第8話 西倉 眞澄と再会する
眞澄は藤堂 薫がグループを追放される件があってから可能な限り快児や強太の動きを監視していたが、最近では大学に来なくなっていたので少し肩の力も抜けるようになった。
(グループの女性たちもあいつらとは縁を切ったみたいだし、藤堂くんも最近は楽しそうに過ごしているところを見かける。本当によかった)
そんなことを考えながら図書館に入る。
文庫本が置いてある上の階にあがろうとして、階段を登りかけたとき……。
(あっ、藤堂くん……)
丁度反対側から来ていた薫とすれ違う。大学に入ってから、彼とこんな近くですれ違うのは初めてだった。いつも眞澄が遠くから薫の様子を見ていただけだった。
咄嗟に声をかけようとして、体がとまる。
(今さら声かけても、覚えてるわけないよね……)
眞澄にとって薫は、過酷ないじめから自分を救ってくれたヒーローのような存在だ。だから、これだけ時間が立っていてもはっきりと彼の顔を覚えていた。
けれど、薫が自分のことを覚えているはずなどない。
(こうやって、彼が楽しそうに大学生活を送っているのを見られるだけでも私は幸せなんだ。だから……)
そう思い、通り過ぎようとしたとき……。
「西倉さん……?」
と、すれ違ってすぐに声をかけられた。
「藤堂くん……覚えてくれてたの?」
「もちろんだよ!」
そう言って微笑む彼の顔を見た途端、これまでため込んできた様々な感情が込み上げてきて、眞澄は涙袋が熱くなるのを感じた。
◇
「じゃあ、西倉さんはこの大学の理学部に入ってたんだ」
「うん……だから大学で藤堂くんと会うことはほとんどなかったと思う」
眞澄と再会した薫は、図書館に設置されているバルコニーへと移動して雑談をしていた。薫と真澄以外に人はいないため、人目をはばからず会話ができた。
眞澄と最後に会ったのは中学生のときだった。そのためかなり大人になった印象を受ける。すごく綺麗になったな……というのが最初に感じた印象だった。
青っぽく染まったミディアムボブは肩元にかけて内巻きにウェーブを描いている。お洒落な丸眼鏡も身に着けており、メイクもするようになったためか大人っぽい印象を受ける。
と、会話をしているうちにふと、なにか予感めいたものが薫の脳内に駆け巡るのを感じた。
「そっか……西倉さんだったんだね」
そして、思わずという感じでそんな言葉が薫の口からもれる。
「えっ……?」
むろん、眞澄は何のことかわからず首をかしげる。そんな彼女に説明するべく薫は言葉を続けた。
「最近大学のグループで嫌な出来事があって……そのとき理由があって、大切な友達を遠ざけちゃったんだ」
もちろん大切な友達と言うのは瑠奈と美緒のことだ。
「けどそのあとすぐに誤解が解けて……その2人は俺の中学時代の知り合いが本当のことを教えてくれたって言ってた。それって、西倉さんのことだよね」
「…………うん」
眞澄は溢れ出る感情を必死に押さえ込むかのように、口元を押さえ込んで何度も頷いている。
「ごめん、俺のために大変な思いをさせちゃって……でも、本当にありがとう」
そうお礼を告げた瞬間、眞澄はピンと張り詰めていた糸が切れるかのように嗚咽をもらした。
「……うっ、うぅ……!」
溢れ出る感情の涙が彼女の頬を濡らす。薫は眞澄の肩をさすりながら彼女を見守った。
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