ」


「へぇ、そんな口聞いちゃって。今の自分の状況わかってねぇのか?」


 強太は蛇のように長い舌を出して舌なめずりをする。


 気が付くと美緒は、ひとけの少ない通路へと連れてこられていた。強太が体を近づけ、美緒の体に手を這わせようとしてくる。


「やっ、いやぁ……!」


「へへへ……――っ!」


 しかしその瞬間、強太は後ろから腕を掴まれていた。


「はっ?」


 振り返ると、そこには講義に出ているはずの薫がいた。


「薫くん……」


 美緒が泣きそうな潤んだ瞳で薫を見てくる。薫は安心させるように彼女に微笑んだ。


「くそっ、なんでお前が居るんだよ!」


「やっぱり見張っておいて正解だったようだな」


 薫は昨日の夜から、強太が美緒のストーカーなのではないかと推測を立てていた。しかし明確な証拠がなかった。


 そこで、次に強太が行動を起こすとすれば薫が講義に出席していて、かつ美緒が大学で1人になる時間だと考えたのだ。強太はもともと同じグループで行動していたため、薫や美緒の履修している講義の時間を把握している。


(短気な強太なら、昨日邪魔されてすぐに次の行動に移すだろうと思ったが……まさかこんなに早く動くとはな)


 薫には力では勝てないということを、以前返り討ちにあって知っている強太はその場から逃げようとするが、彼の進む通路を塞ぐように大学の職員たちが立っていた。


 強太はそのまま大人たちに連行されていった。

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