第9話 宮波 美緒をストーカーから守る

 薫は大学まで電車で通学をしている。


 大学の最寄駅から数駅分のところでアパートを借りて1人暮らしをしているのだ。家賃はアルバイトで稼いだ給料で支払っている。


 薫の住んでいるアパートは、美緒が1人暮らしをしているアパートとも近いため、彼女と講義の時間が合うときはよく一緒に大学に行ったり、帰ったりしている。


 今日も講義の終わる時間が同じだったため、一緒に駅まで帰って来た。


「じゃあ、わたしこれからバイトだから今日はここで」


「うん。暗いから帰り気をつけてね」


「ありがとう、またね!」


 美緒は駅の近くにあるコンビニでアルバイトをしている。そのため普段はもう少し一緒に帰路を歩くのだが、今日はそこで解散となった。


(俺もそろそろ新しいバイトを探さないとだな)


 薫は今まで飲食店でバイトをしていたのだが、少し前に辞めていた。オーナーがパワハラをしてくるような人間で、耐え切れなくなったのだ。しかし給料はよかったため、しばらくは貯金で生活が出来ている。


(帰ったら久々に求人でも見てみるかな、今度は環境のいいバイトが見つかるといいんだけど)


 そんなことを考えながら、薫はアパートへと向かった。


 ◇


「お先に失礼しまーす!」


 今日のバイトを終え、美緒は職場のコンビニを出る。


(さすがにこの時間になると外暗いなぁ……)


 普段、美緒はもう少し早く上がれるシフトとなっている。しかし、今日は体調を崩して出られなくなったアルバイトの代わりにシフトに入っていたため、すっかり遅い時刻となっていた。


(うわっ、ここ夜だとこんな感じなんだ……)


 バイト先から美緒のアパートへ向かうルートには公園がある。日中は人も多いため明るい雰囲気なのだが、街灯が壊れているのか今は真っ暗で不気味だった。


 それでもここを通らないと遠回りになってしまうため、美緒は気持ち足早に公園を通り過ぎる。


 しかしふと、公園の茂みからガサガサと音が聞こえる。


(えっ、なに……?)


 美緒は早歩きでその場を抜けるが、今度は背後から足音が聞こえてくる。


(ちょっ、やだ……怖い)


 美緒は全力で走り出す。しかし次の瞬間――


「うわぁっ!」


 美緒は何かにつまずいてバランスを崩してしまう。


 地面に打ち付けられる……そう思ったがなぜか思っていた衝撃はやってこず、何かに支えられていることに気が付く。


「宮波さん? 大丈夫……?」


 驚いて目を開くと、美緒を支えていたのは薫だった。


 ◇


「今、ちょうどコンビニに夜食を買いに行こうと思ってて……」


 今日は美緒の帰りが遅いと聞いていた。いくら大学生と言えど女性が1人で夜道を歩くのを案じてのことだったが、薫は美緒にそう伝えた。


 それから2人で美緒のバイト先とは別のコンビニに入ると、ストーカーらしき人物は巻くことができたようだった。


 しばらく2人で買い物をしてからコンビニを出た。


「宮波さん、家まで送るよ」


「うん……ありがと」


 美緒は先ほどの出来事ですっかり怯えてしまっている。薫はもちろん彼女を家まで送ることにした。


 しかし少し歩いたところで、美緒が薫の服をクイクイと引っ張って来た。


「薫くん……やっぱり今日、薫くんの部屋に泊まらせてもらえないかな?」


(えっ!? い、いいけど……)


 薫は自分の部屋に女性を招いたことなど今までになかった。しかもこんな時間から泊まりなんて本当にいいのか。


 そう思ったが、美緒はきっと今ストーキング行為を受けて怯えている。そんなことを確認するだけ野暮だと思い、薫は覚悟を決めることにした。


「わかった、大丈夫だよ」


「ありがと……よかったぁ」


 心底安心したような表情を浮かべる美緒を見て、薫も安堵した。


 そしてここから、美緒と2人きりで過ごす夜が始まったのだった。

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