第7話 美人な先輩が話しかけてくる

 昼に食堂で瑠奈や美緒と昼食を取ったあと、薫は2人とは別の講義室へと向かった。


 次の講義は今まで快児や強太と一緒に受けていたものだが、彼らがいない現在はひとりで受講している。


 もともと薫は1人で過ごすのが好きな方だ。


 中学、高校と人間社会のレールにハマっていく中で、ぼっちは恥ずかしいものだという認識からグループというものに依存していたが、それも最近は必要ないと感じ始めている。


 現在も講義が始まるまで1人で文庫本を読んで時間を有効に使う。


「ねね、隣座ってもいい?」


 ふと声をかけられ、顔を上げる。するとそこには、1人の美人な女子生徒が薫の隣の席を指差していた。


 その女性は黒髪のミディアムヘアで、前髪には銀色っぽいメッシュが入っていた。レザーのジャケットにデニムのショートパンツという出で立ちで、バンドでもやっていそうな雰囲気だった。


(綺麗な人だな……確かいつもこの講義を1人で受けてた先輩だったような)


 そんなことを考えながら、薫は隣に座っても大丈夫だという旨を彼女に伝える。


「もちろん、大丈夫ですよ」


「ありがとね。この講義室せまい割に人数多いからさ、毎回席取るの大変なんだよね。3年でこの講義受けてる友達いないしさ」


 この講義は主に薫たちの学年である2年生が受講している講義だ。3年生以上でこの講義を受けている生徒は1年前に単位を取れなかったか、あえてこの講義を履修していなかったかのどちらかだろう。


「わたしは3年の霧島きりしま 芽依めい。君さ、最近ひとりで講義受けてるよね?」


 芽依は初対面でありながらも、近い距離で薫に話しかけてくる。彼としても美人な先輩から接触的に話しかけられ、もちろん悪い気はしない。


「はい、色々あって。あっ、俺は2年の藤堂 薫です」


「そっか、よろしくね。よかったらさ、これからこの講義一緒に受けてもいい?」


「……もちろん大丈夫です!」


 それから、講義の内容を共有することなどもできるように連絡先も交換することにした。


「ありがと、困ったことがあったら連絡するね。頼りになる後輩くんが出来て嬉しいよ」


「えっ、そんな……」


「今までこの講義で話しかけられる人いなかったからさ」


 確かに複数人で講義を受けている人には話しかけるのは非常に難しいものだ。実際、薫も自分より下の学年に混ざって1人で受けている講義があるが、騒がしい複数人のグループには苦手意識がある。


 今まで薫は快児や強太と講義を受けていたため、彼女は話しかけずらかったのだろう。


(でもまさか、俺が最近ひとりで講義を受けるようになったこととか把握してくれているとは……結構見られてるもんなんだな)


 実際薫も、芽依のことを普段からなんとなく1人で講義を受けてる美人な先輩と認識していた。そういうものなのだろう。


 芽依と会話を交しているとやがて教授がやってきて授業が始まる。


 講義中も彼女はわからないところを薫に聞いて来たり、ときには関係ない雑談なんかもして……いつもは退屈で長いと思っていた講義が、気が付くと今日はあっという間に終わっていた。

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